第一話「巻き込まれ転移」
本日より連載を開始致します。
よろしくお願いします!
「せ、成功だ…!成功したぞ!!」
ふと気が付けば、不思議な場所にいた。
私の周囲には歳の近そうな男女三名、それと見慣れない格好をした十人程の人。
「すぐに知らせるんだ!さっ、貴殿らは此方へ!」
「えっ、ちょっ!」
「何すんだ触んな!」
「きゃっ!?」
何が何だか分からぬままどこかに連れていかれそうになり、私たちは口々に戸惑いの声を上げた。
「ちょっと!何なのよここは!アンタら一体誰!?」
そんな中、一人の強気そうな女の子が声を上げると、周りの人達は一旦動きを止めて手短にこう話した。
「ここはカナン王国の城地下、儀式の間です。私達は王家に務める魔法使い。そして貴殿らは私達の召喚した勇者様方です!」
「「………は?」」
周りの三人と同時に間抜けな声を上げてしまった。
王国?魔法使い?召喚?何これ、何の冗談?
「まだ混乱していらっしゃるのでしょうが、歓迎致しますのでとにかく此方にいらして下さい」
恐らく周りの三人もだろうが、状況が上手く飲み込めないまま、私達は豪華な部屋に案内された。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
待って落ち着いて、とりあえず状況を整理しよう。オッケー大丈夫、私は冷静、私は冷静、私は冷静………。
「ふぅ…」
深呼吸をしてから頑張って脳みそを働かせる。
私はバイト帰りで、川沿いの道を歩いていた。そこで酔っ払いに押されてスマホを落として…川の中が光ってたから、川に落ちたんだと思って急いで取りに行ったら足を滑らせて…。
あぁっ!そうだ、私川に落ちたんだった…!!
…って、じゃあ何で濡れてないんだろう。
いやそれ以前にここどこって感じだけど。
状況整理をしていると程なくして変わったスーツを着た男性が私達を呼びに来た。
「陛下がお呼びです。ご案内しますので私についてきてください」
「そんなことより、状況を説明しろよ」
一緒にいた男の子がぶっきらぼうにそう言う。
「それも陛下から説明がありますので」
男性も負けないくらいぶっきらぼうに答えて私達を待つ。
ここにいても仕方ないので大人しく男性について行くことにした。それは他の三人も同じだったのだろう。その後は大人しくついてきた。
「よくぞ召喚に応じて参ってくれた、勇者たちよ。我はカナン王国を納める王。ここは王都の我が城である。して、急にこの様に呼び出され困惑していることであろう」
王と名乗るこの人は煌びやかな衣装に身を包み、所謂玉座に腰掛けながら話し始めた。
「ここは貴殿らが居た世界とは別の世界……この世界に貴殿らを呼んだのは他でもない、我が国のために戦ってほしいのだ」
王はそんな突拍子も無い事を言い出した。
「はぁ!?別世界って…そんなの信じるわけないでしょ!?」
わっ、急に大きな声出されたらビックリします。
「嘘ではない。…外を見てみるがいい」
そう言われ私達は大きな窓に駆け寄った。
「わっ…!?」
つい声を上げてしまったが無理もない。外は私が知っている世界とは随分違うものだった。
まるで、中世のヨーロッパ?みたいな街並み。もしかしたら今のヨーロッパでもこんな感じなのかもしれないけど。
「何よ…これ…」
先程声を上げた女の子が、今度は力無く声を出した。他の二人も似たような反応だった。
「これで分かったであろう。ところで貴殿らの世界には魔法はあったのか?」
「ま、魔法なんて…そんなおとぎ話みたいなモノ…」
王の言葉に答えるのはずっと話さなかったもう一人の女の子。
「ふむ、そうか。リンデル、お見せしろ」
「はい陛下」
少し離れた所に居たローブを着た人が返事をして、私達に近付く。
「これがこの世界の魔法です」
そう言って手に持っていた杖を振ると、途端に私達の周りに炎が現れた。
「「きゃあっ!?」」
女の子二人は同時に声を上げた。
「本当に、魔法が…」
男の子は呆気に取られている。私も同じだった。
そんな私達を気にすることもなく、王はまた話し始めた。
