やっぱり
空気から伝わる音に全神経を向けながら、漆で塗られた茶色の机を漁る。
「……クソッ、ない」
抜いた引き出しを手でゆっくりと押し戻す。コンクリート製の床の上を踵で優しく撫でるように進み、他の棚の中に手を突っ込んだ。
汚い文字で殴り書きされたメモを流し読みで眺めるが、一向に探し物は見つからない。
細い鉄が入れられた強化ガラスからは淡い光が差し込み始め、朝がもうすぐ来ると告げている。
「この系列の組なんだ、絶対どこかに……」
あいつが探しているあの女子。確か、夜桜クロモという名前だった。
正直、俺が金も貰っていないのにここまでする義理はあんまりない。もう四日間は数多のヤクザの事務所に夜通しぶっ続けで侵入し続けている。
一切の痕跡すら残さないように、額から伝う汗を袖で拭う。眠気と見つからない苛立ちで思わず暴れたくなるが、唇から血が出るほど強く噛み締めて堪える。
……あの女子には、追っかけ回されるわ、夜中の図書室でぶん投げられるわ、間接的な理由が重なって不良に殴られるわで、ちっともいい思い出がない。今だってそうだ。何にも楽しくない。
ブリキ製の棚の引き出しをもう少しだけ抜き、左手で落ちないよう下を押さえながら右手で奥の方を無理やり漁る。
「……あ」
それでも。
やっぱり、何だ。その。
こういうのも恥ずかしいけど、親友が好きになった相手のことだから俺は頑張ってるんだと思う。赤の他人なら、どれだけ金を積まれたってこんなことしないんだろうな。
「あ、あった……!」
四日間の疲労が一気に抜けるような感覚がし、紙をつかんだ右手が小刻みに震える。『港近くの倉庫 B-12』、そこであの女子の取引をするらしい。いかにもガサツな男が書いたような汚らしい字でそう書かれていた。
瞬間。引き出しを下から支えていた左手から力が抜けてしまった。
一拍の沈黙の後、シンバルを思い切り鳴らしたような音が部屋中に響き渡る。部屋の外の廊下からバタバタと荒い足音が近づいてくる。
「ぐっ!」
緩む足を必死で回し、窓の元まで近づく。紙を握ったままの右手で鍵を開け、窓を勢いよく開けた。
それと同時に、誰かが部屋に入ってきた音が響く。だが振り返る余裕も今はない。窓の外は二階の空中であったが、躊躇いもせず窓枠に足をかける。
バン!!
漫画の吹き出しのような、まるで作り物のような、そんな安っぽい炸裂音が耳に響いた。背中と左わき腹がじんわりと熱くなり、滲むような激痛が全身に広がっていく。
勢いづいた体は今更自分では止められず、痛みで思考が満杯なまま空中へと身を翻した。
背中から腹を銃弾が貫通したと気がついたのは、地面に着地した後だった。




