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とあるパパラッチの

 走りながら話すと言っていた俊介だが、その約束をまるで存在しないかのように無視して黙りこくった。携帯を画面をじっと見つめ、時折あたりを見渡す俊介。刃物のように鋭い痛みを走らす風が吹く暗闇をかき分け、街灯のみが頼りの住宅街の道路を駆けて行く。

 住宅街の道路を直進した後、俺達が通っている校門に辿り着いた。校門を飛び越えるのかと思いきや、体の向きを左に変え、明かりすらない状況でうっそうとした杉が生える山へと登っていく。獣道よりも更に荒れた道を進み、木の葉が擦れる音が静かに響く。

 俊介がしばらく登った後、携帯をスリープモードにする。肩から掛けていた黒いショルダーバッグのチャックを開き、夜闇色に塗られた望遠鏡を取り出した。眼に当てながらしぼりを調節していたとき、俊介が落ち着いた声色で突然話し始める。



「ヤクザと政治家、どっちの方が駄目だと思う?」


 俊介が望遠鏡で見つめる方向を眺めるが、ただでさえ視界を遮る草木に闇が重なり、一メートル先すらマトモに見えはしない。望遠鏡を持つ俊介の方に顔を向け、逆に問いかけなおす。


「それは、どういう意味だ?」


「……言い方が悪かったな。どっちの方が人を殺してると思う?」


 俊介が落ち着いた様で、望遠鏡を覗きながらそう言った。

 特に迷いもせず、三秒も経たぬ内に答える。


「そりゃ、ヤクザだろ。」


 そう答えると、俊介は静かに顔を振り、頬に含んだ空気を唇を細かく振動させてふざけたように出しながら話す。


「ぶっぶー、不正解。そして、正解だ。

 ……この世の中、ヤクザも政治家も対して変わらん。ヤクザの仕事は、良心的な奴らでみかじめ料。そうじゃない奴らは武器密売に麻薬売買、頭のいい奴は都市部の土地も転がしてるらしいがな。」


「その話が、今の状況と何の関係があるって言うんだよ?」


「聞け。……お前、政治家の仕事を知ってるか?

 一つで偉そうに語るなよ、全部だ。首相、大臣、県長……普段からどんな行動をして、仕事をして、どんな金の動きをしているか知ってるか?」


 俊介が望遠鏡から目を離し、怒りにも呆れにも近い感情の篭った声で話す。闇に紛れて見えないが、望遠鏡を力を出して握っているのか、時折ピシリと軋むような音がかすかに響く。

 頭を横に振り、俊介に答える。


「知ってる、わけがない」


「ああ、それが普通だ。それなのに、だ。

 ただ凄い役職と言うだけで、その人物が何をしているのかを知りもしないのに、萎縮する。畏怖する。尊敬する。

 悪いとは言わんが、良いとも言わん。少なくともそういう奴らが居るから、何の信念もなく横領をするクソ野朗が県知事なんかになるんだ。当然……その娘も、な」


 

 俊介が手に持っていた単眼の望遠鏡を、俺の右目に当てる。

 相当に高精度な暗視機能が付いているようで、白黒の明るい世界が夜に慣れた眼に飛び込んできた。月明かりすらない新月の夜、暗視機能は草木のしわまでもバッチリと照らしている。

 突然の光に涙の滲む目をこじ開けて、望遠鏡に広がる視界の先を眺める。山にぽっかりと開いた広場のような場所に、古臭い倉庫が建てられていた。その倉庫の鉄の格子が付けられた窓の向こうを、眼を細めてじっと見つめる。


「喧嘩は売られたら買う主義だ。俺の仕事関連とでもなってくれば、なお更な。」


 格子の向こうには、ランプのような光源を近くに置き、鉄パイプの椅子に深く座り込んでいる白鳥が居た。その白鳥の周りを守るように、かなり陽気な格好をした奴らが囲っている。


「俺は奴の人生どころか、奴の親の人生までぶっ壊しに行く気だ。それから、お前の彼女を助ける。……覚悟はあるか?」


 俊介が俺の目から望遠鏡を離し、ショルダーバッグの中に入れる。その様子を眺め終わった後、吸った息を三秒ほど肺の中に溜め、力強く吐いた息に言葉を載せた。


「当たり前だ。」


 そう答えると、俊介が予想通りと言った風貌でかすかに口角を上げ、草木を一片も揺らさないまま音もなく立ち上がった。それから、普段のふざけた雰囲気を僅かに出して話す。


「そうだ。俺はお前みたいに馬鹿力とかじゃないから、取り巻きの不良共は頼んだぞ」


「……ハ、ハァ?! お前、俺腕折れてんだぞ!?」


「大丈夫大丈夫。それに、ヤクザの事務所から盗んだコイツがあるからな。これで怯んだ隙に全員叩きのめせば良い」


 俊介が堂々とした様子でそう言い放ち、バッグの中から、なにやら黒い筒のような物を取り出した。手の中にすっぽりと納まるサイズで、円形のピンが上部に付いている。

 顎で手に持っているものを示し、眼を細めながら問いかけた。


「……それ、何だ?」



「閃光弾」


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