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神様からの贈り物

「あーあ、だり~……」


 腹の底に溜まった疲れが飛び出るような大きなあくびと共に、凝り固まった肩の筋肉をほぐす。

 ぽんぽんと頬を両手で叩きながら気付けし、どこかの民家から漂ってきたカレーの匂いを吸い込んだ。


「美術の課題って言ったって、何も三時間も残すことないだろ……」


 恨めしげにそう呟き、足元の小石を蹴りながら歩く。


 他人の顔をデッサンしろという課題だったのだが、相手が男だったのでいまいち気乗りしなかったのだ。それで、アニメ顔の清楚系女子高生を提出したら怒鳴られた。 

 放課後に呼び出しを喰らってよくわからないおっさんの顔の像をデッサンさせられ、何度も描き直しを強制されたのだ。


「清楚系女子高生さん、今なら一人空いてますよ~……っと。もう七時か」


 スマホで時刻を確認する。

 八時から友人とゲームする予定があるんだった。さっさと家に帰らなければ。

 そう思いつつ走り出そうとし、ふと、空を見上げた瞬間だった。



 ガシャガシャと、屋上に設置されたフェンスが擦れあうような音が聞こえた。

 満月の月の逆光に照らされ、何者かがフェンスの上に立つ。


「……何やってんだあいつ?」


 頭をボリボリとかき、近くの地面を見回す。この辺りには畑や花壇なんて柔らかいものはなく、全てコンクリートで埋め固められているのだ。落ちれば即死間違いなしである。


「演劇部の練習にしちゃ時間が遅すぎるし……」



 しばらくフェンスの上で髪をたなびかせていたその人物は、何を思ったのか、突然宙に身を投げ出した。


「何やってんだ!?」


 咄嗟に足が反応し、両腕を前に突き出す。

 頭から落ちてくるその人物の真下に移動し、しっかりと両足を開いて重心を安定させる。



「いっ……あんぎゃあああぁぁぁあああ!」


 小柄なそいつをしっかりと、お姫様抱っこのように受け止める。

 全身に氷を砕いたような音が響き渡り、両腕にナイフで刺されているような激痛が走る。

 膝から思い切り地面に崩れ落ち、鼻をコンクリートにぶつける。


 腕の中に抱きかかえた何者かを、少しだけ憎しみを込めて見る。

 この高校の三学年の赤いリボンが付いた制服に、ロングの美しい黒髪を生やした女性だった。


「清楚系女子高生が降ってきた……? 神様、ありがとうございます……」


 天に向かってサムズアップし、激痛の余りぼやけはじめた意識と共に目を閉じた。



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