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第二話「色々教えてもらおう」

 そこから一分足らずで部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」


 ガチャッ


「失礼致します、アマガヤ様。私、世話役を命じられましたリッテと申します」


 部屋に入ってきたのは茶髪をお団子に纏めた雰囲気の柔らかい女性だった。メイド服を着ている。リッテさんは丁寧に頭を下げて挨拶をしてくれた。


「天谷里桜です。短い間ですがよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願い致します。では早速ですが、こちらがお約束の生活費です。王都で三ヶ月は暮らせると思います」


 リッテさんに渡されたのはずっしりとした巾着袋。中身を確認すると全て金貨だった。


「全部で金貨六十枚あります。新人騎士の給与一ヶ月分が大体金貨二十枚なので問題なく暮らせるかと思います」

「そうですか、ありがとうございます。ところでこの世界の貨幣価値って…」


 そう、貨幣価値が分からなきゃ何も始まらない。最悪騙されて一文無しになる。


「貨幣は全てで七種類あります」


 リッタさんが教えてくれたのは以下のような事だった。


 ・下から順に鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、中金貨、大金貨、白金貨がある。

 ・庶民が使うのは主に鉄貨から金貨で、冒険者の間ではたまに中金貨が使われる。

 ・銅貨一枚でシンプルなパンが一つ、安い肉が百グラム銅貨二枚程で購入出来る。

 ・安宿は平均して一泊銀貨四枚から。

 ・大金貨一枚で王都でそれなりの家が購入出来る。

 ・白金貨は貨幣価値が段違いすぎて国家間のやり取りくらいでしか使われない。


「なるほど」


 銅貨一枚で百円くらいってとこかな?多分貨幣が一段階変わると十倍ずつ増えるんだと思う。分かりにくいから最初はそういう認識にしとこう。


「それでは次にステータスについての説明ですね。『ステータスオープン』と唱えていただけますか?」

「分かりました。…ステータスオープン」


 フォンッ


「わっ」


 言われた通りにした瞬間、目の前に先程鑑定で見たウィンドウが現れた。


「現れましたか?この世界の人々は皆そうやって自分のステータスを確認するのです。これは本人しか確認することが出来ません。鑑定スキルを所持していれば別ですが」

「ほー…」


 改めて自分のステータスをよく確認してみよう。さっきは落ち着いて見れなかったし。


【基礎ステータス】

『名前』リオ・アマガヤ

『年齢』19

『職業』異世界人

『レベル』1

『体力』100

『防御力』70

『攻撃力』80

『魔力保有量』150

『魔法攻撃力』100

『固有スキル』鑑定、解析、錬成、亜空間倉庫、知識欲

『学習スキル』

【追加ステータス】

『特質』探究心、不可視

『器用』300

『勘』200

『思考力』350


 あれ?さっきのと違うんだけど…何この追加項目。追加ステータス?そういえば他の子達には付いてたような?


「あの…」

「どうされました?」


 いや待て、これ話していいのかな。王が自信満々に出してきた魔道具?で見えなかったんでしょ?それで見えなかったものが見えたなんて言った日には…。


「いや、やっぱ何でもないです!」


 慌てて否定した。明らかにまずいもん、これ。


「そうですか?では次に鑑定スキルについてです。鑑定スキルは固有スキルでしか持てないスキルです。ちなみに固有スキルとはその人が生まれ持っている先天的なスキルのことで、後天的に覚えることはありません」


 なるほど。


「まずは鑑定したいものに意識を向けてください。それから、口に出すでも心の中でも良いのですけれど『鑑定』って唱えてみてください」


 心の中でいいんだ。じゃあとりあえずそこの椅子を…鑑定!


 フォンッ


 わっ、またウィンドウが出てきた。どれどれ…。


【客間の椅子】

 ・貴族向けに販売されている椅子。金が使われており豪華な仕上がり。王家では客間用の椅子として使用されている。


 なるほど、こんな感じで出てくるのね。

 ちなみにリッテさんはどんな感じなんだろう?

