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とある日の不思議な体験

当作品はTRPGのリプレイです。

ご了承下さい。

 目を覚ますと時計は四時ぴったりを指していた。

 私は決めた時間通りに起きることができる。

 お寺の家系に生まれ子供の頃から修行ばかりしていたからか、いつの間にか身に付いていたのである。


 寝間着からきちんとした服に着替える。

 特に顔を洗ったりはしない。朝食の後は必ず朝風呂に入ることにしているからだ。


 そのまま外に出て、朝の新鮮な空気を胸一杯に吸い込む。

 近くを山に囲まれ、一年中気温が安定したこの地域では朝方に霧が発生する。

 その霧を全て吸い込んでしまうほど、私は大きく深呼吸をした。


 女房はもう起きているのだろうか?


 箒を手に取りそんなことを考える。

 私と違い、低血圧な彼女だ。もしかしたら二度寝しているかもしれない。そうしたらまた私が朝食を作る羽目になるな。


 目についた落ち葉を箒で払っていく。

 住職の日常は掃除から始まる。


「おや?」


 ふと気が付くと、内ポケットに何か入っている。

 なんだろうと取り出してみるとそれは数珠だった。


 苦笑する。


 そういえば、昨日入れっぱなしにして寝たような記憶がある。

 それも仕方ないだろう。今の時期は特に忙しいのだから。



 例えどんなに寝不足でも、例え朝食を毎朝作ることになったとしても、私は今の生活を幸せだと思う。



 どれだけ掃除をしていただろうか。


 そろそろ息子を起こしにいかなければならない。

 私には二人の息子がいる。

 貧乏でまともにどこかへ連れていってやれたりはしていないが、それでも文句一つ言わない素直で良い子たちだ。



 箒を納めようと、ふと周りを見渡すと、霧が視界を覆っていた。

 何も見えない。


 さらに何か悪寒のような物を感じた。

 その直後、体から力が抜けてその場に倒れ込んでしまう。

 何が起きたのか理解する間もなく、私の意識は闇に消えていった。



 ■□■□


「おや?見慣れない場所ですね。」


 思わず声に出してしまうほど動揺していた。

 いつもは独り言など、全く無いというのに。


 私はいつの間にかベッドに寝かされていた。

 周りを見渡すと同じようにベッドに寝かされている若い男を見つける。

 奥の方には扉があり、その上にはテレビが取り付けられている。


 しばらくするとその若い男は目を覚まし、私と同じように辺りを見回した。

 私を見つけ、話し掛けてきた。


「なぁ、ここはどこだ?あんたも気付いたらここにいたって事で良いのか?」


 問いに対し私は頷いて答える。


「そうか。ヤクザの間じゃ誘拐なんて日常茶飯事だけどよ。」


 なにやら物騒な名前が聞こえた。

 聞こえなかったフリをしよう。


「あ、俺は東雲(しののめ)っていうんだ。あんたは?」


「私は井崎(いざき)です。東雲さん、あなたはここについて何も知らないという事でよろしいですか?」


 軽い自己紹介を交わし、お互いに知っていることを話し合う。


「あぁ。俺は気付いたらここにいたんだ。だからここについては何も知らない。」


 私は霧に包まれ、倒れ込み、気が付いたらここに寝かされていました。

 私と東雲さんの状況が良く似ていることを考えると、彼が私をここに連れてきた人ではないのでしょう。


 とりあえず改めて辺りを見回します。

 やはり気になるのはテレビでしょうか。

 しかし遠目に観察しても、特に怪しい感じは見受けられません。


 近づいてみると、ただの市販のテレビのように見えます。


「東雲さん、このテレビどう思いますか?」


 すると彼も近づいてじろじろとテレビを見ます。


「特に怪しい感じは............お?なんだか付きそうだぞ。」


 彼が言った瞬間、突然テレビは電子音を響かせ、黒い男の姿を写し出した。


『よく来たね。僕が君たちを誘拐した犯人さ。』


 出てくるなりとんでもないことを言い出した。


『今から君たちにはゲームをしてもらうよ。僕が作った実験体と殺し合いをするんだ。全て倒し、僕をも倒すことができたなら、君たちを解放してあげるよ。』


