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背後隠れ

 一階から、よく聞きなじんだ扉の開く音が地面を伝わって響いてきた。

 俊介も気づいたようで、床に耳を当てて物音を探っている。

 家の鍵を開けて入ってきた人物は、ゆっくりと廊下を歩いている。


 内のキッチンは、もう相当古いタイプだ。

 包丁を閉まっている戸棚などは、開いただけで二階まで蝶番の軋む音が響いてくるほどだ。

 その軋む音が、確かに俺達の耳に入った。


「逃げよう!」


「間に合わないっつの! クッソ、お前の部屋隠れるところ少ないんだよ!」


 俊介がベッドの下などを確認するが、そこには将棋盤などのボードゲームを無理やり押し込んでいるため、隙間が一切ない。

 机の下も一応隙間はあるが、小学生や小柄な女性ならともかく男子高校生が入れるようなスペースではない。


 トッ、トッ、トッとフローリングの階段を上ってくる音が聞こえてくる。

 その音は俺の部屋の前で止まり、ノック音が部屋の中に軽快に響く。


「優人、入りますよ」


「クッ……優人、お前、出来るだけ息を吸い込んで壁を背にしろ!」


「は、はぁ?!」


 ドアノブがゆっくりと傾き、扉が少しずつ開いていく。

 息を肩が持ち上がるほど大きく吸い込み、俊介の言うとおり壁を背にして立った。




「優人、返事くらいしてください」


「あ、あはは~……ちょっと寝ぼけてたから……」

 

「……誰か来ていたような気配がしましたが、気のせいだったみたいですね。」


 クロモが、右手に持っていた包丁を光に反射させる。

 シーツと枕が覆われた布団の方を見て少しだけ目を細めた後、こっちを見て微笑んだ。


「休日、私と出かけませんか?」


「い、いやぁ~……ちょっと無理――」


「行きますよね。」


「はい。」


 光のない瞳で睨まれ、抵抗することも出来ず約束を取り付けてしまった。

 満足したように一度頷き、部屋から出て行こうとしたクロモが思い出したように言った。

 

「そうでした。私、しばらくこの家に泊まります。晩御飯も今からお作りします。では……」


 ガタリと、無機質な扉が閉まる音が響く。

 体全体に吸い込んでいた息を穴の空けた風船の様に勢いよく吐き出し、後ろに居る俊介を肘で突いた。


「お前馬鹿じゃねえの? 人の後ろに隠れるとか、見つかったらどうするんだよ」


「まあまあ、見つからなかったんだし大丈夫だろ。」


 人の動きにピッタリと体を合わせて隠れるなんて、常人の思いつくことでない。

 結果的に良かったものの、こういうことはこれっきりにして欲しい。


「というか、どうしよう。俺の家に泊まるとか、明日遊びに行くとか……」


「ご愁傷様。じゃ、俺帰るから」


 窓を開けて逃げようとする俊介の体を蹴り、無理やり部屋の中に押さえ込む。

 首に足を絡めてベッドに引き倒し、頭から布団に押さえつける。


「この野郎、一人だけ逃げようたってそうは行かんぞ! 明日の休日、お前も着いて来い!」


「はいはい、わかったから! 着いて行ってやるから放せって!」


 足の拘束を解き、俊介が首を押さえながら咳き込む。

 面倒くさそうに溜息を吐き、頭をボリボリとかいている。


「……じゃあ、明日の早朝に何とか俺の家に来い。色々と渡してやるから」


「わかった。じゃあな」


 窓の外から出て行く俊介を見送り、ベッドに座る。

 ……また逃げるわけにも行かないし、本当にどうしよう。


 今日最大の溜息を吐き、がっくりと肩を落とした。


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