邂逅
「優人、迎えが来てるわよ~!」
「んぐむっ?! はいはい、俊介にちょっと待てって言っといて!」
半分犬食いの様に食べていた食パンを飲み込んでしまい、一瞬むせてしまう。
玄関に続く廊下から母さんが顔を出し、早く来いと手招きしてくる。
俊介が家に来るのはいつものことなのに、今日はやけに急かして来るな。
「全く、あんたも隅に置けないわねぇ! 両腕骨折したときは何だと思ったけど、可愛い彼女が居るなら問題ないわね!」
「……可愛い彼女? 何が?」
廊下で母さんに背中をバシバシと叩かれ、肩にスクールバッグを掛けられる。
半ば追い出されるように玄関の外につまみ出され、鍵をかける音が無常に響く。
「優人、早く学校に行きましょう」
塀の影から、いかにも清楚な雰囲気があふれ出ている女子高生が姿を現した。
黒い前髪にピンク色の花形のヘアピンを付けているのが、アクセントになってまた素晴らしい。
「ええ、はぁ……? ……行きましょう」
問題は、俺がこの人を全く知らないということだ。
当たり前の様に下の名前で呼んでくるし、家の前で待ち構えているし、恐ろしいことこの上ない。
「え~っと、その、どちら様……?」
何も話さず、こちらをずっと見ながら歩いていたその人に、覚悟を決めて話しかける。
きょとんとした顔で一瞬固まっていたが、すぐに顔を元の落ち着いた表情に戻してから言った。
「私の名前は夜桜 クロモです。つい先日、私のことを助けてくれましたよね?」
「ん……あぁ! なるほど、あの時の!」
そうだそうだ。夜中に薄暗い月明かりのせいで顔が全く見えなかったが、そういえばこんな感じの子だった。
どうやって住所と名前を知ったのかは不思議だが、どうせ俊介辺りが何かやっているのだろう。清楚そうだし、警戒することもない。
「思い出してくれましたか?」
「そりゃもちろんバッチリと!」
「……では」
夜桜、と名乗った彼女が腕に優しく抱きついてくる。
一体何がどうなればこんな事態になるのか理解不明だが、きっと神様からの贈り物なんだろう。清楚だし、そこまで深く考える必要もない。
「……ハァ……ハァ……」
ほのかに髪から漂ういい香りと、激しく走る腕からの激痛に耐えながら学校への道を歩いていった。




