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片ページに残る物語集  作者: 海埜ケイ
2/3

☆“鬼の子”はいらない子

民話風な文章だと思います。

一人称小説で兄視点となっています。

双子の兄妹である“鬼の子”の兄と、“人間の子”の妹が決別する内容です。



生まれた時からずっと一緒にいた。

辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、2人一緒なら何でもできる気がして頼もしかった。

手を繋ぎ家路に向かう僕たちの前に、暮れる夕焼けを背に大人達が立ち並ぶ。

僕たちは追われた。

理由も分からず、鍬や鉈を持った大人達に追い掛けられた。

村の中にいるのは危険だから、僕たちは山の中へ逃げ込んだ。

深い森は、子供の僕たちの行き手を何度も立ち塞がり邪魔をした。

それでも立ち止まらなかったのは、背後から迫り来る大人達から逃げる為だ。

僕たちは逃げた。

太陽が沈み、視界が遮られると、僕は眼を青くして周囲の気配を探りながら先へ進む。

「―――怖い」

僕の手を握る手が強くなる。

僕は握り返した。

「大丈夫、すぐに帰れるよ。帰れなくても僕がずっと付いているからね」

僕の言葉に安心したのか、彼女は「うん」と大きく頷いてくれた。

僕の大切な妹。誰にも奪わせないし、誰にも奪うことはできない。

何故ならーーー。


「――――――っは!」


倒れていた樹木を“踵落とし”で切断する。

僕は“鬼の子”だから。“人間”である双子の妹を守らなければいけない。

数百年に一度、生まれてくる厄災の子――“鬼の子”。

そう呼ばれている。

普通はたった1人しか生まない“人間”が、間違えて産んでしまうのが“鬼の子”だ。

誰からも望まれず、何の因果か知らず“鬼の子”は産まれてくる。

僕の母は“鬼の子”を産んですぐに死んでしまい、父は雲隠れとなった。

だから、僕しか妹を守れる存在はいない。

村の大人達に忌み嫌われようとも、子供達に石を投げられようとも、僕が僕である限り、この状況は続くのだろう。

辛くても悲しくても僕は大丈夫。

だって守るべき存在がいるから頑張れるんだ。

僕は振り返り、妹に手を差し伸べる。

「さあ、行こう」

妹は差し出した手の平を見つめるだけで、僕の元へ来ようとしない。

何かがおかしい。

困惑する僕に、妹はゆっくりと顔を上げる。

生気のない虚ろな瞳が僕を捉える。

「ねえ、何で逃げなくちゃいけないの?」

「捕まったら痛い思いをするからだよ」

「それはあなただけでしょ? 私は、“人間”だもん。あなたとは違う」

ポツリと雨が降ってきた。

僕は妹の言葉が理解できなくて、口端を引きつらせた。

「・・・どうしたの、急に」

「急なんかじゃない! 何で、私まで逃げなくちゃいけないの! あなたが“鬼の子”なら私は関係ないじゃん! お願いだから、私を巻き込まないでよ!!」

悲鳴に似た声を上げ、妹はその場に蹲り泣き出した。

あぁ、ここまで妹を追いつめていたんだなぁと実感する。

両親の代わりに妹を守りたくて努力してきたことが実際は空回りしていたなんてーー。


「ごめんね」

僕の言葉に、妹が反応する前に僕は走って森の奥へ行った。

妹の速度に合わせず、全力で駆け抜ける。

あぁ、何て気持ちがいいのだろう。

草葉を飛び越え、枝に掴まり反動を付けて次の枝へ飛び乗っていく。

奥へ、奥へ、奥へーーー。

僕は“人間”に遭わないように、森の奥深くへ身を隠すことにした。

それは一際大きな大樹の根本。根本の先に烏鷺のようなものができている。

子供の僕なら身を隠せそうだ。

僕は眠ることにした。

深い深い眠りに付いて、妹の幸せだけを願った。



いらない子供は人でなし


人でなしは鬼の子供


一緒にいてはいけないよ


殺されてしまうから


襲われてしまうから


襲われてしまうのは、殺されてしまうのはーー


一体どっちの話しだろうね?




END


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