第九話「マイペース妖精少女、その名は…」
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「よし、こんなもんかな」
目の前に並ぶのは瓶詰めされた大量のマヨネーズ。
「楽すぎてつい作りすぎちゃった。こんだけあれば流石に商売として成り立つ…よね」
ストレージに出来た物を入れながら、そんなことを呟く。
それにしても何だか少しフラフラするなぁ…。
「疲れた…少し、休も、う…」
ベッドにパタリと倒れ込み、目を瞑った途端に私の意識は遠のいていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目が覚めたのは、周りがよく見えない時間帯だった。あれからどのくらい寝ていたのか正確には分からないが、先程まで昼間だった事からかなりの時間眠ってしまっていたのだろう。
「やば、今何時?…って、時計ないんだった」
それにしてもお腹空いた…お昼食べてないし。人参スティックだけじゃ流石に満たされないよ。
幸い、フラフラとした感じはもう無い。ドアの隙間から漏れる光を頼りに、しっかりとした足取りで部屋を出る。
…電気ってあるのかな。足元がよく見えなくて転んじゃいそう。
カチャ
廊下はぼんやりとした複数の蝋燭の光で照らされていた。
なるほど、蝋燭か。…ランタンだっけ?何でもいいけど、後で買ってこよう。
上方にある灯りを眺めて歩いていたら、急に下半身に衝撃を感じた。
ドンッ
「キャッ」
「わっ…」
下を見ると、子供らしき影がペタンと尻もちをついていた。
「ごっ、ごめん!大丈夫!?怪我ない!?」
一瞬遅れて自分がぶつかってしまったのだと理解し、慌てて目の前の子の安否を確認する。
「大丈夫。こちらこそごめんなさい」
立ち上がった子は子供というより小人だった。五歳くらいの子供の背丈でありながら、頭身は私となんら変わりない。ぼんやりとした光の中でも分かるほど端正な顔立ちをした少女だった。
その異様さに息を飲んで固まっていると、少女の方から話し掛けてきた。
「…あぁ、妖精族を見た事ないんだね。でも珍しいからしょーがないね」
少女はうんうんと一人で納得している。
「よ、妖精族?」
一方の私は何が何だか。妖精族って?珍しい?確かに街中でこういう人は見掛けなかったけど…。
「ん?妖精族、知らないの?」
「う、うん」
「妖精族はね、私たちみたいな人の事よ。リンフュルノスト大陸には全然居ないの。もしかしたら私だけかも?妖精族はファージ大陸に沢山いるのよ。精霊もたっくさんなのよ」
「りん…何て?」
「リンフュルノスト大陸よ。この大陸の名前でしょ?ふふ、私の方が物知りね」
目の前の少女はそう言って微笑む。
「来て、色々教えてあげる。私はレイティア」
「わっ、ちょっ」
少女がその小さな両手で私の腕を掴み、クイクイと引っ張ってくる。か弱そうに見えるのに、その力は普通の人と変わらなかった。その結果、体制を崩しそうになる。ただでさえこの身長差だ。
「あらら、ごめんね。大丈夫?」
今度はパッと手を離す少女──もといレイティア。
「えっと、大丈夫…」
「そう、良かった。こっちよ、私の部屋」
「あ、あの、私夕飯食べようと思って、て…」
「あ、そうね、そうだった。ご飯、大切よね。私も行こうとしてたの」
思い出したように両手を合わせてそう言うレイティアは、次いで笑顔でこう言った。
「行きましょ」
「うわわっ、ま、待って待って!」
またもや腕を掴んで移動する彼女に制止の声を掛けるも今度は止まってくれず、私はそのままズルズルとダイニングに連れていかれた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「………」
隣に座る小人少女は無言でモムモムと夕飯のパンを頬張っている。小さな口にめいっぱい頬張っているので、まるでハムスターだ。
「ングング…ゴクンッ。…食べないの?」
「へっ?あ、食べる、けど…」
「そう?食べないなら食べるから言ってね」
小人少女はそう言って自分の食事を再開する。
出会ってからずっとこの子のペースに巻き込まれ続けてる…。ていうか、マイペースにも程があるでしょ!!ヤバいってこの子、完全に不思議ちゃんとかそういう感じの子じゃん。妖精族とか言ってたし…ファンタジー種族だからこんな感じなの?いや妖精だから?もう分から〜〜〜ん!誰か助けて!食事始まってからさっきの言葉しか交わしてないよ!!
