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第八話「初依頼達成、それから神の調味料と錬成スキル」

うおおお間に合わなかったあああ

「ここが郊外の草原…」


 あの後、道行く人に場所を聞いてどうにか草原に着くことが出来た。多分市場から三十分くらい歩いたと思う。

 もう太陽が真上に来ちゃってるし、早いとこ終わらせてギルドに行こう。


「と、言っても…ヒール草の見た目なんて分からないんだけど…嬉しいことに私にはこのスキルがある!『鑑定』!」


 フォンッ


【雑草】

 ・どこにでも生えている雑草。


 う…ハズレだ。じゃあこっちは?


 フォンッ


【雑草】

 ・どこにでも生えている雑草。


「って、こんなんじゃいつまで経っても終わらないよ!!」


 あーあ、これなら見た目の特徴聞いておけば良かった…。


「せめて全体に使えれば良いんだけど…」


 …頑張ればいけるんじゃない?

 改めて草原を見渡し、全体を意識するようにする。

 よし…『鑑定』。


 フォンッ、フォンッ、フォンッ


「やった!上手くいった!」


 表示されたウィンドウは普通に鑑定したものより簡易的で名前しか表示されなかったけど、今はそれが有難い。範囲的には視界に映る私から半径二メートルくらいかな。


「雑草…雑草…これも雑草…」


 鑑定しながら草原を歩き回る。


「雑草…あっ、あった!」


 ヒール草、と表示されたのは小松菜に白い小さな花がいくつか咲いたものだった。よく見たら周りに沢山生えている。群生地なのかもしれない。


「ラッキー、沢山採っとこ。確か十本一組の束にしなくちゃいけないんだよね」


 十本摘み取り、適当な雑草の茎で縛る。それを繰り返しているうちにいつの間にか沢山の束が積み上がっていた。


「1、2、3…十束も出来ちゃった。…てことは百本!?いや、いくら何でも採りすぎたかも…」


 生態系崩れちゃったらどうしよ…かと言って今更戻せないし…。とりあえずもう止めとこう。

 積み上がった束をストレージに入れ、草原から立ち去る。報告をするため冒険者ギルドに向かう途中、市場で見付けた野菜数点と油、塩等の調味料を購入した。

 それから麻袋も購入した。薬草をストレージから直接出して渡す訳にもいかないので、この中に入れてギルドに提出しようと考えたからだ。そのため、人通りの少ない場所に移動して袋に詰めてからギルドに向かった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「すみません、これお願いします」


 受付のお姉さんに依頼書を渡す。


「はーい、達成報告ですね?えーっとヒール草採集ですね。依頼物の提出をお願いします」

「はい」


 麻袋に詰め込んだヒール草の束をカウンターに乗せる。


「確認します。…はい、十束ですね。一束銅貨五枚なので銀貨五枚になります。銅貨での支払いの方がいいですか?」

「いや、銀貨で大丈夫です」

「では銀貨でのお支払いで。少々お待ちください」


 そう言い残してお姉さんはカウンターから離れていった。

 薬草を頑張って集めるだけで銀貨五枚…良かった、今日買った食材分は余裕で稼げた。


「お待たせしました、報酬の銀貨五枚です。ご確認ください」

「えーと…確かに銀貨五枚、確認しました」

「それでは依頼達成となります、お疲れ様でした」


 お礼を言ってカウンターから離れる。

 初依頼も達成したし、一旦帰ろうかな。

 そう思い、ギルドを出て宿への道を歩く。少し迷いそうになったが、勘と記憶を頼りに辿り着いた。


「すみません、これ」

「はいはいおかえり。じゃあこれ部屋の鍵ね」

「ありがとうございます」


 おばさんに外出用札を渡し、代わりに普通の部屋札を貰う。

 部屋に戻り、リュックを降ろしてから備え付けの椅子に座った。


「あー…疲れた…甘い物食べたい」


 チョコとか無いかな…無いか…。


「うーん、それにしても、こっちはどうしようかな」


 椅子とセットの机に突っ伏しながら取り出したのは商業ギルドカード。


「えーと、アイアンランクで…営業出来る店舗形態が…」


 って、ああっ!!その肝心の店舗形態を聞くの忘れてた!!


