尊厳走り
「基本、一人で何とかしてくれ。俺もあの女子を探ったりで色々忙しいから、フォローできんかもしれん」
俊介に念を押されるように強い口調で言われ、コクリと頷いた。
今日を乗り切れば明日は休日、覚悟を決めて玄関の扉を開ける。
「昼に屋上な。先行くわ」
忍者のような素早い身のこなしで、俊介が学校に向かって走っていった。
耳が痛くなるような寒風が吹く、少し霧がかった早朝だ。これだけ早ければ、人に出会うことはまずないだろう。
肩から掛けたスクールバッグの位置を整え、電柱に身を隠しながら早歩きで進み始めた。
「う~……もう一枚着てくるんだったか」
これまた嬉しいことに、俊介の家は学校からすぐの場所だ。
とっとと学校内に入って暖房にでも当たろうと考えていたら、すぐに校門前に辿り着いた。
鼻水をすすりながら進もうとした瞬間、視界の端に赤いリボンがチラリと入る。
「優人……?」
「おぼ!ぶっ……」
完全に油断していた。
何時から居たのかわからないが、校門前にクロモが立っていたのだ。
少し霧がかっていたおかげで直視はされなかったが、俺が隠れている電柱にゆっくりと近づいてくる。
「やばいやばいやばい……どうする?!」
心の中でそう呟き、周りを必死に見回す。
隠れれそうな茂みはなく、周りは高い塀に囲まれているだけだ。
全く持って嬉しくないが、ちょうど目の前に、ピンク色のフリフリが着いた女性の下着が干されている。
「優人……そこに居るんですよね? 明日は休日ですし、昨日の分を……」
冗談じゃない。
清楚は好きだが、清楚系ヤンデレはお断りだ。刃物を持ちながら近づいてくる女性なんて困る。
心の指で目の前に十字架を切り、女性の下着を口で掴み取った。
「優――きゃああぁぁあああ!」
「グルルルル……フシュルルル……」
パンツとブラジャーを頭に装着し、完全に顔を隠す。
肩に掛けていたスクールバッグで両腕をすっぽりと覆い隠し、変質者レベルを上げるためにズボンも下げておいた。
ガッチャガッチャとベルトの金具を地面に擦りながら走り、クロモの横をすり抜けた。
「俺は変態だぁぁぁあああ!」
命と人間としての尊厳。
どちらの方が大事かは言うまでもない。
校庭の隅で若干湿ったパンツとブラジャーを外し、一人静かに泣いた。




