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今日も異世界ライフを満喫中  作者: ツヴァイ
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 ガンツとナンシーの許可を貰い、アンリは白鹿亭で住む事になった。

 おそらく、アンリには秘密があるだろうと思ったが、ガンツもナンシーもユーリもあえて聞かなかった。

 アンリが話したくなったら話してくれるだろうと考えたからだ。


 一緒に住むようになって1週間が過ぎた。アンリはユーリによく懐き、ユーリの行く所に付いて回った。親鳥に着いていく雛鳥のようだと周りの人々は微笑ましそうにしていた。

 アンリはガンツやナンシーやユーリの手伝いをよくし、夜はユーリと一緒に寝ている。

 最初は、二人とも遠慮してベッドの端で寝ていたが、アンリがベッドの端から転げ落ちてしまいそうになり、咄嗟にユーリが抱き止めた事からユーリは彼がまた端まで寄ってしまって落ちてしまわないように抱き締めて、その夜は眠った。

 それから小柄なアンリをユーリは抱き枕がわりにして一緒になって寝るのが習慣になっていった。


 一緒に暮らすようになってからアンリの性格を大まかに把握できた。基本的に礼儀正しく、どんな人にでも優しい。恥ずかしがり屋で朗らか、何事にも一生懸命。

 そんな温和な彼はモテた。女性からは下は3歳から上は80歳まで男性からも可愛がられた。


 最近は、ユーリがたまに厨房に立つ時に配膳を手伝ったりしている。

 今日はユーリがシーツの洗濯するのを手伝っていた。

 麦わら帽子を被ったアンリが鍔を持ち上げて、雲一つ無い空を見上げた。


「ユーリ、今日も暑いですね」


「そうね。でも、洗濯物がよく乾くから嬉しいかな」


 梅雨が開けて本格的な夏日がやって来ていた。連日の暑さでガンツやナンシー達が暑さにへばっていたので、水に塩と砂糖とレモンを加えた特製のスポーツドリンクを作って飲ませてあげた。

 すると少し元気が出たので、今日のお昼は元気になるメニューにしようと思う。


「お昼の買い出しに行くけど、一緒に行く?」


「行きます!」


 頬がほんのり赤くなっているアンリ。彼も暑い中よく手伝ってくれる。タオルを水に浸して、よく絞る。

 それを不思議そうにアンリが見ているので、絞ったタオルを彼の首へ当てた。


「ひゃん!」


 熱くなった首もとに水に浸しただけのタオルでも冷たい。突然訪れた冷気にアンリは可愛らしい悲鳴をあげる。


「冷たいでしょ」


 首もとからタオルを外すとアンリ額や頬に当てていく。それだけでも冷たくなったのか、アンリはホッと目尻を下げる。


 もう一度タオルを水に浸して絞り、汗でベタつく腕などを拭いてあげる。


「涼しくなりました」


「良かった」


 笑い合いながら日陰に移動し、アンリを椅子に座らせてから保冷庫から冷やした特製スポーツドリンクを持ってきた。


「夏は汗をかくから水分補給しないとね」


「ありがとうございます。冷たくて美味しいです」


 この世界には冷蔵庫が無い。では、どうやって食材の鮮度を保っているかと言うと、保冷庫である。

 保冷庫は地下などの比較的涼しい暗所に作られる。だから保冷庫の内部は暗く、急な階段を降りなければならない。

 夏場はそれでも涼しいので良いが、冬場になると大変の一言だ。一年中涼しい地下は寒い。厚着をしても寒いのに食材を探して保冷庫内を探し回ると体温がぐんと下がる。

 一言で問題を上げると、不便と言うことだ。

 ユーリはこの問題を解決したいが、いかんせんこの世界は電気がない。だから電気に代わる何かを開発なり、発見するなりしないと冷蔵庫問題は解決しないと考えている。


 アンリもユーリも特製スポーツドリンクを飲み終わったので買い物に出掛けた。

 何に使用かと食材を物色していると、


「ユーリ」


「何?」


 アンリの声に振り返ったユーリは彼が指差している食材の凝視した。


「この世界にもあるんだ………鰻」


 今日のお昼が決定した瞬間だった。鰻は蒲焼きにしても良いが、ガンツ達が夏バテ気味なのでさっぱりとしたものにしようと考えた。


 ほくほくしながら歩いていると宝石商に目が止まった。今は別に宝石が欲しいわけでは無いけれど、店頭に出されている1キロ数百円の屑石の一つに光る何かが見えた。

 吸い寄せられるようにその青い屑石を見詰める。光る何かは羽根を閉じたり開いたりしている。一見すると蝶の羽のように見える。しかし、普通の蝶ではない。光から羽根が生えているようで羽根も光っている。時折、煌めく鱗粉の様なものが散っている。

 すると、店内から店主が出てきた。


「お客さん、買ってくれるのかい?」


「えっと、はい。これください」


 迷わずに青い石を取り出して店主に渡すユーリ。店主の手が触れるか触れないかの瞬間に光る蝶は飛んでいった。


「ん?1つで良いのかい?」


「はい。これだけで良いです」


「そうかい?じゃあ、少し負けとくよ」


 茶色の紙袋にわざわざ入れて、渡してくれる店主。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、お金を払って店を後にしたユーリとアンリ。するとアンリが、


「それは精霊石ですね」


「精霊石?」


「簡単に言うと精霊の力を宿した宝石の事です。結構、貴重な物ですよ。よく一目で分かりましたね」


 青い石に止まる光る蝶を思い出す。もしかしたら、あれが精霊だったのかもしれない。



 白鹿亭に帰ってきたユーリは昼食の用意に取り掛かった。先ず、お米を研ぎ、炊いておく。

 その間に生姜の皮を剥き適当な大きさで短冊切りにしていく。

 丁度、ご飯が炊けたので大きな桶にご飯を移し、すし酢を満遍なくヘラに掛け回し、ヘラで切る様に混ぜ、生姜を入れて混ぜる。


 魚屋さんに捌いてもらった鰻は水で綺麗に洗い、皮を上にした鰻と水と料理酒をフライパンに乗せて焼く。このままでは焦げてしまうので、大きな葉っぱを器にする。

 火が通ったら、作っておいた酢飯と一口大に切った鰻を器に盛り付け、鰻の上からタレをかければ、なんちゃって『ひつまぶし』の出来上がり。

 お茶漬けでも食べられるので、だしを作って一緒にテーブルに用意した。


「アンリ」


「呼んできます」


 もう慣れたもので、早速ベンとヴィオレットを呼びに行った。その隙に先程買っておいたパイナップルを切って、皿に盛り付ける。


 丁度、3人が来たので、なんちゃってひつまぶしを出す。

 最初は食べ物なのか疑っていたベンとヴィオレットは、疑うことなく口に運ぶアンリに倣って一口食べ、瞠目したかと思えば、掻き込むように食べ始めた。一言言いたい、だしの出番がなかった。


 次にガンツとナンシーが来たので、だしの説明をすると二人は、お茶漬けにして食べた。さらさらと食べられるから良いね、と言ってくれたのでユーリも一緒になって食べた。ユーリは半分を丼として食べて、もう半分をお茶漬けにして食べた。


 デザートにパイナップルを食べたが、少し酸っぱかった。ガンツとナンシーは余程酸っぱかったのか顔をくしゃっと歪める。

 そんな二人の渋面を見てユーリとアンリは吹き出した。すると、つられるようにガンツとナンシーも吹き出して、笑った。


 こんな穏やかな日が続けば良いのにとこの時のユーリは思っていた。






読んでいただき、ありがとうございます。

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