最後の平和な日
「おーっす、元気?」
「元気に見えるか? この両腕を見て?」
うまい棒が大量に入ったレジ袋を持った友人、田宮 俊介がベッドの横の椅子に座った。
俺の両腕を見てニタニタと楽しそうな笑顔を浮かべ、袋の中から適当にうまい棒を取り出して食べ始めた。
「しっかし、清楚大好き人間の時岡 優人様が同じ学校の女子を救って両腕骨折ゥ? 何ともまぁ、ギャルゲーみたいな……」
「いいんだよ別に。自殺をするなんて相応の理由があると思うが、流石に十代で命を捨てるなんてことは絶対に止めさせた方がいいからな」
わざと俺に見せ付けるようにうまい棒を何本も口に放り込み、サクサクと心地よい音を鳴らしながら咀嚼する。
右足で頭に軽く蹴りを決め、フンスと鼻息を吐いた。
「すまんすまん、ほれ。」
俊介がチーズ味の包装紙を破き、俺の口に突っ込んでくる。
安定感のある美味しさに少しだけ感動し、飲み込んだ後に小さく溜息を吐いた。
「それで? そんな堅苦しいこと言いやがって、本音言ってみろよ、本音!」
「いや、マジで勝手に体が動いたんだって」
「チッ。下心があったとか言ったら、すぐにでもお前の親にバラしてやったのに」
つまらなさそうに舌打ちをし、なっとう味を食べる俊介。よくあんな味食えるな。
頼りになるときは頼りになるが、隙をみせたらすぐにとんでもないことをしでかす奴だ。そんな奴しか友達がいない俺にも問題はあるが。
なっとう味を美味しそうに食べる光景に、胃の中から何かが這い上がってくるような感覚がした。普通の納豆は大丈夫でも、お菓子で再現された違和感のある臭みは何故か無理だ。
口の端に付着したカスを指で取り、何かを思い出したように手を叩いた俊介。
「おっ、そうだった。お前が助けた女子、青痣が出来る程度の軽い打ち身で済んだってよ。ぜひともお前にお礼が言いたいらしい」
「へ~……マジ? 期待していいかな?」
「していいぞ! その代わり、失敗したらこの世に存在することを居た堪れなくする位にしてやるからな!」
「俺、お前に何か恨まれるようなことしたっけ?」
ハハハと笑いながら再びうまい棒を食う俊介から視線を外し、両腕を固めているギプスに目を向ける。
指先はかろうじて動かせるのだが、不便なことこの上ない。小便をするときも両腕から激痛が走り、出るものも全く出ない。
「んじゃ、また明日」
「おう。また明日、学校でな」
「ん、もう学校行けんの?」
「おう。生活は不便だけど、患者が退院したいなら出来るんだってさ」
「ふーん。じゃ、また学校でな!」
俊介が病室から出て行き、少しだけ深い息が口から漏れた。
ゲームが出来ないのは本当に辛い。RPGなんかは出来るだろうが、アクションやFPSは絶対に無理だ。
積んでいたRPGを消化できるいい機会かな、と思考を無理やり捻じ曲げ、枕に顔をうずめて不貞寝した。