成仏できましぇん!
どうやら俺は死んでしまったようだ。
なぜそんなことが分かるかって?
それは、俺自身が仲間が泣きながらゆすっている俺の体を上から見下ろしているからだ。
叫び、ひどくうろたえながら回復魔法をかけているようだが、何度もかけなおしているところを見ると俺の体は手遅れなんだろう。命あるものには等しくかけることが出来るはずの回復魔法が起動しないのだから。
見ている俺自身も、死にたくはなかったので頑張って元のさやに戻ろうとしてみたのだがそれはかなわず、はじかれるように空中に浮いている。
だがなぜ、自身の体の近くに俺の魂が存在しているのだろう。このまま神の御許に行くことも許されないことを何かしたのだろうか。このままここにいては周囲の魔照を吸収して、ゴースト系のモンスターになってしまうかもしれない。
死ぬ覚悟はしていたがモンスターになって自我を失ってさまよい続けることは恐ろしかった。
何より、こんなにも悲しんでいる仲間に追い打ちをかけるようなことには絶対にしたくなかった。
手も動き足も動いたが、足は地面をけることはできず手も何もつかむことはできない。
そして移動することすらも出来ず、俺にはただただモンスターにならないことを祈るしかない。
そうやって祈りながら待っていると、泣いている仲間を別の仲間が引っ張り、もう一人が俺の体を運んで行った。
もう日も暮れて長い。街に戻らなければ野宿する羽目になるだろう。
幸いにも街は近い。
俺の仲間は魔物たちに襲われたりする前に街につくことだろう。
なんて思っていたら、俺の死体の移動に合わせて浮いている俺も引っ張られている。
俺は俺自身の体にとり憑いたかのように死体から離れられないようだ。
そうして俺は、仲間とともに街へと向かっていくのであった。
俺たちは踏みならされた道を暗い空気で歩いていく。
「なんで私たちに何も言わなかったの...」
仲間たちの最後尾で涙を流しながら歩いていたシリアルが唐突につぶやいた。
声がわずかに震えており、その手にも力が入っている様子であった。
そんな姿を見てもほかの仲間は何も答えず、無言のまま歩を進める。
「私もコーンもフレークもどうして気づけなかったの!?」
そういいシリアルは前を歩くコーンとフレークに顔をあげて攻めるようにまくしたてた。
しかし、フレークの肩に担がれている俺の姿を見ると、思い出したのかのようにまた泣き出だす。
なにか一言ぐらい言ってから別れた方がよかったと後悔しそうになったが、絶対止められただろうと思いなおし、これでよかったんだと自分に言い聞かす。
そうでもしないと、この時間を耐えることが俺にはできなかった。
街につき、見張りの衛士に事情を説明してからすぐにハンター死体保管所に向かう。
ハンター死体保管所というのはその名の通り、ハンターの死体を保管している建物である。
保管所といえば聞こえがいいがその実情は、ハンターの死体と街に住むものらの墓地とを分けるための物であった。
ハンターは世界中にはびこっている魔照の塊であるモンスターを狩る、何でも屋のような仕事である。
それゆえにどこで死んでもおかしくない。
その死体は魔照に侵されているとして敬遠されていたのである。
そして、定期的に来るハンター協会連絡員がついでと言わんばかりに、専用墓地からハンター提携の中央聖堂協会まで死体を運んでいく。
ハンターたちは死んだあと墓地を選ぶ自由すらもありはしないのだ。
大金を積むなどの一部例外はあるが。
俺たちのパーティーにそんな大金などあるわけもないし、あったとしてもパーティーの大事な資金だ。
当然、今ここで使うわけにはいかない。はずなんだが...
「お願いッ、グラノーを二等墓地に入れさせてッ!!!」
「だめだ」
「そうだよ、この金がなくなったら俺たちパーティーは行きゆかなくなっちまう!」
「お、お願い...」
「コーンの言ったとおりだ。大体、この金がなくなれば明日の補給はどうするつもりなんだ?
お前たちがアジット村の唯一の生き残りだったことも知ってるが、あいつはもう死んだんだ。それよりも生きている俺たちの明日の方が大事なんだ。ハンターならわかるだろうう?」
「うっ...、でもグラノーが!!」
「だめだ」
「...ああは言ってるけどフレークも俺もつらいんだよ。分かってくれよ、シリアル...」
そうだぞ、死んでしまった俺よりも生きていくことを考えるべきだぞ。聞き分けよくしてくれよな?
いつも俺といるときはそんなにわがままじゃないかったんだがなぁ。
俺のことを思ってくれていることに嬉しい反面、過去にとらわれていることに少し心配になる。
黙り込んでしまったシリアルをコーンが引っ張りながら、パーティは保管所向かっていった。