「理解してもらったところで本題なんだが…我々はとある国と長い事戦争をしている。あちらが全面的に悪い事で勃発してしまった戦争なんだが、このままでは我が軍は物資が尽きて負けてしまう。そうなると愛すべき国民が危険に晒されてしまうのだ…」
いや戦争やってる時点で十分危険だと思うんだけど…。
「頼む、我が軍と共に戦い、勝利へ導いてはくれぬか!選ばれし勇者たちよ!」
えー…本来ならワクワクするところだけど、状況が状況だからなぁ…。なんて思ってたら隣の男の子が元気よく返事をした。
「任せてください!俺、頑張ります!」
すんごく目がキラキラしてる。さっきまでのぶっきらぼうな態度どこ行ったの?まぁ分かるけどさ。
それにつられてか他の二人も声を上げた。
「家に帰れるなら考えなくもないわ」
「わ、私も…」
「おお!さすが勇者だ!では早速ステータス鑑定を!」
「はっ、陛下!」
従者の方々が持ってきたのは占いで使われてるような透明な球体だった。
「これはステータス鑑定の魔道具でな。我々の確認のために使わせてもらう」
「では勇者様、順番にこの球に触れてください」
最初に男の子が言われた通りにすると、映写機で映されたかのように空中にステータスらしきものが現れた。
私達は驚きながらも、次々に球に触れていく。
「おお!どの勇者様も流石のステータスでいらっしゃる!どなたも特性付きで…固有スキルも強いぞ!」
従者さんが興奮気味にそう言う。
「ささっ、そちらの勇者様も鑑定を!」
「は、はい」
少し緊張気味に球に触れると…。
「お、お〜…?」
先程までハイテンションだった従者さんが急に静かになった。
「…これは…」
それも無理はない。どれが何かは分からなかったけど、さっきまで数字がどれも500とかそんなだったのに、私は100とかそういう数字しか見えない。
「この方だけ数値が…それに特性も無し、固有スキルも鑑定だけ…それにスキルレベルが低いですね」
「ああ…それに歳が一人だけ違うし…」
と、歳は関係ないでしょう!知らないけど!
「あの、召喚に応じる時、ご自分の意思で水に触れましたか?」
「水?」
「勇者召喚の儀には水を使うのです。新月の夜、光を発する水に導かれ触れる者こそが勇者である…と」
「光る水…あっ!アレってスマホの光じゃなかったんですか…!?」
「すまほ?」
「私、川に物を落としてしまって…それを拾おうとして足を滑らせたんです。多分その時事故で触れてしまったんだと…」
室内がしんと静まり返る。
お互いやっちまった感がすごい。
「つまり…巻き込まれたというところでしょうか」
従者さんの一人がぽつりとそう口にすると、今度は打って変わって室内がざわめき出した。
聞こえてくる声は「どうするんだ」というものばかり。
それに耐えかねてつい叫んだ。
「あ、あの!!」
「…何だ?」
王が返事をしてくれた。
「何か私、特に役に立たないみたいなので!あと戦争とかも怖いし!常識とかそういうのと向こう数ヶ月分の生活費さえいただけたら後は自分の力で生きていきますので!それだけお願いします!」
咄嗟でよくここまで話せたものだと思う。と言っても本心だけど、交渉内容に関しては上出来じゃないかな。
最低限必要な事は責任とってもらって、後は自由。お互い悪い条件じゃないはず。
何せ相手は国だし…それくらい大丈夫だよね?
「ふむ、良いだろう。此方も巻き込んでしまったようだし、それくらいは保証しよう。では貴殿にはここで別部屋に移ってもらって他の者に世話をさせよう。おい、お連れしろ」
「はっ!ではついてきてください」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
従者さんの一人に連れられて来たのは先程とは別の部屋だった。相変わらず豪華だけど少し控えめかな?
「失礼、お名前を伺っても?」
「天谷里桜です」
いや鑑定の時名前見てなかったんかーい。
「アマガヤ殿、今世話役を呼びますのでここで少々お待ち下さい」
「はい」
従者さんはそう言い残して部屋を出て行った。