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第十一話「印登録と生産物登録」

雑多回です。

マヨネーズを登録するだけでこんなに色々工程を踏む事になるとは…。

我ながら設定多くし過ぎたなぁ、とちょっと後悔…。

「生産物の登録をしたくて」

「それとレシピもなの」

「生産物登録とレシピ登録ですね。印登録は済ませてあります?」

「あっ」


 そうだ、印登録しなきゃいけないんだっけ。


「すみません、まだ決めてもいないので…また来ます」

「あ、待ってくださいな。印登録するにはこの特殊な紙に書いてもらわなきゃいけないんですよ。だからこれ、持って行ってくださいね」


 おばさんが引き止めて渡してきたのは、これまでの質の悪い分厚い紙ではなく、私が知っているような薄い紙。五センチメートル四方の小さな紙だった。


「そうなんですね、ありがとうございます」


 おばさんから紙を受け取り、ティアを連れてギルドを出る。


「そうだった。印登録しなきゃいけないの、忘れてたの」

「印登録かぁ…他の人はどんなやつなんだろう」

「こんな感じなの」


 ティアが見せてきた財布をよく見ると、小さくマークが入っていた。


「これはとある革職人のブランドマークなのよ。リオのそれにも付いてるの」

「え?どこ…あ、ホントだ」


 よく見たら蓋を開けた内側にマークが付いていた。


「ティアのやつとは違うマークだね」

「職人が違うからね。ちなみに生産ギルドでマークを見せれば、そのマークを持ってる人が登録してる物を調べることが出来るの。このマーク持ってる人を知りたいって言えば一発なの」

「へー」


 ティアの財布に付いてるのは、羊の頭部を小さな円が囲んでいるマーク。私の財布に付いてるのは、大きい円と、中の小さい円の間に三角形が敷き詰められているマークだ。


「リオはどんなのが良い?」

「え?うーん、そうだなぁ…余り凝りすぎてもこの先マーク入れるのが大変そうだし…」

「あ、それは大丈夫だよ。印登録をすると何にでも押せる魔道具のスタンプが貰えるから。二つ目からは自腹で、ちょっと値が張るけど」

「そうなんだ?」

「入れる度にちょっと違うマークは登録した意味がないの」

「確かに…」


 言われてみればその通りだ。


「そこの軽食店にでも入って一緒に考えよ?」


 ティアが指さしたのは小さな飲食店。


「…そうだね、宿に戻るのもアレだし…」

「そうと決まれば早く行くの!あそこのお店は紅茶が飲めるんだよ!あとフルーツも出るの!」


 ティアが満面の笑みでグイグイと引っ張ってくる。

 なるほど、本命はそれか…。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「紅茶二つとルビーフルーツセット一つ」


 席に着くなりティアが注文をする。


「かしこまりました、いつものですね」


 いつものって…まさかの常連だったのか。覚えられるほど来てるって、どんだけ好きなの。


「この街に留まってるのはこのお店が原因なの。美味しくて離れられないんだよ…」


 なるほど、そんなにお気に召してるんだ。

 少しして店員さんが運んできたのは、紅茶と赤い果実が盛られた皿だった。


「ふわぁ、美味しいの。果物をメインに売ってる食事屋、素晴らしいの…」


 ティアは早速フルーツを口に運んでいる。


「サクランボと…ベリー系の何か?」


 サクランボはすぐ分かったけど、後は明確には分からない。何となく色と形でベリー系なんじゃないかなって事は分かるんだけど…。


「むぐむぐ…さくらんぼ?どれの事言ってるの?」

「え?これだよ、サクランボ」

「ゴクンッ、これはチェリーだよ?」


 あぁ、こっちではチェリーって名称が浸透してるんだ。


「私の故郷では別名がサクランボだったの。勿論チェリーとも呼んでたけど」

「そーなんだ」

「それにしてもこれ、何のベリーなんだろ…」

「リリアンベリーとベルベリーですよ。…あ、すみません急に」

「いえ。そういう名前なんですね」


 私が疑問を呟いていると、不意に店員さんが話し掛けてきた。


「赤い方がリリアンベリーで、そのベルみたいな形をしたのがベルベリーです。どっちも甘酸っぱくて美味しいですよ、是非食べてくださいね」


 そう言い残して店員さんは仕事に戻っていった。


「へぇ〜。ティア、食べてもいい?」

「ん、食べて食べて」

「ありがと〜」


 ティアに許可を貰い、リリアンベリーと呼ばれた方を一つ摘む。


「ん、美味しい〜」


 ちょっとラズベリーっぽいかな?