 リッテさんに意識を向け、心の中で『鑑定』と呟く。と、先程と同じようにウィンドウが出てきた。


【基礎ステータス】

『名前』リッテ・ルピナス

『年齢』17

『職業』皇室メイド

『レベル』23

『体力』110

『防御力』50

『攻撃力』50

『魔力保有量』130

『魔法攻撃力』60

『固有スキル』商人の勘

『学習スキル』ウォータークリエイト、ウィンドクリエイト、ファイヤークリエイト

【追加ステータス】

『家事』260

『勘』200

『算術』200


 どうやら人に使うとステータスが見えるらしい。備考欄とかは特に無さそう。

 と、いうか年下だったの!?


「問題なくスキル発動出来てますか?」

「あっ、はい!大丈夫そうです!」

「それは良かったです。固有スキルは全てそのように使用します。次に学習スキルについてですが…まだ何も覚えてませんよね?」


 そういえばステータスの『学習スキル』には何も書いてなかった事を思い出して「はい」と返事をした。


「学習スキルとは、他人から使い方を教わって覚えるスキルのことです。つまり勉強や訓練で覚えるスキルの事ですね。魔法なんかもこの中に入ります」

「へ〜」

「では学習スキル第一号として私のスキル…まぁ魔法ですね。それを伝授致しますが、よろしいですか?」

「おぉ!是非よろしくお願いします!」

「承りました。ではまずこちらをご覧下さい」


 そう言ってリッテさんが近くのコップに手をかざす。すると、コップの中に水の塊が現れて、あっという間にコップ内を水で満たしてしまった。


「わぁっ!何ですかこれ!?」


 興奮気味に問い掛けたら、リッテさんがクスクス笑いながら教えてくれた。


「これは初級水魔法の『ウォータークリエイト』です。学習スキルも、簡単なモノであれば固有スキルと同じく心の中で呟くだけで発動します」

「なるほど〜」

「スキルを使う時は、スキルの出力したい体の部位に魔力を溜めてください。何となく意識すると集中してくるのが分かると思います」

「何だか難しそうですね…」

「一度覚えてしまえばとても簡単ですよ」


 そう言われても魔力なんて生まれてこの方感じたことないしなぁ。

 魔力…魔力…ううう〜ん…。


「それから、自然属性魔法は精霊の力を借りるのでそれも意識してみてくださいね」

「それはどういう…?」

「水属性だったら周囲の湿気から水の精霊を感じ取るんです」


 んな無茶な……。何ですか周囲の湿気から感じ取るって…無理が過ぎません?

 あっ、でもそんな事言ってるうちに何か魔力的なものは手先に感じる気がする…!


「そうですね…空気中の水を集める感じを想像してみてください」


 うーん、まだよく分からないけどとりあえずやってみよう。


「う、ウォータークリエイト!」


 片手を突き出してそう叫ぶと、なんとその先に水の塊が現れた。

 えっ、すごい!やったぁ!出来たよ初魔法!

 …なんて心の中で喜んでたのも束の間。その水は行き場を無くして床に飛び散った。

 それも高級そうな絨毯の上に。


「うわああ!?ごっ、ごめんなさい!!すみません…!!」

「…ハッ!?あ、いえ!大丈夫ですよ」


 リッテさんはボーッとしていたのか一瞬遅れて反応した。リッテさんの両手が濡れた部分に向けられて一泊、足元に風が吹き始める。


「これは…」

「初級風魔法の『ウィンドクリエイト』です。練習すると細かい調整が出来るようになります」

「へぇ…」

「…ところでアマガヤ様、先程簡単に成功させてしまいましたが…才能が無ければあんな風に初めてで成功することはほぼ無いんです」

「え」


 リッテさんがじっと私を見つめる。

 ま、まずい、かも?

