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魔王の拾い子  作者:
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プロローグ

 ちょうどその日は、ポネロが熱を出していた。

「ポネロ、なにか食べたいものはある?」

 少年はポネロの顔を覗きながら尋ねた。ポネロは頭を振り。

「ううん。大丈夫。寝ていれば平気さ」

 と言った。そうは言ってもポネロの顔は赤く、息も荒い。一層心配になる。

「でも、何か食べないと……。あっそうだ!林檎を取ってこよう。この前狩りで森に出掛けたとき見つけたんだ。真っ赤な林檎がたくさん実っていたよ。きっとまだ誰にも見つかっていないさ。待ってて、すぐに取りに行ってくる」

「そんな、いいよ!ほら、もうすぐ暗くなってしまう」

 窓から外を見ると、もう日は傾いていた。

「いくらよく行く森だからって、暗くなっては魔物も出てくる。行ってしまったっきり帰ってこないなんて、嫌だよ」

「……ポネロ」

 少年とポネロには親はいない。唯一の家族である少年と別れてしまうのが、ポネロにとって怖かった。

 それでも少年は、森に行くことを諦めなかった。

「大丈夫。ちゃんと帰ってくるよ。俺を誰だと思ってるんだ。魔力の量なら誰にも負けないんだぞ。魔物なんてへっちゃらさ」

「……わかったよ。気を付けてね」

「うん。いってきます」

 少年は林檎を入れるためのカゴを持って家を出た。村には頼れる大人はいない。誰も二人には近寄ろうとしない。少年の魔力を恐れてのことだった。少年は通常の人と比べ物にならないくらいの魔力の量を持っている。村人達は、何をされるかわからないため警戒しているのだろう。

 対してポネロは、魔力が無いに等しい。そしてのろまでか弱そうな見た目からいじめられていた。そんな二人は自分達に無いものを補い合いながら暮らしている。

 幼い頃に出会い、ずっと一緒だったポネロは少年にとって一番大切な存在。助けてあげたいと思うのは当然のことだった。

 村を出て森に向かう。村から森はさほど遠くはなく、すぐに着いた。小道を通り林檎の木がある場所を目指す。木が見えると、早足で向かって登った。

 カゴに入るだけ詰めて、森を出ると、村の方が騒がしいことに気づく。不安になり、村まで走って帰った。


 目の前に広がるのは、赤い炎。村は燃えていた。

「殺せ!殺せ!村人を逃がすな!」

「俺達が何をしたって言うんだ!俺は魔女じゃない!助けてくれぇ!」

「お母さん!お父さん!助けて!助けて!!」

「殺さないで!お願い!殺さないで!」

 村には家が燃える音と、悲鳴だけが響いていた。村人を殺しているのは、王国の騎士達。なぜ殺しているのかはわからないが、とにかく見つかってはまずいと思い、隠れながらポネロが待つ家へと向かった。

 扉を開けて、寝室へ走る。

「ポネロ!!」

 寝室へ入ると、ベッドが膨らんでいるのが見てわかった。良かった、寝ているだけだ。ほっとしながら近づくと、布団が赤く染まっているのが目に入る。一瞬、思考が停止した。恐る恐る布団を剥ぐと、胸元と額に穴を開け、血だらけのポネロの姿があった。

 体の力が抜け、その場にへたり込む。何も考えられなくなっていた。数分の放心状態から、一つだけ頭に浮かんだ考え。


 なぜ、ポネロは殺されなければいけなかったんだ。


 それだけが、頭に浮かんできた。

 気づけば台所の包丁を持って、騎士の一人に襲い掛かっていた。

「まだ生き残りがいたのか!」

 騎士は剣を振りかざし切り裂こうとしたが、少年はそれを交わし、騎士の懐へと入り腹を刺した。

「ぐぁッ……!その包丁、強化魔法が使われているのか。鎧を、意図も簡単にッ」

 少年は倒れた騎士にそれでも包丁を刺す。手や服は血で汚れていった。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」

「もうその辺にしといたらどうだ。その人間、既に死んでいるではないか」

 後ろから、聞き慣れない声が聞こえた。振り向くと、やれやれ、というような表情をした男が立っている。その男の頭には角が生えていた。

「お前は、誰だ。人じゃないな」

 少年は騎士を刺すことを止め、男に刃を向けた。

「俺はガヴリルだ。聞いたことないか?魔王ガウリルだよ」

「魔王……!?なんでこんなところに……」

「ここに強大な魔力を持った人間がいると聞いたんだ。最近は魔王の使いだとか言って、魔女狩りが多いからな。そんなもん送り出してねぇのに。それで、魔力を隠す物を持ってきてやったんだが……。遅かったみたいだ」

「強大な魔力……。それって、俺のせいでこの村は……。ポネロは殺されたのか……?」

「……そうだな。強大な魔力の持った人間。それはお前だ」

 放たれた言葉が、まるで弾丸のようだった。いつの間にか降っていた雨の音だけが、聞こえてくる。自分のせいで殺されなくていい人達が殺された。罪悪感に押し潰されそうになった。

 沈黙を破ったのは魔王だった。

「お前、俺と一緒に来ないか?」

 反射的に顔をあげる。魔王は優しい表情をしていた。

「でも、お前達は人間が嫌いなんじゃ……」

「別に?俺達からは何もする気はねぇよ?勝手に悪者扱いしてんのはそっちなだけ。俺は人間が興味深いね。考え方が面白い。お前も面白い。だから一緒に来い。お前に、家族を与えてやる」

 そう言って魔王は来ていた上着を少年に掛けた。雨か自分の涙かわからないが、視界が歪んで魔王の表情をはっきりと見ることは出来なかった。


 今から語られるのは優しき魔王に拾われた少年の話。

 家族を愛す魔物達の話。

 どうか見届けて欲しい。人に嫌われてきた者達の絆を。

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