出発
「……クッソだせぇ……」
姿見で自分の服を確認し、溜息混じりにそう呟いた。
下半身が黄色、上半身が黄緑色。点在する水色の水玉模様。おまけに背中の部分に赤い羽根の刺繍がされている。
これに加えて両腕に白いギプスを付けているのだから、もうセンスが悪いどころの話ではない。通行人に通報されてもおかしくない程だ。
「まあ一日の我慢だ……我慢、我慢……」
胸の奥から込み上げる恥ずかしさを必死で抑え込み、ポケットに映画のチケットを突っ込んだ。
部屋の扉を開き、フローリングの階段をゆっくりと降りて行く。
「クロモ、ど、どうかなぁ? かっこ、おこいい?!」
リビングに居るクロモに対し、身に着けている服を見せながら言った。
恥ずかしさで声が震え、何故か語尾が強くなってしまった。恐らく、顔もかなり赤くなっているだろう。
落ち着いた様子で服を一瞥した後、静かににっこりと笑顔を浮かべた。
「ええ、かっこいいですよ。」
「そ、そう……ならよかったんだ、うん」
正直、これだけで平手打ちされそうな気もしたのだが、彼女は全く動じていなかった。
座っていた椅子をゆっくりと元の位置に直し、伸ばした髪を少しだけ揺らめかせながら立ち上がった。
クロモの服装は、正直よくわからないが、多分可愛いのだろう。
くるぶしまで届く長めのスカートに、ファーのついたもこもこのコート。
俺の清楚基準はクソだが、顔と髪と性格でしか判断しないので、服に関してはよっぽどのことがない限り気にしない。
「それでは出かけましょうか。」
「っと! 俺、映画のチケット持ってるから一緒に見に行かない?!」
白い封筒に入れたままのチケットをクロモに見せる。
目を少しだけ見開き、再び聖母の様に眩しく優しい笑みを浮かべた。
「わかりました。……優人が私のために映画のチケットを取っていてくれるなんて……」
嬉しそうに目を瞑り、少しだけ頬を赤らめる。
ごめん。これ俊介が買ってきた奴だし、そもそも十代後半の男女が見に行く映画ではないんだ。
チケットをポケットに乱雑に入れる。
「といっても、どうやって移動する?」
「私が原付のバイクを持っていますので、それで移動しましょう。」
原付?
二人乗り?
ギプスを付けたままの両腕を一瞥し、少しだけ恐怖を覚える。
「危なくないですか?」
「スカートを着ていますが、運転は慣れていますので大丈夫です。」
そうじゃないんだよなぁ。
玄関に向かって歩くクロモを後ろから眺め、心の指で十字架を切った。




