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自分の形と相手の形

「俺があんな女子程度に……」


「だーっ! しつこいな、いい加減にしろ!」


 未だに言い続ける俊介の腰を蹴り飛ばし、その振動が両腕と肩に伝わり、痛みで俺が崩れ落ちた。少しだけ呆れたような深い溜息を吐いた俊介に、体を引き上げてもらう。


「だってよぉ、俺はいつもヤクザと……」


「ヤクザ?」


「やべむぐっ! ……何でもない、忘れてくれ。」


 ……一体今の言葉が何を意味するのかはわからないが、とにかく今は気にしている場合ではなさそうだ。稲光のタイミングで近くにあった部屋のプレートを確認し、声を抑えて小さく呟く。


「情報処理室か……」


「ちょっと待て。情報、処理、室……おっ、あったあった」


 俊介がショルダーバッグの中から銀色に輝く鍵の束を取り出し、カチャカチャと小さな音を鳴らしながら一つの鍵を取り出した。

 再びバッグに入れた鍵束を訝しげに見つめたが、今は何も言わないことにした。

 パソコンが大量に置かれた部屋の中に入り、一際大きい教卓の下に身をかがめながら潜り込む。


「貴方……貴方……?」


 コツコツと廊下から響く足音に、息を限界にまで潜める。さっき少しだけ騒いでいたとはいえ、流石に部屋に入る姿までは見られていないだろう。だから、ここに隠れていることはバレていないはずだ。

 

 そんな思いも神様は手荒くあしらったようで、カララと引き戸式の扉が開く音が響いた。心臓がバクバクと音を鳴らし始め、体から思わず冷たい汗が流れる。


「教卓ですか……?」


 クロモの、そう呟く声が耳に届いてしまった。かなり無茶なポーズで隠れているため、苦しそうな俊介にコクリと頷き、床の上を音が鳴らないように注意を払いながら這い始める。

 幸いにして、稲光は収まっているようだ。今の隙に逃げるなりしなければ、本当に……。


 教卓の下を覗き込もうとするクロモの姿を横目で確認し、生徒用のパソコン机の下を一気に這い抜ける。両腕が使えないせいで速度は遅いが、あの感じなら十分に後ろの扉まで間に合うはずだ。


「やっと、見つけました……!」


「うぐっ!」


 背中の中央を上から思い切り踏みつけられ、思わず喉の奥からくぐもった声が漏れ出る。喉にヒヤリとした、悪寒に近い何かが走る。

 必死に体をもがくが、逃げるどころか前に進むことすら出来ない。振り返ることすらできないが、感覚で頭に何かが近づいてくるのが感じ取ることができた。


「うぉぉおおお! フラッシュバン!」


 俊介が雄叫びをあげ、カシャリというカメラのシャッター音を鳴らしながら、ストロボを限界まで点灯させた。

 背中を押さえつけていた足の力が少しだけ緩み、その瞬間に思い切り地面を蹴って前に這い出す。


「優人、行くぞ!」


「お、おう!」


 立ち上がって逃げ出そうとした瞬間、右の足首が柔らかく冷たい手で掴まれた。力強くではなく、少し力を込めればすぐに振りほどけそうなほど弱い。

 思わず立ち止まって振り返ってしまう。


「私、どんな風にでもなるから……貴方の気に入る姿になるから……」


「……クソッ!」


 力任せにその手を振り払い、俊介の背中を追って情報処理室を飛び出した。

 彼女を見ていると、どうにも調子が狂う。自分の形を無理やり捻じ曲げて、相手の形に合わせようとするその姿が。

 

 答えが出せないまま、まるで自分の思考の暗さを表しているかのような廊下をひたすらに走り抜けた。

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