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稲光の校舎

「わかっけどさぁ……学校ってどうなんだ?」


「仕方ないだろ、俺らが熟知してて隠れられる場所なんてここぐらいなんだから。」


 俊介の肩に足を乗せ、校門を無理やり飛び越える。雨足は更に激しくなり、もはや数メートル先を眺めることさえ難しくなってきた。

 医者にギプスを濡らすなと口を酸っぱくして注意されたが、まあ……大丈夫だろう。固定用の綿が水を吸って薄くなり、ガタガタ揺れまくって両腕がかなり痛むが、多分大丈夫。


「中庭の窓をこっそりと開けておいたから、そっから侵入するか。」


「準備しすぎじゃね? ある意味お前の方が怖いんだけど」


 夜の暗さに加えてゲリラ豪雨並みの雨のせいで、窓から見える校舎の中は暗闇に包まれている。べらんべらんと動く葉っぱの上でカタツムリが踊っているのを横目に、俊介が窓から中に入るのを待った。

 

「おい……しょっと! あいたたた……腕と肩が……」


 俊介に服を引っ張ってもらい、少し体制を崩しつつも校舎の中に入ることが出来た。着地したときの靴の音が暗闇の中に反響し、第六感めいた恐怖を煽る。

 スニーカーの裏に付いた泥をカツコツと地面で叩きながら落とし、暗闇に目が慣れるように少しだけ目を細めた。

 

 空の雲が擦れ合い、ゴロゴロと稲光の音をどこかから響かせる。どうやら雷も降り始めたようだ。

 

「雷の光でだけで明かりを確保するのは厳しいな……スマホ持ってるか、俊介?」


「おう、持ってるけど……充電切れたのか?」


 ポケットの中に突っ込んでいたスマホを取り出せと俊介に目配せした瞬間、校舎の中が一瞬照らされた。

 偶然と言うべきだろうか。稲光に反射した銀色の、まるで刃物のようなギラギラとした光が瞳孔の中に飛び込み、視神経を伝わってくる。

 どうどうと地面と空がうねりをあげる声が耳に入り、ようやく脳の危険信号がガンガンと警鐘を鳴らしているのに気づいた。


「やべぇ、逃げるぞ俊介!」


「あ? 何……あぁ?! 何でここが……!」


 背後から響く、カツコツとしたリズムのいい足音だけが耳の中に入る。先ほどまで聞こえていた雨足と稲光の音などもはや気にならず、自らの足と耳にだけ全神経を集中させた。

 

「……何がいけないのですか、貴方……?」


 右足を軸に急停止し、廊下の奥にある階段を一段飛ばしで一気に駆け上がる。ほぼ何も見えないが、校舎の地図程度は全て頭に入っている。

 「嘘だろ、俺があんな女子に……」とか何とかを呟いている俊介に大声で叱責し、顎で早く来いと伝え、東校舎の二階廊下をかなり全力で走った。



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