 犯人は、屋上には大金を積んだヘリコプターがある事。そして自分を倒すことが出来れば、屋上への扉が開く事を楽しそうに話した。


「ふざけるな!そんな所に隠れてないで降りてこいや!」


『フフ、じゃあ君たちが僕を倒しに来るのを楽しみにしているよ。』


 そう男が言うなり、テレビはプツリと消えた。


「おや、これはまた物騒ですね。」


 物騒も物騒だ。

 殺し合いなど、住職にやらせるものではない。

 私は非力な一般人だ。こういった事は遠慮させて頂きたい。


「くそ!あのゴミクズが!」


 東雲さんはそう言うなり、テレビを取り付けてある扉を蹴り飛ばした。

 扉は勢いよく飛んでいき、その先に階段があるのが見えた。


「落ち着いて下さい。声の言った通りなら、何か出てくるかもしれませんよ。」


 彼はイライラしているようだったが、しばらくすると落ち着いてくれた。


「くそっ。あいつの思いどおりになんてなりたくないが、とりあえず行くしかないのか。」


 そう悪態をついていた。


「ふむ、とりあえず行きましょうか。」


 階段を登る以外にこの部屋から出る方法は無さそうだった。

 大人しく、その実験体とやらと殺し合いをするしか無いのだろう。





 階段を登ると、そこの床には大きく『一階』と書かれていた。

 どうやら先ほどまでいたのは地下だったようだ。


 その部屋の奥には同じような扉があったが、中央に男が立っていた。


 男は私たちを見るなりこう呟いた。


「俺は実験体100号。お前たちを殺して、ここから出る!」


「おや、これはまた物騒ですね。」


 これが合図だったかのように、男は急にキックをかましてきた。

 しかし難なく避ける。


 先に手をあげてきたのはあちらですし、正当防衛という形で、抵抗させてもらいましょうか。


 私は数珠を握り締め、拳を振るう。


 私の一撃は男の顔面に深くめり込み、男にダメージを与える。


 男がよろけている隙に、東雲さんが男の脇腹に強烈な蹴りを入れる。

 骨の折れたような音がしたが、男はなんとか踏みとどまった。


「やりやがったな、てめえらぁぁぁぁぁぁ!」


 男は激昂し、近くにいた東雲さんを蹴りつける。

 しかし東雲さんは冷静に避ける。


「なんだ、そのへっぽこな蹴りは。そんなんじゃ、万年経っても当たらねぇぞ。」


 煽る東雲さんに気を取られている隙に後ろを取る。


「おやおや、暴力はよくありませんよ。」


 間髪入れずに殴り付ける。が、男は衝撃という物を感じていないように、ニヤリと笑った。


「そんな攻撃じゃ、傷一つつかないぜ。」


 先ほどよりも不安定な態勢だったとはいえ、無傷とは何かおかしい。


「おや?これはどうしたことでしょう?」



 東雲さんが先ほどと同じように、男に蹴りを入れるが、それも同じように傷一つつけることが出来ない。


「これは、どうなってやがる。」


 男は不気味な笑みを浮かべながら、今度は私に向かってキックを繰り出してきた。しかし私もまだまだ若い。簡単に避ける。


 このように人に簡単に暴力を振るうような人間は、反省させなければいけないようです。


「私がこの拳で改心させてあげましょう。」


 避けたついでで殴り付ける。


 今度はさすがにノーダメージとかいかなかったようで、少しフラフラしている。


 それを好機と見てか、東雲さんが思いっきり鋭い蹴りを入れる。

 鈍い音が響き、男はその場に倒れた。


 しゃがみこんで首に手を当てると、脈は止まっていた。


「南無阿弥陀仏。」


 寺に生まれた身として、せめて手は合わせてあげる事にした。

 私にはあなたがどんな人生を歩んできたのかは分かりませんが、どうか安らかに眠って下さい。


 東雲さんは私が手を合わせているのを、静かにじっと見ていた。





「さて、彼も死んでしまったようですし声の言った通りなら進んだ方が良いでしょうね。」


 東雲さんは静かに頷き、扉を開けて階段を登った。






 次の階には大きく『二階』と書かれており、中央にはなにやら............


