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この先雨模様

「セーフだっ!」


「アウトだ馬鹿者、早く席に座れ。」


 教室に思い切り滑り込んだが、どうやら間に合わなかったらしい。あの若ハゲが出席簿で教卓を叩き、早く座れと促してくる。

 結局、昨日は殆ど眠ることが出来なかった。寝坊はするわ朝食は食べれなかったわで、散々なことばかりだ。

 それに加えて、クロモも朝から居なかった。机の上に弁当が置いていたため、普段より早く登校しただけなのだろうが。


「えーお前ら。最近不審な中年のおっさんがこの辺りをふらついているらしい。もし出会ったらマトモに話さずに、逃げるか警察に連絡かをするように」


 恐らく、以前俊介が言っていたおっさんのことだろう。

 あの録音を聞いた時は誰かを探していた様子だったが、一体誰を探しているのだろう。たしか、小汚い餓鬼とか言っていた。

 

「じゃあ、今日も頑張れよ。」


 チャイムが鳴り響き、若ハゲが教室から出て行った。しかし、本当にいつ見ても悲しいハゲ方だ。お辞儀をした時、あんな頭じゃ誠意が伝わるどころか別の何かが伝わりそうだ。

 視線を窓の外に向け、空を眺める。

 今にも雨が降り出してきそうな空模様だ。こちらの気まで滅入ってしまいそうなほど暗く、見ていてちっとも面白くない。


「おう、優人。」


「ん? ああ、俊介か。もうすぐ授業始まるけど……」


 隣のクラスである俊介が、右腕をあげながらこちらに近づいてくる。

 机の上に腰掛け、いかにも疲れたという様子で肩をガックリと落とした。


「あの白鳥って女子のことを調べてたんだけどよ……調べれば調べるほどますます訳がわからなくなってきてんだ」


「……何が?」


 そう言うと、俊介はポケットの中から携帯を取り出した。

 俺達が住んでいる県の公式ホームページで、当たり障りのない内容が纏められている。今日の天気に今日の占い、そして明日の天気……これはニュース番組のサイトか何かか?


「どこ見てる。ここだここ」


 俊介が俺の思考を読み取ったかの様に呆れた溜息を吐き、携帯のとある部分を指差した。

 小じわと白髪が少し目立つ、初老の男がにっこりとした笑顔で載っていた。しかし、お世辞にもかっこいいとは言えない。二重顎で、目尻は可哀想なほど垂れ下がり、たらこ唇が異様な存在感を放っている。

 その下には、『()()() ()()』と小さく書かれていた。


「白鳥……って、おいおいおい……マジ?」


「そうだよ。あいつ、こいつの娘なんだよ。しかもこの県知事、相当な屑ゴミカスベイビーカスだしな……」


 どんな罵倒の仕方だと思ったが、ただの誇張表現だろうと受け流した。

 俊介が携帯をポケットに入れ、ふうっと溜息を吐く。


「親子揃って黒い噂尽くしとか、本気で笑えないよな。」


「……何でそんなこと知ってんだ?」


「あん? いや、アレだ。うん、勘だ」


 かなり苦しい誤魔化し方をしているが、勘だと言われてしまえばそう信じるしかない。気にならないという訳でもないが、今すぐ知らなければいけないほど大切という訳でもない。

 廊下を教師が歩いていったのを見て、俊介が慌てて自分の教室へ帰っていく。


 再度、窓の外に視線を向ける。

 空模様は、先ほどよりも明らかに暗くなっていた。


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