5話:雨に濡れて
夕飯も食べ終わり、部屋で一人ゲームをしているが、まったく集中できない。
昼間の授業の時と一緒だ。
外はすっかり暗くなっている。
当然だ、あれから何時間も経っている。
「流石に帰ったよな」
実は親からいじめられていて、家出したとか。家に帰ってまたいじめられているとか。
それとも、変な男に捕まって、変なことされているとか。
そういったことばかり想像してしまう。
外から音がした。
水滴が窓に当たる音だ。
雨が降ってきたのだ。
「流石に帰ったよな」
同じ言葉を繰り返す。
立ち上がり、冷蔵庫を開ける。
ため息をつく。
「仕方ないな。コンビニにジュースを買いに行くだけだ」
そうつぶやくと、俺は傘を差し部屋を出た。
時期は春も過ぎた頃合なのだが、雨のせいもあってか少し肌寒い。
昼間の公園の横を通り、ちらりと目を向ける。
いた。彼女だ。
雨が降ってきたためか、木の下に移動はしていたが、そこに座り込んでいる。
あの日々木奏の白を基調とした服は、夜の遠目からでもわかる。
彼女に間違いない。
「何やってるんだ!」
慌てて駆け寄り、傘を向けた。
「何やってるんだ!」
また同じことを繰り返す。
「また、会えたね」
「会えたねじゃないよ。こんなところで。こんなに、身体も震えてるじゃないか、寒さで」
俺は、彼女の腕を引いて無理やり立たせた。
「何を?」
「何をじゃない。行くとこないんだろ。うちに連れて帰るんだよ」
「いいんですか?」
「ほっとけないだろ」
そして俺は、彼女の手を引き家へと連れて帰った。
興奮していたのと、彼女と手を繋いでいることへの気恥ずかしさもあってか、早足になり、ちゃんと傘を差せていなかった為、余計に濡れてしまった。