「うぅ、やらかしたぁ…」


 …そうだ、これ鑑定でどうにか出来るんじゃない?というからどうにか出来てくれ〜〜っ。『鑑定』っ。


 フォンッ


【商業ギルドカード】

 ・リオ・アマガヤの商業ギルドカード。アイアンランク。このカードを所持していると移動型店舗での営業が可能となる。年会費は銀貨一枚。


「ふおぉっ!!出来た!!ありがとう大好き鑑定!!」


 っと、つい大声上げちゃった。聞かれたらめっちゃ恥ずかしいやつだ…。

 兎にも角にも、店舗形態が移動型店舗っていうのを知ることが出来た。移動型って事は、屋台?あとは期間限定で場所を借りたり…。

 …よく考えたら私、経営なんてやった事ないな…あるとしたら経営シミュレーションゲームくらい?バイトはずっとしてたけど…。

 ………いや、いやいやいや、いくら何でも経営ナメすぎじゃない???経営者の皆様が聞いたらアンチの嵐間違いなしだよ。


「うーん…」


 ………とにかく、路上で小物でも売ろうかな。何を売ろう?今の私に何が出来るかな。


「…あ、そうだ、忘れてた」


 さっき作ろうと思って色々買い込んだんだよね。『亜空間倉庫』。


 ブォンッ


「卵〜、酢〜、塩〜それから油〜フンフン〜レーモン〜♪」


 取り出した物の名前を並べただけの即興の歌を歌いながら、大切な事を思い出す。


「ボウル、ない…」


 ちょっとこっち来てから忘れ物多くない?うーん、仕方ない。雑貨屋で買った深めのお皿とフォークでどうにか…。


「こぼさないようにしなきゃね」


 卵の卵黄だけ分けて、適当な量のお酢と塩を少々。それと、今回は少し前にネットで見た作り方!レモン果汁を入れる!


「半分に切って…っと。あーあ、まな板も買わなきゃなぁ」


 お皿の上だと若干湾曲しているから切りにくい。

 半分に切ったレモンを風味が出る程度に絞って、よーく混ぜる。混ぜたら今度は油を少しずつ加えてその都度混ぜる!


 ガシャガシャガシャガシャガシャ…


 油といえば、油を購入したお店にはこの油以外売ってないみたいだったけど…オリーブオイルとかあったら嬉しいな。あ、ごま油も。

 あれ?この油、サラダ油だと信じて疑わなかったけど、よく考えたら何の油?ちゃんとサラダ油なのかなぁ…。食用だとは言ってたから、口にしても大丈夫な物だとは思うけど。

 …と、いうか。


「…泡立て器、欲しい」


 ピタッ、と動きを止める。既に腕が痛い。なのに器の中の液体に著しい変化は感じられない。

 というかフォークでちゃんと混ざるの?無理じゃない?


「せめて思いっきり混ぜれたら…」


 仕方ない、断られるかもしれないけどボウルを借りに行こう。

 そう思い立ち、部屋を出てダイニングに移動する。


「すみません」

「はーい?」


 ダイニングで掃除をしていたお姉さんに声を掛ける。今朝、カウンターで配膳していたお姉さんだった。


「ちょっとボウルを借りたくて…」

「ボウルですか?ちょっと待っててくださいね」


 お姉さんは奥に引っ込むと、手に木製のボウルを持って戻ってきた。


「これで良ければ」

「ありがとうございますっ!…あの、ついでと言っちゃ何ですが、泡立て器とかって…」

「あわ…何です?」

「泡立て器、です」

「聞いた事ないですね…少なくともウチにはありませんよ」

「そ、そうですか…。いや、大丈夫です。ボウルありがとうございました、また返しに来ます」

「?はーい」


 部屋に戻り、これまで混ぜていた物をボウルに移す。それからフォークを数本一緒に持ってガシャガシャと混ぜた。


「あの反応だと、まさか泡立て器がない…?だとするとこれから色々な物を作りたい時にめちゃくちゃ苦労するんじゃ…」


 ひぃぃっ、腕が壊れる未来が見える…!!