「ベルベリーは…。…あれ?ブルーベリー?」


 形は違えど、味はそのままブルーベリーだった。


「ブルーベリーって?」

「ベルベリーに似た…というかまんまベルベリーの味の実が私の故郷にもあったの」


 これ、上手くいけばブルーベリージャムが作れるかな。楽しみ〜。好きなんだよね、ブルーベリージャム。


「ところでブランドマーク、どーする?」

「あー…どうしようね」


 まだマヨネーズしか作ってないしなぁ。この先食べ物以外を作るかもしれないし、そうなると食べ物のモチーフを使うのはちょっと…。無難に名前に関するものにしとく?だとすると、天谷里桜だから…。


「天…、谷…?谷は表しにくいな…。里は…ちょっと違うか…。やっぱ桜…?でも桜の花の形はそんなに好きじゃないんだよなぁ…桜の木を見るのは好きだけど…」

「ブツブツ呟いて、どーしたの?」


 ふ、とティアを見る。


「…うん、天にしよう」

「え?」

「天をモチーフにマークを考えます!という事で手伝ってもらってもいい?」

「天を?」


 天、と言った瞬間ティアが嬉しそうに笑う。


「天をモチーフにしてくれるなんて嬉しいな。勿論手伝うのよ」

「ふふ、ありがと。それじゃ早速なんだけど、どんな物を入れたらいいかな?雲とか…あと太陽とか?」

「日が出る時間帯だけが天じゃないよ、夜だって天なの。星が綺麗なの」

「あ、そうだね。星も入れて…」

「あとは天候だって大切な天の要素なのよ。雨雪雷、それに嵐…」

「うんうん、なるほど。じゃあ雲と太陽と星と…雨かな」


 メモ帳に簡単なモチーフを描いていく。


「…う〜ん、我ながら酷い」


 これ小学生の落書きでしょ。


「…ティア、絵って描ける?」

「無理」

「そっかぁ…」


 うわー、どうしよう。小学生落書きでいく?いっちゃう?これが味なんだって事にしとく?


「絵なら刺繍屋に頼めばいいと思うの」

「刺繍屋?」

「絵をデザインして、刺繍をする職人なの。この街には珍しく刺繍屋がいるの」


 刺繍屋!何か可愛い響き。そうだよね、出来る人に頼むのが一番。


「その刺繍屋さんってどこに居るの?」

「ここから少し歩いたとこにある小さい店なの。案内する?」

「お願い〜」

「分かったの」


 そんな事を話している内に紅茶とフルーツセットを食べきってきたので、そのままお会計を済まして店を出た。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「いらっしゃいませー」


 刺繍屋さんはこじんまりした建物の一階部分にあった。そこで出迎えてくれたのは美形の若い男性。肩まである髪を後ろで一つに纏めている。刺繍屋という名前から女性を想像してたため驚いた。


