死に場所を見失う
「高いね~。ここから飛んだら流石に気、失うかな」
僕を見つめて君は言う。僕は、
「確かに気は失うかもね。だけど、失わなかったときが怖いかな」
下を見ながらそう答える。東京のシンボルともいえる、この場所から。
「気絶しなかったら地獄だな」
彼は笑いながら、そう答える。
彼との出会いは、なんてことない。席が前だったから、それだけだった。
「よく外みてるけどさ。何見てるの」
彼が僕に話しかけた最初の言葉だった。
「空がきれいだなって」
僕は適当に答えた。
「雨降ってるのに?」
彼は、笑いながらそう答えた。
「空はいつだって綺麗さ」
僕は空を見つめながら、彼にそう答えた。
「そうか?雨は嫌じゃね」
彼は会話を止めなかった。僕は、彼が会話を続けてくれたのが嬉しかったのだろう。
「雨だって綺麗だよ。すべてを流してくれそうな雨はさ」
僕は外を眺めながらそう言った。
「そうか~?」
彼の言葉と同時に、授業開始の鐘が鳴った。
「今日も外ばっかりみてるのな」
彼は外を眺めている僕にそう言った。
「気持ちよさそうだしね」
僕は外を眺めながらそうつぶやいた。
「雨なのに?」
彼は、僕に問いただす。
「冷たくて気持ちよさそうじゃない」
僕は、彼にそう答えた。
「雨の中で遊びたい系?」
嗤うように彼は聞いた。
「死にたい系」
嗤うように僕は答えた。
「でもさ、気絶しなくても冷たくて気持ちよさそうじゃない?」
雨音の中で、彼は僕に問う。
「寒そうだし、今はいいかな」
僕は彼にこたえる。
「まあ、それなら仕方ないな。そうだ、飯でも食わねえ?」
彼は僕に問う。
「いいね」
僕は答える。
今日も僕は、死に場所を見失う。
死ぬことは悪いことなのでしょうか。
僕は、死にたいという人に説得することはできません。
生きてほしいとは思います。
ただ、死にたい人にはそれなりの理由があると思うのです。
僕はとなりにいたいと思います。
死ぬ直前まで、僕はとなりにいたいと思います。
その人にとって、それが安らぎとなるのならば。