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第001話、初手追放! せめて、ひれ伏せ人類ともっと言わせろ!



 金の切れ目が縁の切れ目。

 そんな言葉があるように、お金というのはとても大事なモノ。

 それは自由に生きる我らネコとて同じ。


 友人と遊ぶ時だって、お酒を飲む時だって、グルメを楽しむ時だって。

 そして!

 ぬっくぬくな毛布を買う時だってお金が必要!


 つまり、われが久方ぶりに人間エリアに降りてきたのも、金が尽きたから!

 そう、我は仕事を探しているのである。

 我らネコの仕事は簡単、人間を癒すことにある。


『このモフモフ麗しボディさえあれば、人間など騙すのは容易い! なぜなら我はネコだからである! ぶにゃはははははは! 証明終了というやつであるな!』


 我の口から覗く牙が、人間たちの街で狡猾に輝く。

 しかし、はてさて。


 人間世界など久しぶり過ぎて、癒し仕事を斡旋している場所が分からず。

 途中で飽きた!

 ついつい、尻尾もさがってしまうというモノ。


 そのまま帰ろうかと思ったのだが、でも、せっかくなら美味しいグルメを食べたい!


 なれど我には金がなく。

 ならば仕事探し!

 結局そこに行き着いて堂々巡り。


 となっているわけで、以上が天才的な我の近況報告である。


 実に分かりやすい。


 そんなわけで。

 我は路地裏を肉球ステップでトコトコトコ♪

 人間をこの可愛さで癒し、メシをたかる――そんな狩り場を求めてさまよい歩く。


 異界より紛れ込んでくる技術で人間のグルメは、なかなかに優れていると聞く。

 その証拠に、漂う香りは絶品!

 時間がお昼時なのでいい香りがするのだが、我の腹は満たされず。


 首都の風は冷たいし。

 路地裏の硬い地面はもっと寒い。

 露店の焼き鳥を、じいぃぃぃぃいいっぃぃいっと眺めるも、店主にしっしっと追い返されてしまう。


 はい減点!

 人間なんて助ける気なくなったぁ!

 我のせいじゃないぃ!


 思わず麗しい猫口から、声が漏れる。


『だいたい! 奴らはネコの奴隷になるべき種族であろうに! けしからん! なぜ我にひれ伏さん、理解に苦しむとはまさにこの事!』


 さすが我。

 魔力で放つ音声まで男前である。


 ちなみに。

 ここは人間達の住まう、えーと……名前は……名も知らぬ国家!

 その首都ヴェルザ。

 中央にダンジョンタワーと呼ばれる観光名所がある、迷宮探索を基軸に動いている都市だそうだ。


 まあ、首都を覚えていたのではなく、街の看板をカンニングしただけである。


 ヴェルザならば、癒されたい人間が大勢いると聞いてきたのだが。

 どこへ行っても門前払い。

 確かに可愛いが、なんか生意気そうだし……偉そうだし、癒されねえよ。おまえに渡せる仕事はないと、そう抜かしおるのである。


 実に嘆かわしいと我は思う。


 しかし、このまま帰るのは沽券にかかわる。

 路地裏散歩の途中で求人募集の看板を見つけ、我はニヒィ!

 丸い口が、つり上がり。


 武器屋の扉を開けるべく、魔力を伸ばし。

 肉球で扉をドン!


『ぶにゃははははは! ひれ伏せ人類! 我を雇うと良かろうなのだ! 三食昼寝付きで、今なら撫で放題なのであるが!』

「なんだ!? おい、バイト! 野良猫が入ってきてるぞ、追い返せ!」


 ……。

 なぜかそのまま追い返された。


 ◇


 そうそう! 防具屋に道具屋に、魔道具屋で追い返されているうちに説明しておこう!

 我の名はイエスタデイ。

 イエスタデイ=ワンス=モア。


 癒しを得意とする、偉大なるネコである。


 種族も、由緒正しきイエネコ。

 鑑定名はラグドール。

 異界から流れ込んできた種族であるらしいが――我の自慢はその白く麗しい獣毛!


 白地のもこもこ毛が特徴的!

 焦げパン色のグラデーションも神秘的!

 これほどカワイイ動物は、他になし♪


 いわゆる我はお猫様、すなわち”神に等しき存在”であるのにだ。

 求人しているから顔を出してやったのに。

 魔道具屋から追い出された我は、冷たい道にズサササササ!


 我は当然毛を逆立て、キシャーキシャー!