「ん?この前の妖精族ちゃん?」

「デザインを頼みたいの」

「あ、お客さんとして来たんだね、オッケーオッケー。何のデザイン?」


 あ、知り合いだったんだ。


「ブランドマークのデザインなの」

「ブランドマーク?妖精族ちゃん、職人なの?」


 男性は驚いたように目を見開いてる。


「違うの。こっちのリオのブランドマークを依頼したいんだよ」

「あぁ、こっちのお嬢さんか。どんなデザインをお求めですか?」

「えっと、これを良い感じに一つにまとめてもらえればな、と…」


 私はオズオズと先程の落書きを男性に見せる。


「ふんふん…テーマは空とかそんなかな?」

「はい。一応、天…っていうのをイメージしたマークが良いなと思って」

「天ね。このモチーフを使うんなら…あ、僕、店主のルクイーズです。よろしく」

「あ、リオです。こちらこそお願いします」


 自己紹介をしながらも男性──ルクイーズさんの手元は動いている。時々止まりながらも紙の上で素早くペン先を走らせる姿に思わず見惚れてしまう。


「こんな感じでどうかな?」

「わぁっ、凄い!流石プロ!」


 ルクイーズさんが描き上げた絵を見せてくれる。

 上手く表現出来ないけど、綺麗に纏まっているのだけは分かる。対して私は…いや、プロと比べるのはダメだよね。うんうん。


「えっと、じゃあこの紙に清書してもらっても良いですか?」

「え?他の候補とか大丈夫?」

「大丈夫です!なのでお願いします!」

「そういう事なら」


 生産ギルドで貰った紙をルクイーズさんに渡す。


「はい出来た」

「ありがとうございます!…あ、いくらですか?」

「うーん、今回は本当にサラッと決まったし手の込んだデザインでもないから…銅貨五枚で大丈夫ですよ」

「え、そんなで良いんですか?」

「…お嬢さんいい人ですね〜。殆どの人が絵画でもないのに金出せるかって駄々こねるのに…」

「あー…」


 どの世界にも居るんだね、そういう人種。


「刺繍はちゃーんとお金払ってくれるのにね。目に見えて材料費が掛かってるからだと思うけど…」

「…ご苦労さまです…」


 遠い目をするルクイーズさんに、労い以外の言葉をかけることは出来なかった。


「終わったなら早くギルドに戻ろうよ」

「あ、そうだね。じゃあルクイーズさんこれ。ありがとうございました」

「毎度ありー」


 ルクイーズさんに代金を支払い、お礼を言うって店を出ようとした。が、そこでルクイーズさんが呼び止める。


「あー、ねぇ妖精族ちゃん。お名前何て言うの?」

「レイティア」

「そ、レイちゃんね。二人とも、今度は刺繍も買いに来てね〜」

「また時間ある時に見に来ます」

「私も良いのがあれば商談に来るの」

「商談?」

「私は商人なの。リオも商人の卵なの」

「あぁ、そうだったんだ。じゃあ是非ともウチをご贔屓にお願いしますね」


 その会話を最後に、私たちは店を後にした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「すみません、印登録をお願いしたいんですけど…」


 再び生産ギルドに到着し、先程のカウンターにて印登録の手続きを申し込む。奥から来てカウンターで対応してくれたのは同じおばさんだった。


「はいはい、印登録ですね…あら?さっきの。随分早く決められたんですね」

「えぇ、まぁ」

「何はともあれ印登録ですね。お渡しした紙に描いてきてくれましたか?あとギルドカードもお願いします」

「はい」


 私は例の紙とギルドカードをおばさんに手渡す。


「はい、ありがとうございます。じゃあ少々待っといてくださいな」


 おばさんはそう言って後ろに下がっていった。


「ねぇティア、そう言えばルクイーズさんとはどこで知り合ったの?」

「追われてる時に偶然飛び込んだ店が刺繍だったの」

「追われっ…!?」

「そんなに珍しい事じゃないよ。この国は普通に亜人類に対しての差別あるし。妖精族なんて大陸を跨がなきゃ見れないような種族、捕まえて売ったら大金」

「不穏すぎる…。あれ、でも私が見てる限り追われるような事は…」

「普通の人は妖精族が居るなんて思わないから、大抵はハーフリングだと思ってスルーするの。この髪で耳も見えないし、尖ってなくてもハーフリングだと思われるの。たまーに耳が見えちゃってバレるけど」

