009.創造主、目撃される
コーズ/創造主:主人公
アーネス:妖怪胸なし女。「あー、(胸)ねーっす」
ケムナ:「ケモノ」……では無く女
イロオ:「いろお」とこ
フレヤ:火の神様。「フレア」
シィリヤ:生きながら死んでいる謎の生物。「死霊」
こう説明すれば、少しは名前覚えやすくなったでしょうか……?
▽
不穏な空気を漂わせる一行は馬にまたがり、無言のまま進み続ける。
鬱蒼とした森の中をカッポカッポと小気味良い音だけが鳴り響く。
私が跨った陽気な馬は、時折この踏み固められた道を外れようとした。その度に両脇の旅芸人二人が阻止する。
これは馬が悪いわけではない。私が行き先を把握しきれておらず、方向を示すことができない為だ。
その証拠に、道を知るアーネスとケムナが乗る馬は真っ直ぐ前を向いて歩いていた。
行き先は、私と彼女達旅芸人が出会った付近。扉の装飾に使われていた木は、その周辺に生えているものらしい。
シィリヤの生け捕りに関して問うと、それはもうどうしようもないから、とアーネスは肩を持ち上げて苦笑いしていた。
『出来るだけ獣除けの香を焚かないようにして、遭遇しないことを祈るくらいしかできないわよ。火を持ってたって危ないってことには違いないんですもの。
自分達を捕食する生き物を生け捕りにするなんて、無茶なことくらいあっちだって分かるでしょう』
、と。
私は首を捻って、後ろからついてくる男児を見る。個体名をイロオと言っていた。今も青髪を風に揺らし、無言で付いてきていた。
アーネスの言葉は、彼がいる目の前で放たれたものだ。その時、彼は目を逸らしたまま何も言わなかった。
無茶なのは把握しているのか、聞かなかったことにしたのか……あるいはその両方か。
何れにせよ彼は自己紹介した後、言葉をかわそうとする気配はない。
じっと見つめてみても、邪魔くさそうに目を逸らされるのみだ。
なら何故、彼はわざわざ付いてきているのだろう。
私達が逃げ出すのが心配だとは思えない。逃げたところで利点があるとは思えないし、そも、アーネス達の仲間はまだあそこに居残っている。
イロオは人間だが、フレヤに直接言葉を浴びせるからにはそれなりに『偉い人』なのだろう。その『偉い人』がついてくる理由。
さっぱり分からない。フレヤの考えにしてもそうだ。
子供達の事を理解してあげなければ、とは思うのだが……。
私は前に向き直って息を吸い込んだ。獣や葉の匂いに混じって、生き物が土に帰る時の臭いが微かにする。
生きている以上はいつか死ぬ。言い換えるなら、いつか死ななければならない。
シィリヤについて分かっていること……。
フレヤの言葉が正しいものなら、存在が確認されたのは私がハコニワに落ちた後。
フレヤはシィリヤをよく知らない。だが、少なくとも相手はフレヤに干渉できないらしいこと。火で追い払えるのなら、好かれてはいないと考えられる。
逆に、ハコニワ由来の生き物には容赦ないこと。
あれらは生きているが、同時に死んでもいる事。
アーネスとケムナの会話から『獣除けの香』に寄ってくること、か。
私は若干離れた位置にいるケムナに目を向けた。
「そういえば、獣除けの香は何で出来ているんだ?」
「あぇ? 今から取りに行くんだけど。まさかそんなことも……や、何でもない」
左にいるアーネスが何故か小声でケムナを叱咤する傍ら、私はぼんやり目を瞬いた。
「あぁ、木の枝なのか……」
「追記、必要かしら」
「察しがいいんだな、アーネス」
「そりゃ、殆ど何も知らないってことが分かってればね」
そう告げると、アーネスが無い胸を張って、ウォホンと息を吐いた。
「すごく真っ直ぐした綺麗な木の枝で、あんまり見た目が美しいから主の手って呼ばれてるわ」
「綺麗……かなぁ。なんか見た目が腐った骨っぽいよ、アレ」
「骨って腐るの? じゃなくて説明中だから突っ込まない。……香にして焚けば、どんなに血生臭い場所でも獣は避けて通るって言われてるわ」
「実際寄ってこないしね」
「焚く前は?」
「どうかしら……」
「別に避けないんじゃ?」
「そうだったかしら?」
「いやだってほら、枝に鳥止まってることあるし」
ケムナが欠伸をしながらそう言った。香とやらにする前はその効果を発揮しない。なら、と私は首を傾げた。
「香にする過程で何か特殊な事をするのかな?」
「別に普通の香と同じよ。乾燥させてアレコレして……最後に火をつける、それだけ」
「なーんか他の木はダメなんだよね」
「考えてみれば……結構不思議かもね」
三人して、うぅん、と唸る。それきり会話が途切れた。
そう言えば、ハコニワに落ちた後、最初に目覚めた所に植わっていた木の枝、わりと真っ直ぐな棒状だった気がする。
私は、アーネスがくぐった木の枝を何となしに手折ってみる。それは他の木についているように畝って、直線ではない。
そして、やはり中心には芯がある。
私は手綱から完全に手を離して芯を引っ張った。
パラリと木屑が舞い、背後に流れる。
木の枝はあっさりと崩壊した。いとも容易く。
何となく悪い事をしたような気になって左右を見てみるが、アーネスもケムナも自分の考えに夢中で気が付いてないようだった。
ほっと息を吐いたが、はたと気がついて背後に目を向ける。
そこには青い目を限界まで見開く男児がいた。
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