汚いおっさん暗い空
「……気づいたんだけどさ。」
授業間の短い休憩時間、俊介と廊下の角で話す。
冬のこの時期、廊下は教室より寒いせいで人気は全くない。
「ショッピングモールから帰って、クロモのご飯食って、寝て……その後はクロモと家でだらだら過ごして土日を使ったわけだけど……」
息を一瞬止め、勢いよく吐き出す。
眉間にしわを寄せながら俊介の目を見て、叫ぶと言っても過言ではない声量で言った。
「俺の家に何日泊まってるんだ?! 高三だから就職とか受験とかあるし、親が心配してるだろ!」
そう。
もう四日も俺の家に泊まっているのだ。
同性ならともかく、男の家に何日も泊まることを親が許すだろうか。ましてやまだ十二月とはいえ、高校三年生の冬という大事な時期である。
「さぁ……案外毎日家に帰ってるんじゃね?」
「んな馬鹿な。朝から夜までずっと居るし、なんなら深夜にトイレ行った時によく出くわすんだぞ」
俊介が唇を尖らせ、自らの携帯を弄り始める。
とある録画データを開き、無線式のイヤホンを俺の耳に付けてきた。
『おい餓鬼ぃ……ここら辺でお前より小汚いクソ餓鬼を見なかったかぁ?』
『知らん。近寄んな』
『チッ、あいつがいねぇと缶ビールが一本しか買えねぇ……もうお前に用はねえよ餓鬼、ペッ!』
俊介と酒で喉を焼いたようなガラガラ声の男の会話が入っていた。
イヤホンを耳から外してもらい、一度息を吸ってから話し始める。
「何これ?」
「絵に描いたような汚物。」
「そりゃわかってるよ」
携帯をスリープモードにし、ポケットの中に突っ込む俊介。
廊下の寒さは更に増し、自然と歯がカタカタと音を立て始めた。
「最近ここら辺で噂になってるおっさんだ。さっきみたいなことをここら辺の学生に聞きまわってるらしい。」
「ふ~ん……そりゃあまた、面倒くさいおっさんが居たもんだな」
窓の外の空に雲が集まり始め、今にでも雨が降りそうなほど暗くなってくる。
天井に設置された切れかけの電灯が光り、廊下を心もとなく照らす。
壁に設置されたスピーカーからチャイムが鳴り響く。
「今日、一度クロモに帰れって言ってみるよ。」
「……もし。もし何かあったらすぐに俺と合流しろ。」
低く落ち着いた声色で、俊介が言った。
その声はチャイムの音に紛れてもハッキリと聞こえ、不思議な感覚を覚えた。
俊介の言葉に深く頷き、自分の教室へと足を進めた。