「ば、化け物だ。」


 中央にいたのは骸骨。

 それが独りでに動いているのだ。

 カタカタと骨を鳴らして動くその姿は恐怖を催す。


「おや、これはまた物騒ですね。」


 しかしこういった物の怪を退治するのは私の役目。

 骸骨に近づいていき、数珠を振りかざす。


「とりあえず、悪霊退散!」


 容赦なく殴り付ける。

 相手が人でない分、先ほどより躊躇うことなく殴ることが出来た。


 しかし、骸骨には全く効いていないようだった。


「私の良心が受け入れられないと申すか!」


 人がせっかく成仏させてあげようと言うのに。


「おいおい、井崎さんよ。しっかりしてくれよ。」


 骸骨は東雲さんに向かって手を振りかざし、殴り付けようとするが、東雲さんに避けられてしまう。


 東雲さんはすれ違いざま蹴りつけようとしたが、避けられてしまった。


「東雲さんも。当たってないですよ。」


 骸骨の態勢が崩れている隙を狙って殴ろうとする。

 しかしなぜか足がもつれてその場で転んでしまった。

 頭を強打し、隙が出来てしまった。


「しまった!」


「大丈夫か!?」


 心配する東雲さんの背後に忍び寄る骸骨。

 隙をつかれて殴られてしまう。


「ぐっ、こいつ!」


 その間になんとか私は態勢を立て直す。


「ここは一旦落ち着きましょう。」


 深呼吸をし、狙いを定めて、思いっきり骸骨を殴り付ける。

 しかしダメージが入っているようには見えない。


「やはり、この悪霊には何かあるようですね。」


 骸骨はケタケタと笑うように骨を鳴らしながらこちらを殴ろうとしてきたが、少し距離を取ると、やめてこちらを見てきました。


「おい、もしかしたらこいつ。」


 東雲さんが何かに気が付いたようだ。

 その瞬間、骸骨が東雲さんに向かって走り始めた。


 私はそれを止めようと同じように一歩踏み出す。

 するとなぜか足がもつれて、頭を思いっきり強打した。


 流血しました。


 しかしすぐに起き上がり、東雲さんに注意を促しました。


「やはりこの悪霊には、人を転ばす力があるようです!気をつけて!」


 私が大声を出したからか、骸骨はこちらに向かって拳を振るう。

 避けられない私を東雲さんが割って入る形で庇った。


「す、すみません。」


「俺は大丈夫だ。立てるか?」


 東雲さんは私を立ち上がらせた。

 骸骨はその間に離れてケタケタと笑っています。


「この、くそ野郎がぁぁぁ!」


 東雲さんは叫びながら強烈な蹴りを骸骨にお見舞いしました。


 骸骨は避けることも出来ず、ノーガードでその蹴りを受けてしまいます。

 その瞬間、蓄積したダメージからか瞬間的なダメージからかは分かりませんが、骸骨は爆散しました。


「なんと!やりましたよ、東雲さん!」


 やはり東雲さんには骸骨の弱点が分かっていたようです。


「あぁ。しかし井崎さん、相当出血しているぞ。」


 そう言うと彼は応急手当てをしてくれました。

 血は止まり、体は怠いですがなんとか動けます。


「東雲さんこそ。すみません、庇ってもらって。」


 私はそう言うと、同じように応急手当てをしようと思いましたがなぜだか不吉な予感がしたので途中で止めておきました。東雲さんは軽傷だったので良かったです。



 お互いに手当てをしあって、次の扉を開けます。

 重い体を引きずって、なんとか階段を登りきるとそこには男と新たな化け物がいました。


 その化け物は、頭は鶏、体はライオン、尻尾は蛇になっていた。

 その化け物が男の傍らに二体。


「おや、これはまた物騒ですね。」


 しかし私たちはもうそんなことでは動揺しません。

 すると男が口を開きました。


「やぁ、よく来たね。下の実験体や副産物を倒して僕の元までやってくるとはすごいじゃないか。」


 この声は、私たちを拐った犯人のようです。


