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アンリはにこにこしながら、ユーリと手を繋ぎ、服屋へと歩いていた。
ユーリとアンリは身長差があるのでユーリの一歩がアンリの三歩分位ある。だから、ユーリの隣でアンリがちょこちょこと歩く姿が可愛くて頬が緩む。
二人が歩いている姿を見た町の人はアンリの美貌に釘付けになり、他の人とぶつかるというちょっとした事故が多発していた。
それをアンリが不思議そうに小首を傾げる。
ユーリの行きつけの服屋へと入ると、
「ユ~リちゃ~ん、おひさぁ~」
ユーリに声を掛けたのは30代位の群青色の髪は短く切られ、煌びやかな服を着た浅黒い肌をした筋骨隆々の男性だった。
「ゴンちゃん、こんにちは」
「ふふふ。今日はどうしたの~?」
「この子の服を買いに来たの」
ユーリは背後に隠れているアンリを彼の前に押し出した。
押し出されたアンリは半泣きでユーリの腕に槌り付いて離れない。
それまでにこやかだった表情はアンリの姿を認識した途端、驚愕の表情を浮かべ顔を凄い勢いで近付ける。その勢いにアンリはびくつきユーリの腕から彼女自身に抱き付いた。
「ゴンちゃん、怖がってるから…」
「ごめんなさ~い、あまりにも整った綺麗な顔をしてたから。ワタシは、ゴンザレスって言うの。気軽にゴンちゃんって呼んでね」
謝ったゴンザレスだったが、余程怖かったのか、ユーリにしがみついて離れない。
そんなアンリの頭を優しく撫でながらユーリが声を掛ける。
「アンリ、ゴンちゃんは怖くないよ。大丈夫。怖いのは顔だけで中身は乙女なのよ」
すると顔を少し上げ、アンリの潤んだ青い瞳がユーリを見上げる。
そこで、ふと違和感を覚えたが今は彼を宥める事に集中する。
「……怖くないんですか?」
ぐすっと泣くアンリがとても可愛くて、また頬が緩むユーリ。頬に手を添えて優しく答える。
「うん。顔だけが怖いの。アンリがゴンちゃんを嫌いになるとゴンちゃんがとっても悲しくなるから、仲直りして欲しいな」
暫く、じっとユーリの瞳を覗き込んでいたが、意を決したのか、
「ゴンちゃん、ごめんなさい」
「こちらこそ、ごめんねぇ~」
二人の様子を微笑ましそうに見ていたゴンザレスがニッコリと笑った。
「じゃあ、アンリちゃんのお洋服見てみましょう~」
「はい」
「ユ~リちゃんは、買わないの?」
「私はいい」
「そう~、いつもモノクロの服ばかりなんだからたまには違う色着てみな~い?」
「似合わないから」
苦笑するユーリ。いつも彼女はモノクロの服ばかりを着る。今日着ている服も白いシャツに黒いパンツスタイルで黒い上着を着ている。
「そ~お~、ワタシは似合うと思うんだけど?ピンクのふんわりじゃなくて、青とか落ち着いた色合いとか着たら良いのにっていつも思うのよ~」
容姿に自信の無いユーリだが、本人に自覚が無いだけでユーリも整った顔をしている。可愛いよりも美人の部類に入るであろうユーリの容姿をゴンザレスは勿体無く思っている。
「私は良いから…アンリの服をお願い」
「はいは~い」
店内を見て回っていたアンリとゴンザレスが合流する。ユーリは店内に用意されている椅子に腰掛けると二人をぼんやりと見ている。
たまに服を見せに来るアンリに意見を求められ、似合うとかこの色じゃない方が良いとかと答える。
それ以外は視線が店の外の通りを眺めていた。町行く人が着飾って歩く姿は羨ましくもあった。モノクロで纏められたユーリのコーデは一言で無難。良くもなく悪くもない。
自分に似合う色が分からなくて、ついモノクロに逃げてしまっていた。
「これでどうかしら~?」
意識が通りを歩く人々にいっていたが、ゴンザレスの声で我に返った。
目の前にはゴンザレスが新しい服に身を包んだアンリを連れて来ていた。
「どうですか?」
ほんのり頬を桃色に染めたアンリが恥ずかしそうに立っていた。白いシャツに臙脂色のネクタイ、薄い黄色のカーディガンと黒い短パンだった。
「うん。似合ってる」
微笑んで称賛するとホッとしたのかアンリもはにかんだ笑顔を見せてくれた。
「これはサ~ビスよ~」
濃茶色のハンチング帽をアンリの頭に乗せるゴンザレス。彼はたまにサービスだと言って小物をオマケしてくれる。
「この国でも銀の髪は珍しいからね~」
この世界の髪色は様々で赤髪や緑髪、青髪などが存在する。多いのは金髪や茶髪が多い。ユーリやアンリの髪の色は非常に珍しく、王国貴族達が観賞用に欲しがるのもざらだった。
「ありがとう、ゴンちゃん」
「ありがとうございます、ゴンちゃん」
二人並んでゴンザレスに笑顔でお礼を言って、会計を済ませて店を後にした。
出ていった二人を店内から姿が見えなくなるまで見ていたゴンザレス。
「はあ~、二人とも可愛いわ~」
頬に手を添えて楽しそうに笑うゴンザレスを店内にいた従業員とお客さんが呆れたように見ていた。
ゴンザレスは外見は男らしいが、中身は立派な乙女で特に可愛らしいものに目がなかった。フワフワなうさぎやフリルがふんだんに使われたドレス、可愛らしくデコレーションされたお菓子類。
今、ご執心なのはユーリと出会ったばかりのアンリだ。
彼の悪い癖で可愛いものには糸目をつけない事。ユーリやアンリに対しては全力で甘やかしている事を従業員と常連客は察している。
甘やかされた二人は全く分かっていなかったが、そもそも彼は気に入った相手しか優しい顔はしない。気に入らない相手には冒険者時代の名残で凶悪な顔で相対する事が多い。
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