「食べないの?」
「んっ!?」
いつの間にか超近距離に美しい顔が迫っていた。この子パーソナルスペースも分かってないよ!近い!
「ちっ、近いよ」
「ん、ごめんね」
元の位置に戻る少女。戸惑いが隠せない私。どう考えてもカオスな空間。
「食べる、食べるんだけど…君、何なの?えっと、妖精族なのは分かったんだけど…」
「レイティア」
「それも分かってるよっ!」
ついツッコミを入れてしまった。一方の小人少女は何が不満なんだと言いたげな表情。
「だから、職業とか…どうして私に絡むのかとか…」
「職業は商人。あと冒険者。…魔法使い?かな」
商人!?…この不思議ちゃん全開な性格で大丈夫なのかな…。あと魔法使いだったんだ。
「貴方、この世界の子じゃないでしょ?だから一緒に居たいなって。楽しそうだから」
「ブフォッ」
口に入れていた物を吹き出してしまった。けど無理もない。
「ゲホッゲホッ…」
「あらら、大丈夫?」
「なんっ、わたっ…」
「落ち着いて。またむせちゃうよ?」
いやいやいや、落ち着くとか無理だから。
私は小人少女の耳に顔を近付けて、極力小声で話し掛ける。幸い周りは相変わらず賑やかなので聞かれる心配は無いと思う。
「何で私がこの世界の人間じゃないって…!!」
「妖精族は分かるのよ」
妖精族凄すぎない!?
「お、お願い…私が違う世界から来た事は黙ってて…ください…」
「言わないわよ、そんな事。言ったら大変な事になるんでしょ?ずっと前にこの世界に来た子がバレちゃって、大変になってたの。私、知ってるのよ」
た、大変になってたって…。大体想像出来るけど怖すぎ…。
とにかく、この子が話の通じる不思議ちゃんで良かった…。
「ありがとう…」
「いいのよ。だって一緒に居たいもの。連れてかれちゃったら嫌なのよ」
連れてかれる!?どこに!?
「それより、ご飯食べないの?食べないなら貰うけど」
小人少女は私の食事を指してそう言った。
え、それどころじゃなくない?ていうか、どんだけそれ聞くの!?食い意地張りすぎじゃない!?
「たっ、食べる!食べるから!」
遠回しに急かされた気がして、急いで夕飯を食べる。その間、じっ…と小人少女に見られていてかなり食べづらかった。
「…ぷはっ、ごちそうさまでした!」
最後に水を飲み干して手を合わせる。すると小人少女は待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「ちょっと残念。でもいいの。ね、行きましょ。私の部屋」
「ハァ…分かった。けどその前に片付けよう?」
「勿論よ」
この子相手に断るのは無理だと悟った。それに、今断って異世界から来たなんてバラされたら終わる。
「うん、よし。じゃあ行きましょ」
「うん…」
私は小人少女に連れられ、ダイニングを後にした。着いた小人少女の部屋は私の斜め向かいの部屋だった。
部屋に入ると小人少女はベッドに座り、私に自分の横に座るようジェスチャーで現した。具体的には、自分の横を片手でポスポス叩いた。それに従って隣に座る。
「…そう言えば、名前なんていうの?」
小人少女がそう尋ねてきた。普通は最初にするもんじゃないのかという言葉は飲み込む。
「リオ」
「リオね。フルネームは?違う世界の子はフルネームでしょ?」
うっ、そんな事まで知ってるのか…。
「天谷里桜…こっちだとリオ・アマガヤかな?」
「私はレイティア・フィルフィオ。普通の妖精族よりも精霊に近いの。だから、魔法も沢山使える」
「精霊に近い…?」
「妖精族は神様が精霊を人の形に変えた一族。だから、精霊と妖精族は友達。あ、数は少ないのよ」
「なるほど…?」
「けど、純粋な精霊じゃないから、精霊の力を借りないと魔法は使えない。そういう一族。だから精霊が沢山いるファージ大陸に住んでる」
なるほど、そういう事か。だから全然見なかったんだ…。というか、この子が初めて見た妖精族だし。
「けど私は別。精霊に近いから、別の大陸でも問題なく生きられる」
「え?妖精族って、別の大陸だと生きられないの?」
「正確には快適に生きられない。妖精族はファージ大陸の環境が心地良い」
うーん…?分かったような、分からないような。
「でも私は特に問題ない。それに、この大陸には…」