『コ、コラ! カワイイネコ様になにをするか、無礼者!』

「おいおい、今はマジでそんな状況じゃねえんだよ。塔から魔物が襲ってきて戦争になるって話、知らねえのか? ネコなんかに癒されてる場合じゃねえんだ、帰ってくれ」


 これである。

 はい、減点その二~!


 閉じられた扉に、ムキー!

 口を三角に尖らせた我は、尻尾を威嚇モードで膨らませ。

 フシャァァァァァァ!


『なーにが! ま、魔獣!? 飼い主か召喚主マスターはいないのかしら~……であるか! 我という存在が自立し歩いておるのだ! はい、仕事でございますね? この絨毯の上でお眠りいただき、三食しっかり食べてかわいいお腹をみせて昼寝していただければ、金貨五十枚をお支払いします♪ ぐらい、なーぜ言えん!』


 ペペペン、ペン!

 思わず路地裏の地面を叩き過ぎて、パッカリ割れちゃっているが。

 ……。

 こ、これは事故であり、些事であり、仔細なし。


『ネコちゃんのちょっとした悪戯は、全部許されるって異界の魔導書にも書いてあったし。セーフ!』

「いたぞぉおおお! あれが街で暴れている魔獣であろう! であえであえ! 冒険者を呼べ」


 あ、まずいかも。

 声は路地裏の闇を抜けた先。

 大通りから聞こえた。


 我にこの街の知り合いはおらず。

 おそらく呼び掛けてくるのは、衛兵とか呼ばれる街を守る連中だろう。

 我はいきなり逃げ出した。


 戦術的撤退というやつである。

 もう既に、我は人間エリアに降りてきたことを後悔していた。


 ◇


 ウィンナーと温野菜の香りに誘われ逃げ込んだのは――。

 いわゆるギルドと呼ばれる場所。

 冒険者とか言う、あのダンジョンタワーの攻略を生業としている、暇人たちの集まりである。


 なぜそんな人類の情報を知っているのか!

 理由は単純である。


 一度顔を出し、門前払いをくらったからだった。


 だから、我、こいつら嫌い。

 口を意味なく、くっちゃくっちゃと蠢かし。

 もふもふ尻尾をクテンクテンと動かしてしまう。

 ギルドの受付娘が我を見て。


「あぁぁあぁぁあぁぁぁ! あの生意気なニャンコ、また侵入してるわよ!」


 我は偉大なので、堂々と長いテーブルカウンターに乗り。

 ドヤァァアァァァァ!


『これ、そこの人間よ! 我がきてやったのだ。お茶菓子の一つでも出んのであるか? それとも、人類という下等種は持て成しという文化すらない野蛮人であるのか!?』


 丁寧な挨拶だったのだが、なぜか知能持つ猿どもが我を見て呆然。

 中にいたのは十数人。

 この施設は酒場も備え付けなのだろう、奥の美味そうな香りを放つ空間にいる連中。その果実酒を持つ手が止まっている。


『ふむ、あまりにも我が美しくて、声も出せぬか。仕方あるまい、我の玉体ぎょくたい、しかと目に焼き付けると良かろうなのだ! ぶにゃはははははは!』


 ふっ、決まった!


 酒場で酒を飲んでいた一人の、スレンダーな盗賊姿の女性が立ち上がり。

 我に近づき、抱き上げ。

 とてとてとて!


 我を捕まえた軽装鎧の女は、ニコニコとしながら手配書を受付カウンターに差し出し。


「はい、街の中で暴れてる魔獣の捕獲依頼、これで達成でいいのよね?」

『ま、魔獣の捕獲だと!?』


 驚愕する我も可愛いわけだが。


『たわけが! この我を見て魔獣など!』

「いや、あんた……路地裏のタイルを破壊してるの見たよ? たまにダンジョン塔から降りてきて暴れる、魔獣そのものじゃない……」


 軽装姿の女はどうやらやはり、鍵開けなどを得意とする中衛クラス、盗賊のようだ。

 遠くを観測する”スキル”と呼ばれる、技能を取得しているのだろう。

 ふむ、見られていたのなら仕方がない。


 我を受け取った受付の姉ちゃんが言う。


「はい確かに、クエスト達成お疲れ様です。しかし、最近になって求人看板を見つけると暴れだす魔獣が潜入したとは……噂には聞いていましたが……なんなんでしょうね、この子。喋る猫ってのも、珍しいですけど」

「さあ、鑑定が使える受付ちゃんが知らないんじゃ、あたしが知ってるわけないし」


 報酬を受け取った女盗賊が、そのまま報酬をほぼ全部酒に変え。

 にひぃ!