「おい、お前が俺たちを誘拐したやつだな!」


「そうだよ。僕は科学者でね。人を集めては実験をしていたのさ。」


 なんとも理解し難き思考。


「この子たちはキメラのニオンジャ。実験で生まれた副産物さ。君たち二人が僕を倒すことが出来たら屋上にあるヘリを使って逃げると良い。ヘリの中には100億円、入っているよ。でもまぁ、先にこのニオンジャたちの相手をしてもらおうか。せいぜい頑張って。」


 男がそう言い終わるや否や、キメラたちが襲い掛かってきた。


 その鋭い爪で引き裂こうとしてくる。


 私は咄嗟の判断で避けた。

 あれは当たれば即死してしまう。そう理解できた。


 見ると東雲さんもキメラの爪を躱していた。


「ふっ、遅いですね。」


 当たらなければ造作もない。


「あっそ。じゃあ、僕も攻撃しちゃおうかな。」


 そう言うと男は東雲さんに向かって蹴りを繰り出してきたが、東雲さんは危なげなく避ける。


「へぇ、僕の攻撃を避けるなんて。やるじゃないか。」


「は!そんなショボい蹴り、当たるわけないだろ。」


 感心している犯人に東雲さんが吐き捨てるように言った。


「私の鉄槌を喰らいなさい。」


 私は数珠をしっかりと握り締め、キメラに殴り掛かる。

 鈍い音が響き、キメラが仰け反る。


「コ、コケェェェェェ!」


 つんざくような悲鳴をあげるキメラ。


「ふっ。やはり先ほどの悪霊よりも弱いようですね。」


 確かにあの爪を喰らえば一撃で死んでしまうかもしれませんが、注意さえしていれば避けれないことはありません。


「やべぇなこの坊さん。」


 東雲さんも私に続き、同じキメラに蹴りを加える。

 蹴りは深く入り、キメラは目に見えて苦しがっているようだった。


 しかしキメラはすぐにお返しと言わんばかりに、東雲さんに襲い掛かる。

 東雲さんは間一髪で避けた。


 しかしもう一体のキメラが横から東雲さんに襲い掛かる。


「東雲さん!避けて下さい!」


「!?」


 東雲さんはすぐに気付き、体を捻るようにして避けた。


 さらに男が東雲さんを蹴りつけようとする。

 東雲さんはそれすらも避けてみせた。


「おや、人気者ですね。」


 思わず口に出てしまう。


 しかしあのように連続して攻撃されると、次は避けきれないかもしれませんね。あまりやりたくは無かったのですが。


 私は数珠を足に巻き付けた。


 本来、数珠はこのように扱って良い物ではないのだが、致し方無し。仏様もきっと許してくださるに違いない。


 私はそのまま、不意をつく形でキメラに蹴りを入れる。

 先ほどより強いダメージを与える事が出来た気がする。


「ああああああ!苛つく!」


 連続して攻撃された東雲さんは怒りのままに強烈な蹴りをキメラにお見舞いした。

 それはまるで車にでも撥ね飛ばされたかのように、きれいにキメラは壁まで吹っ飛ばされた。そして動かなくなってしまった。


「や、やりました!東雲さん!」


 ようやく一体のキメラを倒すことが出来た。

 これでようやく二vs二の戦いに持ち込めたのだ。


「お、おう。やったぜ。」


 東雲さんも軽くガッツポーズを取るが、すぐに男を睨み付ける。


「やるじゃないか、ニオンジャを倒すなんてね。しかもまだ一度も攻撃を受けていないじゃないか。さすが、ここまでやってきただけのことはあるね。引き続き頑張ってね。」


 そう言うや否や、もう一体のキメラが私を引き裂こうとしてきました。

 しかし先ほどと違い、敵の数が減っているのもあり、簡単に避けることが出来ました。


「やはり遅いですね。」


 私はそう言ってキメラの頭に狙いを定める。

 本来、住職は拳を使って戦う職業ではないし、足を使って戦う職業でもない。東雲さんのようなヤクザはこういったことに慣れているかもしれないが、私は違う。しかしなぜ私は東雲さんと同じように戦えているのか。その理由は至ってシンプル。


