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ショッピングモール

 休日だからか、そこまで広くないショッピングモールとはいえ、大勢の人々が買い物を楽しんでいた。

 どの通行人も厚手の上着を羽織り、異常なものを見るような視線をこちらに向けている。


「映画館はもう少し歩いたところですね。……どうしました?」


 クロモがショッピングモールの電光案内板を指しながら、きょとんとした顔で言った。

 奇天烈な格好をした両腕にギプスを付けている男に、性格はともかく容姿端麗な女性が抱きついているのだ。

 こんな奴が居たら俺も見るだろうし、なんなら恨みも込めて睨むこともするだろう。写真を撮って家で寂しく泣くかもしれない。

 

 差恥で真っ赤に染まった顔を両腕で隠すことも出来ないもどかしさを感じ、出来るだけ視線を地面に向けて存在感を消そうとする。しかし、当然といえば当然だが、このピエロのような格好のせいで全く隠れることが出来ない。


「腕を離してくれると……ありがたいんですが」


「何言ってるんですか。カップルは腕を組むものでしょう?」


 悪化してないか?

 腕を組む彼女に聞こえないように小さく溜息を吐き、スーツ店の女性店員と話している俊介を鋭く睨む。

 横目でこちらを見た後、嘲笑を込めた薄ら笑いを顔に浮かべてきた。

 今にも飛びかかってしまいそうな煮えたぎるマグマの如き怒りを心の奥底に閉じ込め、ふうっと湿気の多い溜息を吐いた。



「……優人? 一体誰を見ているんですか?」


 腕に抱きついていたクロモが冷たく重い声色でそう言い放ち、第六感が消防車のサイレンの様に絶え間なく鳴り響き始めた。

 話しぶりから察するに、俺が女性店員のことをじっと見ていると勘違いされたのだろう。額からあふれ出る冷や汗で冷静さを取り戻し、声を震わせながら必死に弁解する。

 

「いや、いいなぁと思って! スーツがね!」


「……ああ。私以外の女性を見ていたのかと勘違いしてしまいました。」


 頭の上から押さえつけられる様な重い空気が霧散し、心臓がバクバクと鳴り響く。

 扱いが難しいというか、安定した使い方が理解できないというか。軍手を着けた状態で超精密な爆弾を弄っている気分だ。

 失敗すれば命が危うい事態になるのだから、下手に動けない。


「さぁ、早く行かないと上映時間?というものになってしまいますよ。」


「嘘ッ! もうそんな時間?!」


 電光案内板の右上に表示されていた時刻を確認し、目を見開く。

 映画の始まる時間まで残り十分もない。

 

「私、映画を見るのは始めてで……作法とかは……?」


「作法?! そんなの静かにしてれば大丈夫だよ!」


 この場で映画を見せなければ、嫌われるという計画もこのチケットも俊介の二千五百円も無駄になる。

 腕に抱きついた彼女の歩幅に出来るだけ合わせる様に素早く歩く。

 未だスーツ屋の店員と話している俊介に目配せし、付いて来てくれと頼んだ。


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