「な、何とかしなくちゃ。美味しい物は食べたいけど、腕が壊れるのは勘弁」


 そんな事を考えている間もしっかり掻き混ぜる。


 ガシャガシャガシャガシャガシャ


 ガシャガシャガシャガシャガシャ


 ガシャガシャガシャガシャガシャ


「うおぉあ…もう限界…」


 けど、丁度こっちも良い感じに出来た。


「完成!自家製マヨネーズ!」


 そう、作っていたのは人類の宝マヨネーズ。

 何を隠そうこの私、天谷里桜は食べる事が何よりも大好きなのである。美味しい物が食べられない世界なんて死んだ方がマシと言うほど。そしてそんな私が大好きな調味料の一つがこのマヨネーズ様。調味料というより、もはや一つの食材。付けてよし、かけてよし、混ぜてよし、他の調味料と合わせてよし。これこそが人類の英智。

 いやぁ、利き腕と引き換えに最高に美味しい物を手に入れてしまった。

 マヨネーズが嫌いな人間なんて存在しない!…と、いうのは過言かもしれないけど、忌避する人間なんていうのは極小数だと思う。


「試しにこのニンジンを…」


 窓の外で先程購入したニンジンを水洗いし、皮をむいてスティック状に切る。そして出来たてホヤホヤのマヨネーズに付ける。

 そんで口にIN!!


「うんっ…まぁ!レモンで爽やかになってるしいくらでも食べれちゃう〜」


 いつもの濃厚マヨネーズも良いけど、このレモン汁入りマヨも最高。こんなん確実に売れるでしょ。


「あ、でも、もう各家庭に普及してたらどうしよう…」


 むしろこっちの普通のマヨがレモン汁入りだったり!?あっちゃー、だとしたらやらかした。どうか普通のマヨでありますように…。


「まぁ、もし家庭で作るのが普通なら手間が省けるって事で売れるかもしれないし…普通にお店で買えるなら、少しお安めにして売ろうかな…」


 売れなきゃそれまで。残りは自分で楽しもう。


「とりあえず瓶に詰めてストレージに入れておこう…」


 これも先程購入した物だ。ジャムの瓶くらいの物を三つと、細長い小瓶を二つ購入した。透明度は高くないし分厚いけれど、これがこの世界の一般的な瓶らしい。お城で見たような透明度の高いガラスは高級で、高レベルの錬金術士が作るのだそう。


「えーと、瓶一つ分…うわ、この量じゃ売り物にならない…」


 くっそー…異世界なんだから魔法でちょいちょいっと作れるようになりたい…。


「………ん?」


 魔法で…ちょいっと…。


「………『亜空間倉庫』」


 ブォンッ


 先程と同じ物を取り出し、机の上にまとめる。


「………スゥー…ハァー…よし…。…『錬成』」


 シュルルルルンッ


 途端に目の前の材料が淡い光に包まれたかと思うと、勢いよく回転しだした。


「うわっ!?」


 その回転が止まった時には、机の上に黄みがかった乳白色の物体だけが存在していた。


「…で…出来ちゃっ…た…」


 ガックリと項垂れる。今までの私の肉体労働は一体何だったのか。


「って、うわわわ…机に直接出来ちゃった!?」


 それに、周りには油の入っていた瓶とお酢の入っていた瓶、それから卵黄の入っていたお皿が散らかっていた。そのどれもが空っぽだ。つまり。


「こんな少しの卵黄で、お酢が瓶一本分…!?」


 じ、地獄すぎる。小瓶といっても瓶一本はさすがに…。錬成スキルでそれっぽいものは出来たけど、その場にあるもの全部使っちゃうの??試しに舐める勇気も出ない…。


「今度から、ちゃんと必要な分だけお皿の上で錬成しなきゃ…」


 ああぁ、勿体無い…やらかした…。うぅ、気を付けよう。


「ハァー…とりあえずもう一度材料買いに行こう…」


 後片付けをしてボウルをダイニングのお姉さんに返し、私はもう一度市場に足を運んだ。その際に「また来たのか?」という問い掛けを色々な場所でいただいたが、その全てに曖昧な笑顔で返しておいた。

神の調味料、マヨネーズです。

作者はトーストにマヨネーズの防壁を築いて生卵を落としてトーストしたのを食べるのが好きです。焼く前に粗挽き胡椒とオリーブオイルを垂らしたら最の高…。至高の食べ物ですね。最後の晩餐はコレが食べたい。

その内作中でも出します。あぁ、食べたくなってきた…。

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