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携帯

「おい俊介、いるか?」


「あー、滅茶苦茶元気だぜ。パンツ被った変質者を通報するか悩んでる以外は」


「……何で知ってるし」


 屋上のフェンスに寄りかかりながらコンビニのからあげ弁当を食べている俊介に近づく。

 俊介の隣の地面の砂を靴で軽く払い、どっかりと深くあぐらをかいた。

 

「あの女子は来てないか?」


「来てないだろ。そもそも学年が違うからな、早々見つからない」


 俺達は二学年、向こうは三学年。

 一年と二年は東校舎、三年は西校舎と別に分けられている。特に理由がない限り別校舎には近づかないというのが暗黙のルールだ。

 中庭のときはすぐに見つかってしまったが、アレは……盗聴器のせいだろう、多分。


「で、探るとか言ってたけど、何か見つけたか?」


「んー……何もない、って言うことを見つけた。」


 一際大きなからあげを口に放り込み、何回か嚙んでから飲み込んだ。

 手元においてあったペットボトルのお茶を飲んで溜息を吐き、俊介が再び話し始める。


「学校での成績も態度も優秀、いじめも無し。ごくごく普通の真面目な女子学生、って感じだわな」


「……じゃあ、何で自殺なんかするんだよ。」


「知らん。」


 ペットボトルの蓋を強く絞め、コンクリート製の地面に乱雑に置く。

 学生服の内ポケットからスマホを取り出し、あくびをしながらネット記事を眺め始める俊介。

 暴力団関連の記事を見ているようだ。物騒な……


「そういえば、前から思ってたんだけどさ。俊介って異様に変なモンばっか持ってるよな。この前の発見器もだけど」


 そう言うと、俊介は顎に手を添えて数秒唸り、薄く口を開けて息を吸い込んだ。


「ま、バイトの関係だわな。」


「ふーん。ミリタリーショップとかホームセンター?」


「……好きなように思っといてくれ。関わらんほうがいいこともあるからな」


 珍しく真剣な声色で言うので、俺は口を閉じた。

 携帯で曲でも流そうかとポケットを触ったが、いつもならあるはずの膨らんだ固い感触がない。

 スクールバッグの中には今日は入れていないから、体のどこかに入れているはずなのだが、服をひっくり返しても全く見つからない。


「どっかで携帯落とした! うわっ……最悪」


「あーあ、ご愁傷様。一回電話かけてやるから、落し物で職員室に――」



『ピルルルル! ピルルルル!』


 俊介の携帯が鈴の音のような着信音を鳴らし、震え始める。

 黒い画面に白い文字で『時岡優人』と表示されていた。


 俊介が意を決したように緑の通話ボタンを押し、耳に当てる。


「……よし、逃げるか。」


 数秒耳に当てただけですぐに通話を切り、俺の肩を掴んで歩き出そうとする俊介。

 横目でチラチラとどこかを見ているので、自然とその視線の先を追ってしまった。


 三年の西校舎、三階の中央。

 俺の携帯電話らしきものを耳に当てたクロモが、こちらをじっと睨んでいた。

 

「……怖い」


「下手なホラー映画よりホラーだな……マジでご愁傷様」


 身を隠しつつ、屋上から逃げるようにその場を去った。



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