「私は元サッカー部ですよ?」


 キメラの顔面に私の蹴りがめり込む。

 数珠を装備しているのもあって、破壊力は十分にある。


「やるねぇ。じゃあ俺も。」


 東雲さんが私に続くように、素晴らしい蹴りを入れる。


 やはり彼は軸足の大切さを理解しているようです。

 きれいに線を描いて、一切のブレもなく、キメラに突き刺さりました。


「ゴ、ゴゲエエエ!」


 相当苦しんでいるようだ。

 可哀想に。今すぐにでも成仏させてあげなくては。


「なら次は僕が━━」


 男がこちらに攻撃しようとした瞬間、突然男が発火した。


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 私は一体何が起こったのか、さっぱり分からなかった。

 おそらくそれは東雲さんも同じだろう。

 しかし、敵が苦しんでいるということは私たちが有利になるということ。


「どうやら天罰が下ったようですね。私の信仰心の力です。」


 仏様が私たちに力を貸してくださったのでしょう。

 ありがとうございます。


「なんだかよく分からねぇが、今のうちにやっちまおう。」


 東雲さんの合図で私たちは攻撃に移ります。

 しかし男が燃えているせいで、近づくことが出来ません。

 その間に東雲さんはキメラを攻撃しました。


「おらぁ!」


 鈍い音が響き、蹴りがキメラの顎に入ります。

 するとキメラはピクピクと数度痙攣をして、その場に倒れ込んでしまいました。

 どうやら気絶したようです。


「やりました!東雲さん!」


 これで残っているのはあの男だけです。


「後はこいつを倒せば!」


「ぐっ、もう一体のニオンジャを倒したか。じゃあそろそろ本気を出そうかな!?」


 男は燃えながら素早い動きでこちらに近づいてきました。

 どうやら狙いは私のようです。

 しかし男のスピードは分かっています。


「見切った!」


 男の攻撃を完全に避けた............つもりでしたが。




「ぐ、ごふ。」


 私の腹には拳が刺さっていました。


「大丈夫か!?」


 東雲さんが急いでこちらに駆け寄ってきます。

 しかし私の意識は、朦朧としてきました。


「急いでなんとか、━━を。━━━たれ、━━だ!」


 言葉が聞こえづらくなってきましたが、おそらく東雲さんが男を牽制しながら手当てをしてくれているのだと思います。




 意識が遠退いて行きます。




 何か、聞こえます。


 何か、見えます。


 東雲さんが男の攻撃を躱し、男を攻撃します。

 しかし男にはあまりダメージは入っていないようです。


 男は唾を地面に吐き捨てると、私の頭の上に足を置きます。


「どれだけ足掻いても無駄だよ。君もすぐにこの仲間と同じように、地面に伏せることになる。いや、仲間というかは知り合い?あぁ、知り合いでもなかったね。初対面か!」


 嘲るように言う男に、東雲さんは激昂する。


「ふざけるな!ヤクザの世界ではなぁ、一回一緒に戦った奴は仲間(ダチ)なんだよ!だから俺と井崎はもう仲間(ダチ)だ!」


 東雲さんは男を蹴る。


 しかし男は全く微動だにせず、私の頭を踏みつけた。

 ミシミシと軋む音がする。


「うおおおおおおおお!」


 東雲さんは男を退かせないと分かると、肩で男にぶつかり押し倒した。


「っ!邪魔だ!」


 東雲さんは男の尋常ではない力によって蹴り飛ばされてしまう。


 しかし私は先ほどの東雲さんの言葉で目を覚ました。

 体は悲鳴をあげているが、もう既に血は止まっている。



 動ける!



