8話:未来の男性事情
今から少し先の未来。
遺伝子操作によって、自在に親の望んだ子供を作れるようになったらしい。
スポーツ万能な子。勉強が得意な子。見た目など、自由に選べるようになった。
するとなぜか、男子が生まれづらくなったらしい。
見た目や才能を自在に選べるはずなのに、なぜか女の子しか生まれてこない。
一部の研究者の説では、元々生物はメスしかいなかったそうだが、オスをつくり、交わることで、遺伝子情報を多様化させて、生命の生存率を上げようとしたという。ただ、遺伝子を自在に操れるようになってから、オスという存在が必要なくなったと、人類が判断したのではないか。とのことらしい。
ミクのいる200年後の世界では、結果、男は一人もいなくなってしまった。
ただ人は、なくなれば求めようとするようで、3Dグラフィックによる広告塔や、男性型アンドロイドによる店員や執事、危険な場所での作業員、はたまた男性型アンドロイドのみのアイドルグループなんかも作られているそうだ。
また世の女性たちの一部では、男性に憧れて男装をする者や、男性に求められるような人間になりたいと考え、かつて男性たちに人気だったアイドルや女優の格好をする者も増えているそうだ。
ミクが、アイドルライブの日々木奏の格好をしているのは、そういうことらしい。
「それでどうやって、過去に来たんだ? 未来の世界ではタイムマシンが完成しているのか?」
「いえ、タイムマシンは完成していません。でも、私のおばあちゃんが晩年にタイムマシンの研究をしていたんです。でも完成せずになくなってしまって。おばあちゃんが研究していたタイムマシンの側にいれば、おばあちゃんがいなくなった寂しさを紛らわせると思ったんです。そうしたら、急にマシンが動き出して」
「それでこちらに来てしまったのか。それはなんとも不思議な話だな。それに、そんな状況だと戻り方もわかない」
「そうなんです。だからどうしようか本当に困ってて。彼方さんには、本当に感謝しています。食事を与えてもらえた上に、泊めてまでいただいて」
しかし困った。
彼女の言っていることが本当なら、彼女はこちらにはいない人間だ。
家がないどころか、戸籍すらないだろう。
警察に突き出したところで、警察も困るだろうし。
追い返すこともできない。
しばらくはうちで面倒見るしかないのか。でも単身赴任中の母さんが何て言うか。
彼女の方を見ると、彼女は潤んだ瞳でこちらを見返してくる。
やばい。やっぱ可愛い。
悩んでわからないことを、いつまでも悩んでいても仕方がない。
とりあえず、今日は寝よう。
「今日はもう遅い。俺は明日も学校があるから、そろそろ寝るよ。ミクの布団も用意するね」
「はい、ありがとうございます」
そして母の部屋のベッドを用意すると、俺は自室へと戻った。
なんかどっと疲れた。
俺はすんなりと眠ることができた。