第三話「初ギルド!…の前にお買い物です」
「じゃ、まずはここね」
リッテちゃんが足を止めたのは大きな建物の前だった。
「ここがギルド?」
「あはは、違うわよ。ここは雑貨店。日用品は大体ここに来れば一通り揃うわ」
「そうなんだ?でも何でお店?」
「何でって貴女…いつまでその袋、手で持ってるの?」
リッテちゃんが指さしたのは私の両手。が、抱えている例の金貨袋。
「結構重いのにずっとそうやって抱えているつもりなの?その内、疲れて腕が取れちゃうわよ!それにその服装はここではちょっと…いや結構目立つから着替えないと」
「うっ…確かに…」
リッテちゃんの言う通りだ。そんなに長い時間抱えていた訳じゃないのに腕もキツいし、服装は…よく周りに気を配ってみたら確かに視線を感じる。
私が今着ているのはセーターにスキニーパンツ、それと防寒具でチェスターコート。元の世界の季節はまだ冬で着込んでたけど、今はちょっと暑い。感覚的に春先くらいなのかな?
「大丈夫よ、私がしっかり見繕うから」
任せて、といってリッテちゃんがウインクをする。次いで扉
を開けてくれたので有難く先に行かせてもらった。
「「いらっしゃいませ〜」」
お店に入ると、数人の店員さんが声を揃えて挨拶をしてくれた。混雑という程ではないが、それなりにお客さんも沢山いる。
「わぁ、広い〜」
「でしょう?ここは大陸でもかなり力を持った商会のお店ですもの。これでも支店なのよ?」
「へぇ〜すごいね!」
「あらお嬢様、ご無沙汰しております」
「こんにちは。最近どう?」
「お陰様でいつも通り繁盛しております」
一人の店員さんが近付いてきてリッテちゃんとそんな会話を始める。
え、どういうこと?
「リッテちゃん、あの…」
「あぁ、ごめんなさい。ここはルピナス商会が経営してる雑貨店なのよ」
「ルピナス商会って、リッテちゃんのご実家の?」
「そうなの。だから安心して!安くて良い奴探すから、ね?」
「あはは、それは心強い〜」
「まずは鞄かな。こっち来て、色々種類があるのよ。どんなのが良い?」
リッテちゃんに手招きされて近付いたスペースには、様々な鞄が置いてあった。スペースの半分が肩掛けバッグで、もう半分がリュックっぽい。
「うーん、個人的にはリュックの方が使いやすいかな」
「うんうん。なら、これはどう?」
リッテちゃんが手にしたのは茶色い革製のシンプルなリュックサック。
「これはビッグカウの革で作られたリュック。ビッグカウは簡単に狩れるから安いの。ただ凄く丈夫って訳では無いから間に合わせになるんだけどね」
「へ〜」
「こっちはブルーバッファローの革で作られたリュック」
次にリッテちゃんが手にしたのは黒と青がまだら模様になった革製のリュックサック。先程と違って外側に二箇所ポケットが付いている。
「色は好みが別れるけど、比較的安価で丈夫なのよ」
「ほうほう」
そんなに嫌いな色じゃないから、お値段によってはこれでいいかもなぁ。
「個人的には、色だけ見るならこっちの方が似合うかなって思うんだけど」
そう言ってリッテちゃんが私に見せてきたのはサーモンピンクの布製リュック。大きさ的にも使い勝手が良さそう。
「わ〜、可愛い色〜」
「厚手の布を染めて作った物なの。その染料の材料がちょっとだけ珍しいから本当は高いんだけど、布製で革製よりは耐久力に欠けるからお安くなってるのよね」
「そうなんだ〜。ちなみにいくら?」
「銀貨七枚ね。最初のは銀貨一枚、次のは銀貨3枚よ」
「銀貨七枚かぁ…」
うーん…まだ仕事も決まってないし…やっぱ最初のやつに…。
「リオさんの髪って内側だけがピンクっぽい茶色で不思議な色合いをしているでしょう?だからそれに近い色が似合うかなって思ったの」
「あ〜…目立つかな?」
「そうね、そういう髪の人は見た事がないから…ちょっと目立つかもしれないわ」
私は髪をショコラブラウンに染めている。それに合わせて目立ちすぎない色のピンクをインナーカラーで入れているのだ。それも先日染め直したばかりなので全く色落ちもしていない。
まさかそれが仇になるなんて思いもしなかった…。
「まぁ、その内全部黒くなるから…」
多分この世界に染髪という概念は無いだろうし、その内プリン化して散髪して元の黒髪に戻ることだろう。
「?よく分からないけど、とりあえずリュックどうする?他のが良ければまだあるけど」
「えーっと…」
「ちなみにこれ、最後の一点なの」
「買います」
つい即答してしまった。
日本人はそういう言葉に弱いんです。私だけかもしれないけど。
「ふふ、これね。じゃあ先にこれだけ買って荷物入れちゃいましょう」
「はーい」
私達はお会計を済ませ、晴れて私の物となったリュックに金貨袋(お釣りの銀貨もあるけど)をしまった。
「次は服ね。下着とシャツと…リュックに入るかしら?」
「頑張って詰め込むよ」
この大きさならどうにかなりそうだし。
「下着はこのサイズでいいかしら」
リッテちゃんが私に差し出したのはキャミソール。周りの物もサイズは違えど全て同じ形だ。
「あの…もしかして下着ってこれ以外ない…?」
「え?ちゃんと下もあるわよ?」
そういう事じゃないんだけど、この様子だと無さそうだな〜〜〜そっか〜〜〜!
