4 ゴブリンの集落と生活
小さな門をくぐり抜け、腰より少しだけ高い家の間を縫うように歩いて行くと、ゴブリン達の家よりも少し大きな木造の小屋に行き着いた。
「ここで少し待て」
俺の後ろでナイフを構えたままで初老のゴブリンは命令してくる。
しばらく待つと、先程報告に走って行ったリーフィというゴブリンが中から出てきた。
「ベノア様、族長様が連れてくるように言っています!」
「ちっ……」
へー、この初老ゴブリンはベノアっていうんだな、覚えておこう。
まあ、舌打ちが聞こえたけど無視だ、うん、無視。
「入っても良いみたいですね」
「儂も入るからな、変なことはできないと思え!」
「わかってますって………」
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この森に電気というものは無い。
まあそれは当然なのだが、昼間の建物の中ってこんなに暗いんだね。
後ろにいるベノアさんを見たが、表情がわからない程暗い。
え、この世界って窓も無いの?
「族長様、連れて参りました。人間です」
いや、暗すぎて何処にいるかもわからんわ。
「はじめまして、サウスと申します」
「っ!! なるほど、貴方がサウス様でしたか!
まずはベノア達が失礼をしたこと、誠にすいませんでした……」
「いや、全然気にしていないので……」
いきなり族長が俺に謝罪したため、ベノアさんはきょとんとしている。
っていうか何で俺のことを知ってるの?
「それより何故俺のことをご存知で?」
「実は数時間前長老様から、この森の全ての長に連絡がありました。
主な内容は2つ、『この森の新たな支配者が現れた』ということと、その者の名前は『サウス』だということです」
(うわっ、仕事速いな、あの長老……)
「これはまだ我々、長しか知らぬ話でして、ベノアが知らぬのも当然かと思っております。
何卒今回は水に流していただけませんか?」
「誠に申し訳致しませんでした!!」
「いや、だからもう大丈夫ですって……」
本人が謝ったんならもう何も言わない。
その程度の事なのだから。
「とりあえず、俺が長老様から言われたことをお伝えしますが、かなり重要な話ですので、もし他にもゴブリンの集落があるなら、長を全て集めた方がよろしいのではないですか?」
「そうですな、その方が良いでしょう。
ベノア、全ての集落に連絡を取りんなさい、内容は『新たな支配者について』でお願いします」
「かしこまりました」
ベノアさんは頭を深々と下げ、扉から出ていった。
「明日になれば全ての長が集まるでしょう。それまで、のんびりとおくつろぎください」
「お気遣い感謝いたします……」
結局最後まで顔を見ることが無く終わった。しかし、それよりもかなり重要な課題が残った。"明日まで何して過ごすか"ということだ。
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建物を出ると、俺を待っていた雌ゴブリンに案内をすると言われた。
どうやら今日の宿を教えて貰えるようだ。
とりあえずついて行くと、土で出来たドーム状の建物だった。
(やっぱり……)
これ入れるのか?肩でつっかえるんじゃないか?
という予想通りだった。
うん、試したから言える。これは入れない。
仕方なく俺の全身が入る大きさの革袋をもらった。
さて、寝る場所(?)は手に入った。後の時間はどうしようか………という振り出しに戻ったが、ほんとうにすることがないので集落内をうろうろすることにした。
まず、至るところに設置された"公衆トイレ"なるものが目についた。
やはりこれも土壁で周りを覆われている。もしや、と思ったがやはり予想は的中。
開けたら鼻の根元に残るような異臭がしたのだ。
原因はすぐにわかった。目の前にある盛られた土だろう。
このままだと、疫病なども出てくるのだろう。
ゴブリンには問題ないのかもしれないが、俺はこのままだと非常に不味いと思う。
次に訪れたのは、鍛治場として扱われている所だった。
10名程のゴブリンがせかせかと石の塊を運んでは炉に投げ込んでいる。
おそらくベノア達が持っていたナイフを作っているのだろう。
切れ味は十分だったので、ここの技術は高い部類にあるものと思われる。
その他にも至るところを見学させてもらったが、全体的に基準が低いように見えた。
集落を囲む柵は木製。
家の土壁も固定されておらず、雨で崩れるレベル。
はっきり言って、"よく今まで滅びなかったなこの集落"のレベルである。
まあそれも仕方ないとは思う。生まれた時からこのレベルしか知らないのだから。
技術を持ったゴブリンなど、ほんとうに鍛治場に勤めている者達ぐらいだろう。
とりあえず寝袋(?)に入り、夜空を眺めてそんなことを考えていると、ベノアがやって来た。
「まだ起きていらっしゃいますか?」
「ん?うん、起きてるけどどうしたの?」
「昼間の詫びも兼ねて、食事でもどうですかな?」
どうやら昼間の事をまだ悔いているらしい。そこまで悔やまなくても良いと思うんだけどな……
「じゃあ、ちょっとお付き合いさせてもらおうかな」
「おお!では早速こちらの方へ!」
上機嫌になったベノアはこっちだと呼び掛けながら案内を始める。
それを(やれやれ……)とでも言うような感じで俺はついて行ったのだが、これが今日1番の苦痛になるということに、まだ気が付いていなかった。
大きな木の葉の上に切られたばかりの牛の肉。
焼き加減の描写などは無い。
理由?スーパーレアだからだよ!!
いや、どう?豪華でしょ?みたいな感じで薦めるのはあれか、これが普通なの?この世界では?
んな訳あるかぁ!!これが常識なら今頃人間滅んでるわ!!
駄目だ、これはほんとうに駄目だ。
俺がいろいろ教えて意識改革するしかない。
じゃないと明後日くらいに死んでしまう(食事で)。
まずは目の前の肉をどうにかせねば……………