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モリス夫妻とユーリに保護されたアンリは当初ユーリの手伝いをして過ごしていたが、それにも慣れてきたのか時間を見付けると少しずつ植物を部屋に置くようになった。
忙しい時間の手伝いをしていない時には少しずつ増やした植物の世話を日課にしていた。
ニコニコしながら植物の世話をしているアンリを皆、微笑ましく見守っていたが、気付けば室内や庭に花や植物が驚くほどに増えていた。
際限無く植物が増えていくので、流石にこれ以上増やされると室内がジャングルになってしまうと注意しようとしたが、注意されることを察したのかアンリは悲しそうに綺麗に整った眉毛を下げ、瞳を潤ませて、ぷるぷると震え小動物のような可愛らしさを発揮する。
それを見たモリス夫妻は、あまりの可愛さにぎゅっと抱き締めて慰める。それを何度も繰り返すうちに何も言えなくなった。アンリも流石に植物を増やすのをやめた。
特に植物が多いのが、アンリとユーリの部屋だ。毎日甲斐甲斐しく世話するアンリのおかげか青々と繁った葉を広げ、元気に光合成している。部屋の中は濃い緑の匂いが漂い、アンリの花の匂いと混ざり合い恰も森深い花畑にいるような錯覚に陥る。
部屋に緑が増え始めた頃のユーリは朝、目覚めた時にあまりの濃い緑の匂いに森の中かと酷く混乱したが、最近は慣れたもので清々しく起きられるようになった。
今日も機嫌良くニコニコと微笑みを浮かべて庭で如雨露から雨を降らせるように花に水を遣っているアンリ。
アンリが丹精してお世話した花に着いた水の滴が太陽の光でキラキラと輝き、風に揺れている。
その様子を麦わら帽子の下の銀の髪を風に梳かれながら見詰めているアンリ。更にそれを物陰からアンリを熱い視線で見詰める少女がいた。
「はぁ~、今日も綺麗なの~」
うっとりと頬を赤くさせてアンリを見詰めているのは、ふわふわと波打つ水色の髪と緑の瞳の可愛らしい少女だった。
彼女は、今日こそはアンリに声を掛けるのだと意気込んでいた。
町で偶然に銀の髪と紫色の瞳という人目を引くアンリの姿を一目見た瞬間に恋に落ちた。人混みを移動するアンリを舐めるようにずっと見ていた。
傍らに立つ母親であろう女性に親しげに微笑みを向け、その笑顔を自分にも向けて欲しいと思った。
それからアンリの後を追いかけて、家を特定すると日参するようになった。
毎日、アンリを見詰めていると分かる事があった。母親だと思っていたのが、実は母親ではなかった。
初めから違和感があった。髪の色が違い過ぎるし、容姿も整っているが、アンリに全く似ていない。不思議に思い、白鹿亭に通う常連客を捕まえて聞き出すと、年上の女性はユーリと言い、アンリをある日保護したのだという。血の繋がらない彼女と一緒に住んでいる事に少女は怒りを覚えた。
ガンツとナンシーも一緒に暮らしているが、意識的なのか分からないが、恋した少女にはアンリとユーリしか目に入っていなかった。
アンリは自分の物だ。そんな思いが少女の胸の中に渦巻く。赤の他人が私の物に近付かないで、と叫びたかったがここで問題を起こせば常連客達に仕返しされかねないので止めた。
じっと見詰める先でアンリが如雨露を片手に立ち上がると後ろを振り返った。そこには、ユーリが立っていた。
「暑いでしょう?」
ユーリは持っていたタオルでアンリの汗を拭いてあげる。
「ありがとうございます」
熱気の為なのかアンリの頬が真っ赤だ。汗を拭いたタオルを小脇に抱えるともう一つのタオルをその真っ赤になった頬に当てた。
「!冷たいです」
「タオルを水で濡らしてあるんだ」
濡れたタオルを頬や額などに当てていくユーリ。アンリはそれをじっと目を閉じて、されるがままだ。
「もう、水遣りは終わったの?」
「はい」
アンリは持っていた如雨露を庭の片隅に置かれている小さな棚に戻すとユーリの元まで小走りで戻った。
「じゃ、冷やしてあるジュースでも飲もっか?」
アンリの手を取って繋ぐとそのまま建物内へと消えていった。
「何?あの女…」
少女は憎々しげに二人が消えていった建物を睨んでいる。
アンリに馴れ馴れしくも触る事に我慢ならなかったし、タオルで汗を拭くのは自分の役割だと少女は憤慨していた。
「アンリの隣は私だけのものなの」
そう言うと親指の爪を齧りながらユーリをどうしてくれようと考え始めた。
アンリとユーリに近付く不穏な影。
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