お疲れムード
「なあ、あの女子は……?」
「さあ……けど、多分安全だな……今のところは……」
鉛の様に重い瞼を無理やりこじ開け、ストローを指した栄養ドリンクをちびちびと飲む。
机を挟んで向かい側に座っている俊介も、死んだ魚のような目でもくもくとサンドイッチを食べていた。
「先輩方、二人で寂しそうに食べてるっすね!」
どこからともなく、元気に満ち溢れたオーラを漂わせている白鳥さんが現れた。
俊介が食べている二つ入りのサンドイッチの片方を奪い、まぐまぐと勝手に食べ始める。
ガタリと、額に青筋を浮かべながら、俊介が白鳥さんを指差して怒鳴り声をあげた。
「てめぇ、誰のせいでこんなことになってると思ってんだ! お前は勝手にどこかに逃げやがるし、何故か俺たちがあの女子に追われるしで、一晩中ノンストップで走ってたんだぞ!」
そう。本当に一晩中、クロモから逃げるために走っていたのだ。
林の中の茂みに飛び込んでようやく巻いたと思ったら、山の向こうから白い朝日が昇ってきていた。しかもそこは他県だったので、またもや全力疾走で走り抜け、今に至るのである。
「第一、てめぇは何で俺の家に勝手に来たんだよ!」
「いやぁ、先輩方ってとっても面白そうじゃないっすか。退屈しなさそうだなぁ~って思ったんすよねぇ」
「こいつ……!」
本気で殴りかかりそうなほど怒っている俊介をどうどうと宥める。
こんなに怒っているところは初めて見るが、それも仕方ない気がする。
「じゃあ私は用事あるんで、また今度会いましょうっす!」
「二度と来んじゃねぇ!」
去っていく白鳥さんの背中に、俊介が鋭い怒声を浴びせた。
ふうっと眉間にしわを寄せながら溜息を吐き、再び俺の向かい側に座る。
空になってしまったサンドイッチの包装紙を潰し、ゴミ箱に放り込む。
「……あの白鳥さんって子、何だかんだ俊介と気が会いそうだな」
「どこがだよ?! うずまき管ごと耳クソ引っこ抜くぞてめぇ!?」
「いやいや、俺以外にそんなに声荒げて怒るってないからな……。俺の家に厄介ごとを持ち込まなければ、全身全霊で応援するけど」
般若のような顔をして激怒する俊介に、カラカラとした笑い声をあげる。
本当に厄介ごとさえなければ、応援するつもりなのだが……。
あの子絡みで絶対に何かあるだろうなという予感がし、深い溜息をふうっと出した。