「…この大陸には?」
「美味しいご飯、沢山ある」
「へ?」
神妙な顔するから何かと思ったら、ご飯?いやご飯はとてもとても大切だけど。そこは否定どころか肯定するけど。
「美味しいご飯を食べるために商人やってる。美味しい物の情報、珍しい食べ物の情報、商人やってると沢山入ってくるのよ。物々交換の地域だと、お金の代わりに食べ物を提示すればいいから、買いに行かなくてもその場でご飯が手に入る」
………なるほど。この子、食いしん坊だ。とてつもなく食い意地張ってるっていうか…。大丈夫って言っても、わざわざ住み心地の良い場所を飛び出して各地を転々としてるんでしょ?食べ物のために。凄まじい行動力…。
「…あ、それならこれが流通してるかも分かる?」
私はストレージから昼間作ったマヨネーズを取り出す。
「それは?」
「マヨネーズ。…あ、こっちでは何て言うか知らないけど。もしかしたら違う呼び名かも」
「まよ…?聞いたことないの。見た目は白いチーズに似てるのね」
「チーズ!?チーズあるの!?」
「キャッ!?…き、急にどうしたの?」
チーズと聞いてつい小人少女の肩を掴んで迫ってしまった。私の急な行動に流石の彼女も戸惑いの表情を見せる。
「ご、ごめん…チーズって聞いてつい…」
「いいよ。チーズは美味しい…そうなるのも無理はないと思うの。私も初めて食べた時、つい全財産叩いて買い込んだから」
「全財産!?」
「それくらいする価値があったのよ。商人たるもの、お金の使い所を間違えたらいけないの。使わなきゃいけない所で使わないのはお馬鹿さんなんだよ」
言ってる事はその通りだけど、つまりチーズの魅力にやられてあるだけ買ったのでは…?買った物を次の商売に繋げないなら、それはただの買い物です。
「とにかく食べてみるね」
ブォンッ
「えっ、ストレージ?」
「私の収納だよ」
どうやらこの子も所謂収納持ちだったらしい。木製のスプーンを取り出し、そのまま私の持っている瓶を見つめる。
「えっと…どうぞ?」
瓶の蓋を開けて、瓶本体を差し出す。
あげるわけじゃなかったんだけど…まぁいいか。
「ありがとう」
小人少女は両手でそれを受け取り、足の間に置く。そしてそのままマヨネーズを一掬い、口に運んだ。
「!!」
「どう?」
「こ…」
「こ?」
「これ!!!これ何!!??凄く美味しい!!!チーズも美味しいけどチーズじゃなくて、まろやかで酸っぱくて、だけどまろやかで!!これ何!?何!!??」
「おわっ!?」
小人少女が勢いよく私に抱き着き、捲し立てるように言葉を続ける。
「凄く美味しいよ!!今まで食べたやつで一番美味しいよ!!」
「そ、そう?」
「そうだよ!!どこで手に入れたの!?私もいっぱい買うよ!!」
「…つまり、流通してないって事?」
「こんなのどこでも見た事ないよ!!凄いよ初めてだよ!!」
「なるほど…」
なら安くしなくても売れるかな。それにこの反応なら多少高くてもいける気がする。安定した収入…いける?
「ねぇっ、リオ!これ何なの!リオ!リオ!」
「これは私が作ったマヨネーズって調味料だよ。本来何かに付けて食べるものなんだけど…」
重度のマヨラーとかはそのまま食べたりするらしいけど。
「リ、リオが作ったの?…っ、凄いよ、天才だよ!!」
「いやぁ、開発したのは私じゃなくてどっかの天才なんだけど…」
「ねぇ、このマヨネーズもう無いの?あるだけ全部買うよ。言い値で良いから、お願い!」
「えっ」
それは流石に商人としてどうなのレイティアさん。吹っ掛けられちゃうよ。私はそんな事しないけど。
「予定ではその大きさの瓶一つで銅貨五枚くらいにしようかなぁ…なんて…やっぱりちょっと高いかな?」
さすがにジャム瓶レベルの大きさに入ったマヨネーズがこの値段はまずいかな。でも、仕方ないじゃない…お酢と油が高いんだもの…。油は小瓶一本で鉄貨七枚、お酢に至っては銅貨七枚!元の世界じゃ一キログラムのサラダ油と五百ミリリットルのお酢が二百円程度かそれ以下で買えたのに…。カルチャーショック。いや、あるだけありがたいのかもしれないけどさ…。
「…リオは物の相場を知らないのね」
小人少女が哀れむような視線を向けてきた。その表情は何とも微妙である。
「リオの職業は?」
