プロローグ
まだ薄暗い朝の時間帯に大して広くはないキッチンに少女が動き回っている。
少女は家族分のお弁当を作っている所だった。粗方お弁当を作り終えて、お弁当箱に詰めていく。
「お姉ちゃん!なんで起こしてくれなかったのよ!!」
「え?聞いてないよ?」
「言ったわよ!!今日、朝から朝練があるって!!」
朝から騒がしいのは少女の妹だ。今日は朝の早い時間にテニスの朝練があるので、早起きしていた。少女に朝練の事を言ったと言っているが、実際は妹が言い忘れていただけで、少女は聞いていなかった。責められる謂れはないのだが、
「貴女、お姉ちゃんなんだからしっかりしなさい」
妹には実の母、少女にとっては義理の母が妹を庇うように少女を窘める。
「朝ごはん、今から…」
「いらない!お母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、私はもう少し寝るから」
「………うん」
毎日家事は少女が担当している。少女の実の母親は少女を産んで直ぐに亡くなった。それからは父親が男手一つで少女を育ててきた。
そんなある日、父親は女性と再婚した。仕事柄どうしても家を空けてしまう事が多く、少女に寂しい思いをさせるのを心苦しく思っていた。直ぐに妹が産まれ、4人家族になった。
まだ幼い少女は妹を可愛がっていたが、成長と共に少女が美しく成長する事に義母は嫉妬した。と、言うのも少女の母方には北欧系の血が流れていた。彫りが深く、日本人離れした容姿は人形のように愛らしい。
このままでは、少女と妹が比べられ、妹が傷付いてしまうと考えた義母は徹底して、少女が醜いと思い込むように洗脳した。
幼い少女は素直に信じ、成長した妹も姉は醜いと言うようになった。
成長し、小学校へ行くようになると可愛らしい容姿を妬んで同級生の女子から虐めを受けるようになった。
男子からは名前の事でからかわれるようになった。それも好意の裏返しではあるが、この年でそんな事が分かる筈もない。
中学生に上がってからは、男子生徒が少女を放っておかなかった。ひっきりなしに男子生徒から告白され、上級生も加わるようになると同級生、上級生の女子生徒からの嫉妬と羨みが酷くなった。
学校生活で友達も出来たりしたが、必ず友達が好きになった男子生徒は少女の事を好きになった。
妹が好きになった男子生徒も少女の事を好きになった。
少女は悪くはないのだが、思春期の子供は、男子ではなく女子の方を責める。
「式部さんが誘ったんじゃないの?」
「最低よね」
「友達だと思ってたのに」
心無い言葉で少女は傷付き、自己評価の大変低い少女が出来上がった。
それでも、少女は義母や妹に尽くした。家族なのだから、と。
勉強を頑張り、掃除、洗濯、料理と頑張るが一向に褒めてくれなかった。
他県に長期出張中の父親はそんな事になっているとは知らず、家族が仲良くやっていると信じていた。
ある日、出張中の父親から電話があった。近況を聞かれ、言葉に詰まりながらも仲良く、楽しくやっていると答えた。
父親は少女の言葉を無邪気に信じた。
――――――それから間もなく少女は忽然と姿を消した。
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