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エセ外国人の携帯返し

「違うよね。」


 映画を見終わった後に、ふと高校生レベルの知識が頭の中に帰ってきた。

 最後の敵を倒すときの熱い展開は痺れたけど……そういうことじゃない。

 エンディングロールが流れるスクリーンから目を離し、ゆっくりと椅子から立ち上がる。


「映画とは面白いものですね!」


「ああ、うん……」


 違うんだよなぁ。

 壁の電子パネルに表示された恋愛映画の広告を眺めるクロモに、小さく溜息を吐く。

 その様子は、俺より一つ年上とは思えないくらい可愛らしい姿だ。アクション映画の広告を見て少し興奮している様子など、おもちゃ屋に来た小学生のようである。

 楽しませる目的で来た筈ではないのに、いつの間にか俺も楽しんでいた。もう何が起こったのか分からない。


「Oh! I'm sorry.」


 ドスンと、明らかに地毛の金髪を生やした背の高い外国人がクロモにぶつかった。

 右手を挙げて会釈した後、スタスタと一直線にこちらに近づいてくる。


「HEY! Do you like a Magic girl?!」


「は?」


 国語はまだ得意なほうだが、英語はチンプンカンプンだ。意味を理解するどころか、発音がネイティブすぎて全く聞き取れない。

 両手が使えないのでボディランゲージも出来ず、何とか簡単な英語で意思疎通を図ろうとする。


「Did you have fun?」


「オオ……イェース?」


 そう言うと、その男は今までニコニコと笑っていた顔が、急に何の感情も篭っていない顔に変貌した。

 数秒その顔で固まっていたが、少しだけ息を吸ったかと思うと、


「……俺の二千五百円返せ……You asshole.」


 そう小さく呟き、俺のギプスの間に何かを押し込んで離れて行った。

 ギプスの間には、クロモに盗られていた筈の携帯がねじ込まれている。


「優人、さっきの外国人の方は……?」


「さぁ。きっと性格と手癖が悪いエセ外国人だよ、きっと。」


 クロモに背を向けながら指先で携帯を弄り、俊介に『I'm sorry.But,I had good time.』と送った。

 ポロンとという着信音と共に『Fuck "Yandere lover"』というメッセージが届いた。

 口角を少しだけ上げて笑い、携帯をギプスの間に隠した。


 クロモが電子パネルの右上に表示されていた時計を確認し、お腹に手を当てながら言った。


「もう二時ですね。帰ってご飯にしますか?」


「……じゃあ、お言葉に甘えて、お願いします」


 一応外食用のお金も持ってきていたのだが、彼女は家で料理を作る気満々なようだ。

 トイレからこちらを見つめる外国人にウィンクし、首を回しながら原付のある駐車場まで歩いた。



作者の英語力は中学止まり

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