「ハーフリング…?って、エルフの小さい版みたいな?」

「近からず遠からずなの」


 確かに、ティアの髪はフワフワしていてそれなりにボリュームがあり耳が見えない。


「けどこの容姿だからどの道捕獲されそうになる事は少なくないの」

「…なるほど」


 光に透けるプラチナブロンドの髪、宝石の様な鮮やかな水色の瞳。加えて色白の美形…それがティアの容姿である。


「苦労してるんだね…」

「全員返り討ちにしてるから問題無いの」

「え」

「ボッコボコなの」

「そ、そっか」


 …ティアって、実はすっごく強いのかもしれない…。


「お待たせしました、登録出来ましたよ。はい、これが証明印です。サイズ別の物など新たに購入する時はここで手続きしてくださいね」

「ありがとうございます」


 受け取ったのは直径約二センチメートル、高さ十センチメートル程の持ち手の付いた判子だった。石を加工して真ん中をくびれさせる事で持ち手としての機能を追加してるタイプだ。先にはしっかりと提出したデザインが施されている。


「お客さん、他に生産物登録もしたいって言ってませんでした?無いならギルドカードお返しするんだけど」

「あっ、そうでした。生産物登録お願いします」

「はいはい、何を登録するんですか?」

「これなんですけど…」


 カウンターの上にマヨネーズの瓶を一つ出す。


「これは?」

「マヨネーズ、っていう調味料です」

「調味料?これまた不思議な見た目をしてるねぇ…。あ、これに色々記入してくださいな。文字が書けなければ代わりに書くから、質問に答えてくださいね」

「あ、はい。文字は書けるので大丈夫です」


 受け取った書類に記入していく。

 えーと、名前はマヨネーズ…材料は卵…あ、エッグポローか。エッグポローの卵と、酢、食用油、塩、レモン…レモン汁入りマヨネーズって名前にした方がいいかな?あー、けどもうマヨネーズって書いちゃった…これインクだし…。


「すみません、二重線引いてその下に書き直してもいいですか?」

「ん?何だ間違えたのかい?新しい紙を渡すからそっちに書いてくださいな」

「あ、ありがとうございます」


 えぇっと…どうしようかな。


「ねぇティア、名前なんだけど…レモン汁入りマヨネーズと、マヨネーズ(レモン汁入り)、どっちの方がいいかな?」

「後の方が分かりやすい。この先別種類が出来たらその方が見やすくていいと思う」

「そうだよね、そうする。ありがとう」


 私はアドバイス通りに「マヨネーズ(レモン汁入り)」と書き直し、その他の項目は書き写す。そして最後に先程貰ったばかりの印を押そうとして気付いた。


「すみません、判子押すのにインクが…」

「あら、証明印はインク無しで大丈夫なんですよ。そのまま押してみてくださいな」


 え?そうなの?

 半信半疑で押してみると、確かに印は押されていた。


「おぉー、本当だ。…あ、これで大丈夫ですか?」

「確認しますね。…はい、はい、大丈夫です」

「えーと、それからレシピ登録を…わっ!?」


 そう言いかけて、グイッと腕を下に引っ張られた。おかげで体勢を崩し、転びそうになる。


「終わったなら行くの。レシピ登録はまた今度にするの」

「ちょっとティア!」

「いいから。先に商業ギルドに行くのよ」

「え、えぇ〜…何で?」

「…マヨネーズの価値はギルマス辺りとよく話し合って決めてから、レシピ登録した方が良いと思うの。戦争まっしぐらなの」

「だからそんな大袈裟な…。というかギルマス?それ一番偉い人でしょ?支店長的な…」

「それくらいヤバいブツだって事を自覚しないとこの先商人としてやっていけないの。リオはもう少しこの世界で見聞を広げた方がいいんだよ」


 う…、それはその通りだけども…。


「先輩商人の言う事は心して聞くのが最良なの。私は長く生きてて、しかもあくどい事は考えない良い商人なの。先輩から色々学ぶといいの」

「じ、自分で言うか…」


 半端ない自信だから、逆に安心するけど。悪い人じゃ無いのは分かってるし…。


「とにかく商業ギルドに行こ?日が暮れる前に」

「んー…分かった。ティアが先輩なのは本当だしね。アドバイスはちゃんと聞きます」

「良い選択なの」


 こうして私たちは商業ギルドに向かう事になった。

 …そろそろお腹すいたなぁ…。

次回!商業ギルドにマヨネーズを布教!

やっと本当に書きたかった感じのお話が書けそうです…。

食べ物で無双するぞ!

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