経歴と突然の海外出張
2016年5月某日。私は今、上海のとあるホテルの一室にて、この文を執筆している。
私の職業は、とある通信系会社のシステムエンジニア。どこにでもいる、普通のサラリーマンである。ただ一般の方に比べて少し珍しいのは、システムエンジニアでありながら、世界各国で仕事をしているという点であろう。
これから私が諸々を書くにあたり、まずは私の経歴を少し述べさせて頂きたいと思う。
私は熊本県の出身で、高校卒業後に3か月程ハワイに語学留学した。といっても、これは自分で望んで行ったものではなく、大学受験に失敗した私を見兼ねた叔父が私の将来を不安視し、これからの将来英語は必要だということで、半ば強制的にハワイに行かされたのである。語学留学と言えば響きは良いが、実際は観光ビザで滞在できる期間だけ現地に滞在し、実際の所は特に何かをしたというわけでもなく、知人の子守やどこかに連れまわされては黙って人の会話を聞いている程度であった。
また、高校時代の私は英語が大の苦手で、試験を受けても赤点ギリギリ。街中で外国の方を見ても「日本にいるなら日本語を話せ!」といったくらいに英語が嫌いであった。
ハワイから戻った私はバイトを既に辞めていたため、特にやることもなく、毎日暇な堕落した時間を過ごしていた。
とある日のこと。語学留学に行かせた叔父から、実家に電話がかかってきた。話の内容は然程大したものではなかったが、話の中で叔父がパソコンを買ったという話をした。今となっては懐かしいWindows95が出た頃の話である。当時、ニュースでも頻繁に「Windows95」や「インターネット」といった単語を耳にはしたが、私には無縁のものだと思っていた。しかし、それを叔父が持っているというのであれば話は別。若干好奇心旺盛な私は、特段やる事もなかったため、叔父のパソコンを目当てに遊びに行くことにした。
叔父の家にいった当初は購入されていたパソコンに夢中であったが、それもあっという間に飽きてしまった。3,4日ほど滞在する予定であったが、私は早々に実家に帰りたくなってしまった。すると叔父は突然、私と外出をしようと話しを持ち掛けてきた。私は訳も分からないまま、とりあえず叔父と一緒に外出をすることとした。
叔父が向かった先はとある英会話教室だった。そこで伯父は係りの人とろくに話をすることもなく、すぐに申込書に記入を始めた。するとその申込書には私の名前が書かれていた。私はすごく驚いた。なぜなら私は叔父が英会話を学ぶものだと思い込んでいたからだ。叔父は私に「明日から此処で英語を勉強しなさい。」と一言と。それから私は、叔父の家に 1年間居候しながら英語を学ぶこととなった。
1年後、私は福岡にあるとあるシステム会社に就職した。私は元々システム会社に就職するつもりは全くなかった。1年間英会話を勉強したということもあり、また、たまたま出ていた求人に英語力が必要とあったため応募したところ内定をもらった。その会社がたまたまシステム会社であり、そこから私のシステムエンジニアとしての経歴が始まった。
私は入社直後に東京のとある企業に出向することとなった。そこではクレジットカードの海外向けの基幹システムを扱っており、海外のカード会社や銀行と英語でやりとりをしながらシステムテストを行っていた。その後、エンドユーザーの会社へ出向し、これまでの既存業務を行いながら新規提携先の展開などを並行して行っていた。5年の期間を経てこのプロジェクトは終了し、私は次に金融系の案件へと移行した。その後、もろもろの業務を経て、9年間在籍した会社を私は退職した。その後私は、金融系のシステム業務の経験を活かし、銀行や同業種の会社を渡り歩いた。数社の会社を渡り歩いた後、知人との起業を見据えて フリーエンジニアへと転身した。フリーエンジニアへ転身した後も金融系の案件をメインに活動していたが、案件の切れ間で今の会社の案件が舞い込んできた。その当時の案件は、金融系とは全く関係がなかったが、業務系アプリの開発ということで受けることとした。
これまでが私のシステムエンジニアとしての簡単な経歴である。
私は今の会社に入るまで海外はおろか、日本国内の出張でさえ殆ど経験をしたことがなかった。基本的に客先での常駐業務が多かったためである。そんな私にある日突然出張の話しが舞い込んできた。
2009年10月。いつものようにデスクで仕事をしていると、突然私の名前が呼ばれ、こう言われた。
「ペトロナスツインタワー見に行きませんか?」
当時の私は、観光地はおろか、いろいろな建物の名前にも疎く、いまいちこの名前にピンとこなかった。
「えっ?ペトロナスツインタワーですか?」
「はい、そうです。」
私はどこのことかもわからず、てっきり都内の建物だと思い込みインターネットで検索をした。すると、ブラウザに表示されたのは「マレーシアのクアラルンプールに建っている超高層建築物である。」といった内容だった。私は検索結果に驚き、担当の方に、
「マレーシアですか?」
と聞き返した。すると担当の方は笑顔で、
「そうです。マレーシアです。」
と答えた。海外出張はおろか、国内出張でさえほとんど経験したことがなかった私にとっては、海外出張は大きな衝撃であった。これまでの私は、海外といっても行った事があるところは、グアム、サイパン、ハワイといった観光地ぐらいしかなかった。観光地であればおのずとイメージも出来やすいのだが、東南アジア、ましてやマレーシアなど私にとっては全くの未知の世界。一瞬にして不安に襲われた。
これからが、私のシステムエンジニア歴での海外での経験の話しとなる。