「え、えーっと…何て言ったらいいんだろう…。君と一緒で、商人兼冒険者…かな?ギルド登録したばかりで、まだ二日目だけど」
「商、人…?…ハァ…。…商人になる気だったら尚更覚えておいてね。このマヨネーズはとてつもない価値があるんだよ。今までに似た様な物が無かったのに、凄く美味しい。それに、そんなに安くするつもりだったならきっと原価は高くないんだよね?安い材料で凄く美味しい物。本当は、こんなに美味しいものは貴族が食べる様な物。そんなに安くしたら、下手したら戦争になる」
「せ、戦争って…そんな大袈裟な…」
「嘘じゃない。大袈裟じゃない。リオは本当に何も知らないのね。違う世界から来た子だからしょーがないけど、でも覚えておいてね。マヨネーズを安く売るのはすっごく危険。分かった?」
「わ、分かった…」
真顔でズイズイと迫られてお説教をされる私。ただのマイペースな食いしん坊かと思ったが、商人としての心得はあるらしい。先輩からのお説教を食らった感じだ。
「私が値段を付けるなら…金貨五枚…いや七…ううん、中金貨一枚、いや三枚!これくらいは付けて当然!」
「ちっ、中金貨三枚!?ダメダメダメ!高すぎて売れるわけない!」
「富裕層に向けて売ればいい。私は別で」
「そんなの無茶だよ…まだ登録して二日目だよ?ひよっこだよ?しかもアイアンランクだし…相手にされないって」
「…それもそう。だったら、生産ギルドに登録しよう。それなら大丈夫、ね?」
「え?」
「生産ギルドに登録して、それから生産物登録とレシピ登録しよう。それなら良いよね?」
確かリッテちゃんが言ってたのは…あぁ、特許申請みたいな奴だっけ。
「レシピ登録っていうのは?」
「そのままよ。自分が開発したレシピを生産ギルドに登録するの。そうすればレシピは明確に発明者の物になる。登録レシピを売るのも出来る。どうやって売るかは本人次第。売って終わりもよし。レシピを買った人から、レシピを使った事で儲けた分の何割かを納める契約をするもよし」
「なるほど…本当に色々知ってるんだね」
「当たり前なのよ。何年この大陸に居ると思ってるの?リオよりずっと、ずぅーっと大先輩なのよ」
小人少女はドヤ顔でそう言う。
「そんなに長くいるの?」
「もう百…二百?三百だったかもしれないの。それくらい長くいるんだよ」
「百!?」
うっわぁ…妖精族ってそんなに長命なんだ…流石ファンタジー種族…。
「話戻すよ。とにかく、明日登録しに行こう。案内するから」
「う、うん。お願いします」
良かった、一応案内はしてくれるんだ。
「それと私やっぱりリオとずっと一緒にいる。絶対に」
「えっ、ずっと!?」
「…じゃないとまたトンデモ価格でトンデモ商品を売り出しちゃうかもしれない。心配。それに、また美味しい物が出てくるかも…」
うっ、それはご最もなんだけど…最後のが本音では?
「ね、一緒にいよう?一緒にいたいな。ダメかな?」
うぐぅ…そんな目で見られたら断りにくいじゃないの…。ただでさえ有り得ん美少女なのに…。
「……ずっとじゃなくて、しばらくならいいよ。私も色々教わりたい事あるし…」
「ほんと?わぁーい」
ギュッ
「ありがとう、リオ大好き」
「ヒェッ…」
美少女の満面の笑みの輝き半端ない…。ついときめきそうになる。
「改めてよろしくね、リオ。レイティアって呼んでね。レイでもティアでもいいよ。けどちゃんと名前で呼んでね。君とか貴女とかはヤダからね」
「こちらこそよろしくね。うーん、じゃあ…ティア」
小人少女改めティアは一層嬉しそうな笑顔を向けてくる。
正直めちゃクソに可愛い…今までの事が無ければ思いっきり抱きしめて頭グリグリ撫で回してるよ…。
と、思っていたのも束の間。
「嬉しいから記念に精霊の加護あげちゃうね」
「えっ?」
何て???
九話目にしてようやく出会いました。
これからを共にする相方、レイティアです。
初めはこんな不思議ちゃんキャラにする予定では無かったのですが、裏設定を確定してからこんな口調と性格になってしまいました。
次回はどうなるのか…現時点で未確定ですが、この先もこんな感じのドタバタ経営劇になるよ〜という話をしっかりと書いていきたいと思っています。
リオとレイティアの物語、スタートです。