 男は背後を向けている。

 油断している男に私は精一杯、ありったけの力を込めて蹴りを放った。


 ズドン!という音が響き、男が地面に倒れる。

 まだ死んではいないようだが、相当なダメージを負ったようだ。


「━━やってくれたね。」


 男は私の方を向き、肩を怒らせながら私を攻撃してきた。



 避けられない!



 思わず神に祈った。


「させるかよぉぉぉぉ!」


 東雲さんが後ろから男を押し倒す。

 またもや命を救われたようだ。


「す、すみません!」


仲間(ダチ)を守るのは当たり前だ。それより、来るぞ!」


 見ると男は少し離れた所から、私たちを睨み付けていた。


「本当にイライラさせてくれるね。君たちは特別に、僕の炎の異能で焼き付くしてあげるよ。」


 そう言うと、突然男の足から炎が燃え上がった。

 しかし先ほどとは違い、苦しんではいない。


「お前は一体、何者なんだ。」


 吐き捨てるように言った東雲さんの言葉に男は律儀に答える。


「僕?僕はただの科学者さ。色んな研究をしてきたんだけど、飽きちゃってね。今は研究で出来た副産物や実験体を使って遊んでいるんだ。だけど、どいつもこいつも使えない奴ばっかりだった。炎の異能が使えたのは楽しかったけどね。」


 いや、男はただ自分に酔いしれ自分語りをしているだけだ。


「さて、そろそろ終わらせよう。言っただろう?焼き付くしてあげるって。」


 その瞬間、男は消えた。




 先ほどまでとは比にならないスピード。





 しかし、なぜか私は見えたのだ。




 男が繰り出す攻撃が。












 刹那








 避けた。




 服の端が男の炎によって少し焦げた。

 しかし、それだけだ。


「はぁぁぁぁぁ!」


 私は渾身の力を込めて蹴りを放った。

 しかし男は超スピードでそれは避けた。


 しかし━━





「今です!東雲さん!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」




 東雲さんの蹴りが、男に命中した。


 体の奥底から引き出した力が男を壁まで吹き飛ばす。



 激しく音を立てながら、男は壁にめり込み動かなくなった。











 お互いの息遣いだけが聞こえる沈黙の時間。






 倒した。





「東雲さん!やりました!」

「いよっしゃああああああああああああああ!」


 跳び跳ねて雄叫びをあげる東雲さん。

 無意識に両手を合わせ、仏様に感謝する私。

 親子ほども歳が離れた私たちの間には、このゲームを通して絆が生まれていた。



 気が付くと扉が出現していた。


「東雲さん、扉ですよ!行きましょう!」


「ああ、行こう!井崎!」



 扉を開け放つと、そこはヘリポートだった。

 ヘリが一台置いてあり、それには途方もない大金が積まれていた。







 その後のことは、あまり覚えていない。



 ヘリを使いなんとか家に帰れたことと、大金を手に入れたということ。私はどうやら一日行方不明となっていたこと。


 分かったことはそれだけだ。



 あの不思議な体験を話したとしても、誰一人信じないだろう。

 いや、信じる人ならいる。


 東雲さんだ。


 彼のおかげで私は生きていると言っても過言ではない。

 いつかまた会えたら、お礼を言いたいと思う。

 このボロボロになってしまった数珠も、大切な思い出の品となった。


 大金を手にしたことで、もう息子たちにも辛い思いをさせずに済みそうだ。




 私はこの体験のことを、きっと日記に書くだろう。

 しかしそれにはなんの誇張も含まれていない。


 全て現実に起こったありのままの事実なのだから。

KP 前てんパ さん


PL1 枢機卿 さん

キャラクター 東雲 津造

天道組幹部(ヤクザ)


PL2 ALT・オイラにソース・Aksya さん(作者)

キャラクター 井崎 佐武郎

住職


当作品はTRPGのリプレイです。

ご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シナリオでの出来事を余すことなく、そしてかっこよく、時に数珠を使って殴ったり蹴ったり。セリフなどをどうやって書くのか気になっていたのですがめちゃくちゃかっこよくて叫んでました。はい。ありが…
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