あんた、死んだのかい
そうして俺たちはハンターハウスに到着した。
この裏手に保管所はあるのだ。
シリアルはさっきからずっと無言で誰とも顔を合わせようとしない。
いつも明るいこのパーティーには似合わない空気に俺は、息苦しさを感じていた。息はしていないが。
もう夜だがギリギリ空いていたようだ。ただ、片付けをしている最中だったようで、扉を開けて中に入る姿を見るやカウンターの中にいる30歳ぐらいの女性にものすごい形相でにらまれた。
「あんたら、今日はおしまいだよ!今日が期限の依頼でも明日の朝に持ってきな!!ただでさえ今日は忙しかったてのに...ほぉら、帰った、帰った!」
そういって手のひらを払いう仕草をし、作業に戻ろうとしていた。
「バーニラ...俺たちは保管所に用があるんだ。それでも明日の朝じゃないとダメか?」
そうフレークが言うと女性はこちらに顔を向け、肩に担がれている俺を見た。
眉を吊り上げ、目を大きく開く。
「...あんた、死んだのかい。」
ああ、死んじまったよ。シリアルを死んでも守るなんて言ったとき、バーニラさんは"死ぬなんて言うんじゃないよ"なんて言って叱ってくれた記憶が思い起こされる。
せっかくの忠告も全く活かせなかった。いま喋れるとしたら、ものすごい剣幕で怒られるんだろうと思うと見えなくてよかった、なんて思いながら申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「分かったよ、ちょうど明日の朝に連絡員が来るから今から入れてきな。ついでに登録解除もやっておくから、プレートを出すんだね。」
そういわれるとコーンの持つ俺の体からフレークが首飾りを取る。それは真っ黒で何も書かれていない板であった。それは人の魔照を感知し、その人の特性を映し出す魔照伝導具である刻印魔照板のことだ。そしてこれは俗にプレートとよく言われている。ハンター連合はこの刻印魔照板をハンター登録時に個人に貸し出して、この板に書かれている情報をもとにハンターを管理しているのだ。
シリアルの刻印魔照板はきれいな白色でライトパターンの特性があることがうかがえる。コーンは赤のファイアパターン、フレークは青のウォーターパターンだった。
このように、本来なら色が付き何かしら描かれているのだが、今の俺の刻印魔照板は貸出時の時と同じ真っ黒である。
「あ、明日だって!?もうちょっと遅くてもよかったのによぉ...」
「次の連絡まで置いておくことは出来ないよ。悪いけどルールなんでね。」
早く持っていかなければ死体は腐り、虫が湧く。昔、残していた死体が原因で疫病が発生した事があり、連絡員の来た時に必ず持っていくというルールができていた。ルールができた当初は多少の反発もあったが、10年以上が経った今ではどのハンターにとってもそれは常識である。
「サッサと行って、お別れしてきな。」
「ああ」
「ウイっす...」
「......」
「辛いだろうが、ハンターなら誰しもが通る道さ。...おい、アーモン!保管所開けてやれ!」
バーニラが後ろの扉に向かって声をかけると、奥から男性が出てくる。
その男は面倒臭そうな顔を隠しもしない様子であった。
「こんな時間に追加のしごとぉ?勘弁してほしいけどなぁ。ただでさえ人手が足りないってのに。俺の寝る時間が...」
「扉開けて締めるだけだろう!早く行け!」
バーニラは腰の金具から腕くらいは入りそうなキーリングを外しアーモンに渡す。
この町でも問題児として有名なアーモンは、日が落ちていてもその実力を遺憾無く発揮していた。
アーモンはバーニラに言われると半目で俺たちを見た後に、大きくため息をつく。
「急いでいきまーす」
そのまま彼は裏の部屋に戻る。
本来なら死体保管業務は案内も兼ねているはずなので、玄関の扉から出てハンターと一緒に裏に回るはずなのだが、アーモンは職員のみが通れる勝手口から出て行ってしまったようであった。
「全く、ため息をつきたいのはこっちだよ...悪いね」
「バーニラさんが謝ることないっすよ」
コーンはバーニラにそう言ったが、表情は苦虫をかみつぶしたような様子で、拳には力が溜められていた。