しんど。
「そ、そっか、うん。多分サイズはそれで大丈夫」
「そう?じゃあ服を見ましょ。次はコルセットね。どんなのが好き?」
「コルセット?」
コルセットなんて付けたことがない。まずコルセットってどんな時に付けるんだっけ?
「えっ!?…もしかしてリオさんの世界にはコルセットがないの…?」
「いやっ、あるにはあるんだけど普段使いする物ではないと言うか…」
「そうなの?ここでは胸下を固定するための下着だけど下着じゃないみたいな…準下着って言うのかしら。そういう物よ」
「なるほど…」
ブラ代わりって事か。そういえば歴史の教科書で見た中世のお姫様が付けてたような…でも体型を補正するための物じゃなかったっけ?
まぁ世界自体が違うし…ここじゃ違うって事かな。
「それじゃあ適当にシンプルなやつ数着買いましょうか。私が選ぶのでいい?」
「お願いしまーす」
コルセット二着を選んでくれたリッテちゃんと一緒に次々シャツ、スカートを数着購入。それと靴も一足購入した。
足元スニーカーだったしね。悪目立ちするのはごめんです。
「服はこれで良いとして…最低限の用意でも持ち歩くには多いかしら」
「そうだね…いけるかな?」
いけると思っていたがそれなりの物量になってしまった。ちなみに合計で金貨一枚と銀貨一枚、銅貨五枚だった。
あ、そういえばちょっと気になる事があるんだよね。やってみよっと。
えーと、スキルを使う時は…『亜空間倉庫』。
「きゃっ、何!?」
リッテちゃんが驚いた声を出す。無理もない。突然目の前の空気がグニャリと歪み始めたのだから。まるで掻き回されてる水面みたい。
私も声を出しそうになった。
やっぱこれってそういう事だよね?ね?
私は嬉嬉としてその空間に手を突っ込んだ。突っ込んだ手はその空間を境目として消えている。
試しに購入した服を入れると、そのまま消えてしまった。空間に手を入れてゴソゴソと動かすとそれらしき物が手に触れる。引っ張り出して見ると先程の服だった。間違いない。
「ストレージボックスだ〜…」
名前的にそれっぽいなと思ってたんだよね。ビンゴ〜。
「リオさん、収納持ちだったの…?急に使われるから驚いちゃった」
「そうみたい。試しにやったら発動して私もビックリしたよ〜」
「それ、結構珍しいスキルなの。小さくても利用価値があるから人の前で乱用したらダメよ。魔物で言ったらランクBなんだから」
その例えは分からないけど、分かりました。
「ふぅ…それに、信用してって言ったのは私だけれど…流石に油断しすぎよ。人の前で珍しいスキルを使ったらダメ!というかここは人の目があるから!ただでさえリオさんは王の間で見逃されてるのに…」
「えっと…ごめんね?リッテちゃんは信用出来ると思ったからつい…」
「…ちなみにその根拠は?」
「勘」
「…」
「あ、疑ってるでしょ。私の勘は昔から良く当たるんだよ!それに、ステータスでも追加のとこに勘って…」
「ん?待って待って、追加?リオさんもう追加ステータスがあるの?」
「?うん」
「追加ステータスっていうのは色々な事を経験する内に出来るステータス項目で…って異世界での分がこっちでも反映されてるのかしら…?それだったら筋は通るし…」
リッテちゃーん?何かブツブツ呟いて考え込んじゃったよ…。これも言わない方が良いっぽい?
「と、とにかく収納があるなら話は早いわ。その中に買ったもの入るだけ全部入れちゃいましょ。コソッとよ!そこの棚に隠れてコソッとね!」
「うん〜」
リッテちゃんにそう言われて亜空間倉庫(命名ストレージボックス)に物をポイポイ投げ込む。全部入れてもまだ余裕がありそうだった。
「そんなに小さいわけじゃないみたいね。これなら日用品も買えそうだし、買っとく?」
「そうする!」
「じゃあまずナイフでしょ、それから…」
こうしてリッテちゃんに案内されながら日用品を購入し、どうにかマトモな生活が出来るレベルに物が揃った。
「ありがとうリッテちゃん、すごい助かったよ」
「気にしないで。ウチの商品を買ってもらったしお互い様よ。それじゃあ早速ギルドに行きましょ!」
「はーい、よろしくお願いします」
ついに初ギルドかぁ。何事もなく終わらせて、早く仕事を見つけないとね。
次回、冒険者ギルドで初登録です。