 私が目に見えてたじろいでいたせいか、リッテさんは溜息をついてから困ったような笑みを浮かべた。


「別に報告しようなんて考えていませんよ。ただ、少し気になっただけです」

「はぁ…」

「…本当ですよ?」


 未だ訝しげな視線を向ける私に念押しするようにリッテさんがそう言う。それから私の耳元にグイッと顔を近づけてきた。


「なっ、何ですか?」

「…ここだけの話なんですけれどね」


 なんだ、耳打ちしようとしてただけか…。


「陛下は良いお人なのですが…如何せん思考力が…その…アレでして…。勇者召喚を行って戦争に勝利しようというのも、側近の者達が陛下に進言した事なのです…」

「なるほど…?」

「陛下がご自分で政治について考える事はほぼ無いと考えて良いでしょう…つまり実質、政策等は全て側近の者達が行っているのです。その者達は中々思想が過激でして、いつも陛下に色々吹き込んでいます…」

「そ、それは…」


 色々ヤバいのでは?この国。


「……きっと、勇者様方の事も捨て駒にしようとしているに違いありません。彼等はそういう事を躊躇無くする人種です。まぁ勇者様方ならそんな下衆にどうこうされるような弱さではないと思いますが…」

「なっ!?」

「けれど、残念ながら私達にはどうする事も出来ません。彼等を敵に回すというのは国を敵に回すも同然…。ですから、貴女一人でも逃がす事が出来そうでホッとしているんです。ですから、貴女の事を報告する事はありません。…それに、もしこの会話を彼等の息のかかった者に聞かれたら私は間違いなく処刑されるでしょう。恩着せがましいかもしれませんが、それを承知でお話しているのです。…これでは信用するに足りませんでしょうか?」

「いいいいえ十分!十分です!」


 そこまで言われて信用しないほど人間不信じゃないです!!!


「それなら良かったです」


 リッテさんはふんわりと微笑み、元の立ち位置に戻った。


「…それでは話を戻しましょうか。ステータスを確認してみてください」


 促されてステータスを確認する。


【基礎ステータス】

『名前』リオ・アマガヤ

『年齢』19

『職業』異世界人

『レベル』2

『体力』110

『防御力』70

『攻撃力』80

『魔力保有量』155

『魔法攻撃力』100

『固有スキル』鑑定、解析、錬成、亜空間倉庫、知識欲

『学習スキル』ウォータークリエイト、ウィンドクリエイト

【追加ステータス】

『特質』探究心、不可視

『器用』300

『勘』200

『思考力』350


「あ、レベル上がってる」


 他にも一部のステータスが変動してたり、後は学習スキル欄にも追加されてるね。…ところで気になるのが、どうして使ってない『ウィンドクリエイト』まで追加されてるのかって事なんだけど…。見学してたから?


「初級魔法には他にもファイヤークリエイトなどがありますから、是非練習してみてくださいね」

「ありがとうございます」


 うーん、まぁそれは良いとして…これから何しようかな。ハロワ的なとこあるのかな。


「ところでなんですけど、私これからどうやって生計を立てていくのが良いんですかね?」


 困った時は異世界の先輩に聞いてみろ、だね。


「そうですねぇ…まずは身分証確保のためにもギルド登録するのがよろしいのではないかと思います」

「ギルド登録、ですか?」

「はい。世界には大きく『冒険者ギルド』『商業ギルド』『生産ギルド』の三つの組織が存在しています。その中でも何々系〜という枠組みは存在してますが、一先ずは三つあるというのだけ覚えていて下されば大丈夫です」


 おおー、異世界っぽい!


