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006.創造主、言葉を濁す

「私フレヤ神教の神子が、破砕された扉、階段、台座の修理を求めます。セゾで払う事も可能ですが、その場合は職人の雇用費も含めますので一介の旅芸人が払えるものではないとご理解ください……それで、どなたが責任を?」

「この建造物に突っ込もうと提案したのは私なのだから、あの壊れた扉やらを弁償(、、)するのもまた私のすべき事だと思うのだけれど」


 卓の上で手を組んだ私がそう発言すれば、神子と名乗った青色長髪の女児が頷き、


「ええ、それが当然の行いで……」


 という言葉を遮るように、私の背後でフレヤが、


「それはならぬ」


 と答える。壁に背を預けている解体女児(アーネス)が震えた小さな声で


「こんなんありえない……早く解放して……」


 と言う。その呟きに、先ほどから部屋の隅で縮こまっている獣女児(ケムナ)が首を縦に振った。


 卓の中央に鎮座する、明かり代わりのフレヤ本体が、部屋全体を青く照らす。

 再び、部屋に深い深い沈黙が降りた。


 火のままだとフレヤの声が他の者にうまく聞こえないらしい。フレヤは若干物憂げな顔で、昔私が気まぐれに作った人間の身体に収まっている。だから今、フレヤは短髪青毛の凛々しい顔立ちをした女児だ。


 私達は今、フレヤがいた部屋とは別の、もっと狭い部屋にいる。青色長髪の……フレヤの神子と名乗る女児いわく平和的な会話をする(、、、、、、、、、)場所なのだとか。


 もっと具体的に言うと私達は今、今回の件についての議題、神聖なる場所をぶち破った『責任の所在(、、)を確認する』という会話をしている。


 はずなのだが……。


 問題は私がと言う。事実だ。

 するとフレヤが私をかばい、問題は自分にあると言う。

 それを聞いた神子が、あの部屋を管理しきれなかった自分の問題であると言う。

 旅芸人二人はうんざりした様子で、責任を取ると宣言した私が問題であると言う。


 するとフレヤが……堂々巡りだ。誠に不毛である。

 卓に肘をつくと、神子に凄まじい顔をされた……そらフレヤ、牽制するんじゃない。


 悩ましい事に、この場で認知されている(、、、、、、、)上位の者はフレヤだけだ。


 そのフレヤは私を庇う。

 神子はそれに納得しない。得体の知れない私に対して威嚇をする。フレヤの機嫌が急降下し、神子も私に対して憎悪の視線を向ける。


 私の口からは自然と溜息が漏れでた。

 話は恐ろしいほど進まない。


(おや)じさ……ごほん……あー、その、疲れてるのなら)


 休んで欲しい、フレヤがそう言葉にする前に、私は首を横に振る。


(いやいい、解決できそうな問題は早々に解決すべきだ。只でさえ山積みなのだから)

(むぅ)

(それよりフレヤ、さっきの口調は)

(人間は厳かな雰囲気(、、、、、、)を求めるからなぁ。面倒でいけねぇ……おっと)


「フレヤ神、愚かな私にお教えください。私は貴方様の側にお仕えする為だけに存在します。そも人の身に入るなど……高貴さを損なうものではないのですか」


 フレヤは人の身にあっても本体との感覚が繋がっているのだろう。

 一瞬燃え盛った火に驚いたのか、アーネスがガツンと背をぶつけた。


「この器は我らが父の創りたもうたモノである。そも、高貴さとは人間の感覚で測られたものだろう」

「は、はい……その……出すぎた真似を……」

「いやフレヤ、その器だけじゃなく人間という種そのものを」


 私が作ったのだが、と言う前にフレヤの手が私の口を塞いだ。拗れるから、という呟きが私の頭にふりかかる。

 十分に拗れていると思うのだが……私の疑惑の目線を、フレヤは見ないふりをする事に決め込んだらしい。


「そこな人間の言う通り、人間という種そのものも、我らが父の創りたもうた生き物。己を卑下するという行為は、父を愚弄するも同じ事。更に言うならば、そこな人間は我が呼び寄せた。これは必要なこと故」


 後半の言葉を聞き取ったアーネスとケムナが、えっ、という口の形をしたまま止まった。

 私も初耳なのだから、私と共にいた二人も驚くだろう。二人の不躾な目線に、私は苦笑いを返すほかない。


「そう、なのですか。今までかのような事は記録されておりませんでしたので……ならばフレヤ様、お答えください。一体、何故私ではなくその人間を『お選び』に……」

「我らが父の、目覚めの確認が為」


 確かに嘘は言ってない。今から起こる事なのか、既に起こった事なのかは、あえて言うつもりは無いようだが。


 含みを持たせたようで実は事実だけを語った言葉に、神子と芸人女児二人が息をのむ。

 何だか申し訳無い気分にさせられるのだが。


「父……創造主様が!?」

「さよう。そして我らが父は、父の創りたもうたかの地の再生を望ん……でおられる」

「この世界の、再生ッ」


 フレヤの言葉に不自然な間があったが、私の心を確かめた為だろう。

 それより気になったのが、女児達の顔色がフレヤ並みに真っ青になったことだ。女児達が各々の考えをまとめているうちに……私は背後のフレヤに疑問をぶつけた。


(何か勘違いが発生してはいないか?)

(あっ、悪ぃ親父様。人間達の再生って、ぶっ壊すって意味もあるんだった)

(となると、まさか彼女達はハコニワの破壊ととらえたのか……そ、それは私でも涙目になるぞ……)

(う、嘘は言ってねぇよ?!)

(だがなフレ……)


「その……創造主様のお目覚めを遅らせる事は不可能でしょうか?」


 震える声で神子が問うた。その瞬間にフレヤと二人して肩を跳ねさせたところを見られてないと良いが。


「不可能」


 誠に遺憾であると付け加えそうな、ぶっきらぼうな声でフレヤが応答する。

 それもまた嘘ではない。目が冴えた私がここにいる限りは。いや、しかし本来話し合わなければならない話題からは遠ざかっているような気がする。


「お教えください……ハコニワの再生まで、私達に残された時間を!」

「………………我らが父の思うがまま」


 残念ながらそれは、私にも分からない。


「ならばせめて、私達にできる事はないのでしょうか!」

「………………」


 フレヤ、そんなに急に、やってほしい事はないかと問われても困るのだが……あ。

 やってほしい事。ここの扉をぶち破る羽目になったそもそもの原因である、あの訳のわからないものの解明、とか。


「青紫色の塊、いや、あの生き物の事なのだけれど」

「シィリヤの事ですか、それが今の話と何の関係が」

「神子、遮るな」

「は、はいっ」

「……えっとだね。シィリヤとやらは、わた……創造主が創ったものではないから本来ここにいてはいけない存在だ。だがアレは存在している、それも生き物として。だからアレが今の(、、)ハコニワの問題そのものであると見ている。だからね、あれが奪ったであろう魂と場所を、本来の種に戻してやれば」

「世界を再生させる必要がなくなる!」

「あぁ、うん、まぁ……」


 最初から壊すつもりはないが……。


「創造主様も目覚める事はない!」

「あ、いや、うぅん……」


 フレヤ、君専属の神子が暴走しているぞ。


 当のフレヤも頭を抱えたいのを必死に堪えているようだから、責めるのは酷か……。


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