 鑑定と言われて、受付娘がキィィィィンと瞳を青く輝かせる。


 これはおそらく、人間どもが扱う魔術だろう。


「鑑定結果は……、ラグドール……ですか、聞きなれない魔獣名です。タヌキと猫の混血ですかね」


 タヌキと思われるのは心外。

 しかし相手は女性なので、こちらも紳士的な対応をしよう。

 それが大人猫のマナーというやつだ。


 報酬や依頼書が並ぶテーブルの上。

 受付娘の前で、我は斜に構えてみせ。


『ちっちっち、マダム――あなたは何も分かっておられないようですな。我は純粋なるネコ種。所々がちょっと丸いからといって、タヌキと同類にされるのはノーグッド。いささかプライドを傷つけられますが?』

「マダムって歳じゃないんですけど? はぁ……ほんとうにっ、生意気ですねえ。それで、タヌキ猫さんはこの街に何をしに来たんですか?」


 問われて我は、更にふふんと髯をピンピンにさせ。


『仕事を探しに来てやったのだ!』

「仕事ですかぁ……タヌキ猫さんは何ができるんですか?」


 ジト目を受けつつも、我は言う。


『ネコの仕事と言えば、カワイイ事。つまり癒し。後は分かりますね?』

「いえ、全然……」


 どうやら今の人類は頭の出来がよくないようだ。

 酒場の連中が見世物をみるように、こちらを見る中。

 我は胸のモフ毛を輝かせ。


『癒しを授けてもよいと言っているのです。さあ、我に癒しを求めなさい!』

「魔獣にですか?」

『なにか問題が? 我は金が稼ぎたい、そして焼き鳥を買って帰りたいのです!』


 受付娘、沈黙である。

 見かねた先ほどの女盗賊がやってきて。


「あはははは、なーるほどね。どっちかっていったらそっちが目当てか。いいよ、あんたを捕まえた報酬の残りをあげるわ。これで焼き鳥を買って帰ればいいじゃない」

『なるほど、つまり我の可愛さに見惚れ、お布施をしたいと?』

「ごめん、あたし犬派なのよねえ」


 敵である。

 そのまま脇から抱き上げられ。

 ポイではなく、丁寧に地面に降ろされ手を振られてしまった。


 追い出されてしまったのである。

 ふーむ、最近の人間は癒しを必要としていないのか。


 しかし。まあ丁寧に下ろしたことと、焼き鳥代をくれたから許そう。

 我はとぼとぼと歩きながら。

 街を見る。


 おいしそうな香りに、じゅるりと喉が鳴るが。

 やはり我は見捨てられ、とぼとぼとぼ……。

 食べたかったなぁ。悔しいなあ。


 ふんと猫鼻から息を漏らす。

 道を歩きながら、病気で寝込んでいる病弱な少女の病を治し。

 足を欠損し、静かに泣いている女騎士の欠損を再生させ。


 我は独り、歩いていた。


『おかしい……ダンジョンと密接に関係しているこの都市は、癒し手が足りず、怪我人で溢れている。治癒やもちろん、解毒。解呪に鑑定(全)。果ては人類ではまだ届かぬ領域である、蘇生の儀式まで扱える我なら、神の如き扱いを受けると言われてきたのでありますが……』


 まあ、紹介してくれたトモダチキャットも、人間世界に詳しいわけじゃなかったからなあ。

 実は我のような癒し職が大量にいて、需要がなかったのかもだし。

 焼き鳥を買って、帰るかな。


 ▽急募!

 王宮からの勅命である、ヒーラーを確保せよ。

 条件:どんな些細な治癒の魔術でも可。解呪まで扱える最上位ヒーラーならば国賓扱いを保障。

 至急、こられたし――これより先、闇の眷属との戦争になる可能性あり!


 そんな張り紙が各所に張ってあるが。

 これは全部、さきほどと同じ卑劣な罠。

 どーせ門前払いされるし、もう飽きた。


 しかしである。

 癒しを求めている癖に、我を追い返すとはこれ如何に。


 賢き我は考える。

 もしや。


『もふもふを眺め癒される癒しと、我が得意とするヒール系統の魔術いやしを勘違いしたのでは?』


 さすがにないか――と。

 人間どもに見切りをつけ、我は帰路に就いたのであった。


 後で癒してほしいと言われても。

 ぜったいに。

 ぜぇぇぇぇぇったいに癒してやらんのだ!


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