「『冒険者ギルド』はその名の通り、冒険者が登録をするギルドです。ちなみに冒険者に依頼をする時は冒険者ギルドを通して登録します。なので仕事が欲しい時は冒険者ギルドに行くのが一番ですね。ギルド登録には登録費がかかりますが色々特典が付いてきますよ」

「ほうほう」

「『商業ギルド』は商業を行う全ての人間が登録するギルドです。大手店舗から個人経営に至るまで、全ての商業に携わる人間の登録が義務付けられています。登録費の他にも年会費がかかりますが、経営の際の面倒な手続きはギルドの方でやってくれる事が多いので楽ですよ」

「なるほどなるほど」


 行く行くは私も個人経営とかしてみたいから、ここかなぁ。


「最後に『生産ギルド』です。ここは物を生み出す…言わば生産者が登録するギルドですね。登録の義務はありませんが、登録していると「新たな物を自分が作った!」という時にその生産物を登録することが出来、自分以外が真似して作ることを禁じたり出来ます」


 ふーん、特許みたいな感じ?


「よく分かりました、ありがとうございます

 。ところで、ギルドって一つしか登録出来ないんですか?」

「そんな事はございません。掛け持ち可能です」

「あ、良かった〜。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございます。…ところでアマガヤ様…」

「はい?」


 私が返事をすると、リッテさんは佇まいを改めて此方に向き直った。


「改めまして私、皇室メイドにしてルピナス商会現会長の娘、リッテ・ルピナスと申します。アマガヤ様とはこれからも良い関係でありたいと考えております」

「え?あ、はい…?」


 急に改まられるとビックリするんですけど…。というか商会の娘さんだったんだ。


「私のことはリッテとお呼びくださいませ。敬語も不要でございます」


 えーと、つまり?


「お友達…って事でいいんです…の、かな?」

「…お友達…そうですね、アマガヤ様がお友達になって下さるのなら有難いことでございますわ」


 リッテさんは微笑んでそう言った。


「それなら私の事も里桜って呼んで。友達がそんな呼び方おかしいもん。それと敬語もお互い無し!…約束してくれる?」


 めちゃくちゃ丁寧な敬語向けられると何だかムズムズしちゃうし。


「はい…うん、リオさん。これからもよろしくね」

「こちらこそだよ、リッテちゃん」

「ふふっ…私の事、ちゃんと覚えておいてね?」


 リッテさん改めてリッテちゃんが若干意味深な笑みを浮かべてそう言った。


「?勿論」

「ありがとう!じゃあ城の外まで案内するわね」

「お願いします〜」


 二人で部屋を後にして、歩きながら会話を再開する。


「ねぇ、他に聞きたい事ってある?」

「そうだなぁ…強いて言うなら、ギルドまでの道?」

「分かった。案内するわね」

「え?いいよ、他の仕事もあるだろうし…」

「いいのいいの。今の私はリオさんの世話役を任されてるんだから。これも仕事の内よ」

「そう?ならお願いするね。とりあえず冒険者ギルドに行きたいかなって思うんだけど」

「任せて。…あぁ、そうだ。リオさん、外で名乗る時はファミリーネームまで出したらダメよ。どちらかだけを名乗ってね」

「どうして?」

「ここではファミリーネームを持ってるのは貴族か、昔から何かしらの力を持ってる人だけだからよ。例えば力ある商家とかね」

「なるほど」


 それは確かに面倒な事になりそう。


「じゃあこれからはリオって名乗る事にする」

「分かったわ、それでいきましょう」


 リッテちゃんが不意に足を止めた。

 どうやらいつの間にか出口に来ていたらしい。


「悪目立ちしないように使用人用の出入口なんだけど、ごめんね」

「ううん、むしろ気を使ってくれてありがとう。助かるよ〜」


 リッテちゃんが出入口の扉を開けると、少し行った所に道が見えた。

 その先に街が見えるのでここを通っていくのだろう。


「う〜ん、良い天気ねぇ。さ、行きましょ!」

「うん」


 私達はこうして街へと歩みを進めた。

次回、リオの異世界生活の第一歩が踏み出されます。

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