頼りがいのある友人
肩口の傷の痛みを堪え、近道である路地裏の中を走る。骨折した部分と傷口に振動で痛みが走るが、唇から血が出るほど強く嚙んで耐えた。
「おお、やっぱ来―――! 大丈夫か、おい?!」
俊介が自分の家の前でビニール傘を差して立っていた。俺の服に滲む血と肩の傷を見るなり、傘を放り捨てて近づいてくる。
雨とも冷や汗とも分からない液体で全身を濡らしたまま、俊介の家の玄関に倒れこんだ。餌を求める魚の様に口をパクパクと動かし、必死に肺の中へ酸素を取り込む。
「あー……奇跡的に骨と内臓を全部通り抜けてるな。二十センチ程度の包丁ってところか……。こんぐらいなら大丈夫だ、すぐ治る。」
消毒液を吹きかけた白い布を傷口に押し付けられ、思わず腹の底から苦悶の声が漏れ出る。止血用の包帯を脇の下を通すようにして、強く締め付けられた。
「救急車ァ……」
「……いやぁ、止めといたほうがいいぞ。どうせその傷はあの女子が原因だろ?」
尻を上に突き出し、熱くなった頬を冷たいフローリングの床に押し付ける。俊介が木製の救急箱を雑に閉め、廊下の壁にもたれかかりながら言った。
「人の腕に盗聴器仕込んでくる危険人物だぞ。今救急車呼んでみろよ、一瞬で居場所がバレて病室に乗り込んでくるぞ」
「じゃあどうしろって言うんだよ……」
「警察。」
呆気からんと、俊介がそう言い放った。
確かに警察に通報すれば、一発で傷害罪が適用されるだろう。未成年だ何だを差し引いても、高校退学は免れない。
しかし……。
「警察は……嫌だ。何と言うか、言葉に出来ないけど……」
「はいはいわかってたよ。高級グミの後味より甘ったれなお前だからなぁ。」
俊介が靴箱の上に置いていた黒いショルダーバッグを掴み、右肩から左腰に通した。
首をボキボキと鳴らしながら靴を履き始めたその背中に、問いかける。
「手伝ってくれんのか?」
「その体じゃ逃げれんだろ。高校からの付き合いとはいえ、な。」
「……いやだわん、ワタクシ惚れちゃいそう。うふ~ん。」
「死ね」
壁に背中をつけ、体重をかけつつズルズルと服を擦りつけながら立ち上がる。
右肩の痛みは相変わらずだが、とりあえず流れ出る血は止まったようだ。
巡回の警察に見つかれば即検挙クラスの血の跡が出来てしまっているが、外の雨は次第に強まってきている。この街の警察は適当なところが素人目でも分かるほど多いので、こんな土砂降りの日に巡回なんてことはしないだろう。
「相合傘、ワタクシうれしいわ~ん。」
「お前、やっぱり一人で逃げるか? 俺の家には親が居るから絶対に入れさせんぞ?」
「すみませんでした。」
黒色のスニーカーをかかと履きし、大きめのビニール傘に互いの体を寄せ合った。
俊介は、頼りになるときは、本当に頼りになる。神様にありがたい友人を持てたことを感謝しながら、ついでにこの状況を打開してくださいと拝んでおいた。




