登校
いつもなら徹夜のせいで眠たくなる朝の時間帯だが、両腕から走る痛みのおかげで今日はやけに目が覚めている。
玄関口に着いた瞬間、予鈴のチャイムが校舎内に響き渡る。俺は両腕骨折で最悪何とか言い訳できるかもしれないが、問題は今腕に抱きついている夜桜さんだ。
「あのー、夜桜さん。早く三年の教室に向かった方がいいんじゃ……」
「……そうですね。では、また後でお伺いさせていただきます」
そう言い放ち、意外にあっけなく腕から離れてしまった。
鼻の中に漂っていたシャンプーの良い香りが消えてしまったが、流石に仕方がない。
腰まで伸びた黒い髪をたなびかせながら、廊下の角に姿を消してしまった。
「また後で、か……」
確かに命を助けたのは事実だが、俺は自殺を止めてしまったのだ。試したことがないので確証は持てないが、自殺なんてのはかなりの覚悟がいるはずだ。
それを止めた俺に恨みを抱いていてもおかしくはないが……まあ清楚だから大丈夫だろう。
「うわっ! やべ、早く行かないと!」
本鈴の低く汚らしいチャイムが響き、心臓が跳ね上がる。あのうすらハゲ、自分は遅れるくせに生徒の遅刻には馬鹿みたいに厳しいんだよ。
少しだけずれていたギプスの位置を膝で整え、教室に向かって走り始めた。
「セーフッ! セーフだ!」
「アウトだ馬鹿者。さっさと席に座れ。」
残念だが、あのうすらハゲより先に教室に辿り着くことはできなかったらしい。
出席簿に無常に刻まれる遅刻の印を眺め、がっくりと肩を落としながら席に座った。




