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002.創造主、裸体になる

後半の内容的に、子供が産まれる仕組みが『コウノトリ』によるものだと思う純粋な少年少女は、回れ右してくださいね。


 私の意識は消失した。


 はずなのに。


「何故だ!!!!」


 叫びながら、私はガバリと起き上がった。


 どうも私は、枝の上で伸びていたらしい。それも、生まれたての子供達がそうであるように、私も何故か生まれたままの姿で。


 ここがハコニワの中であるのは間違いない。それも木が密集する地形。管理区に木はないのだから、ここがハコニワであるのは疑いようがない。


 だが、私がここにいるのなら、ハコニワは。


 慌てて周囲をみたが、大地や空におかしな亀裂や規則性が追加されたところは見られない。表面上は、だが……。

 この場合最もおかしいのは、私の方だろう。私という存在は消えて無くなったはずなのだ。プロセスが甘かったのだろうか。


 いや……こんなところでいくら首を捻っても仕方がないだろう。


 私は味のある空気を思いきり吸い込んだ。


「すぅ……うぇっ、げほげほげっほぉッ」


 気合を入れすぎて噎せた。再度控えめに空気を吸う。


「すぅ……よし……サーブ!!」


 反応なし。音がほんの少し反響しただけだ。

 皆とリンクは切れているので、近くにいなければ声は聞こえない。

 私はまた声を張り上げた。


「ウォルテ、フレヤ、えーっと……メイ!」


 これも反応なし。手当たり次第に子供達の名前を叫んだが、やはり反応はない。この付近に神がいないということだろう。


 しかしそれはおかしい。


 私は多くの神に、ハコニワの中で原因を探るようにお願いした。ウォルテのことだ。探す場所が被らないよう、範囲を決めて担当を割り振ったはずだ。

 ならば一人くらいは……そこまで考えて、私は腕を組んだ。そして、私の意識が途切れる前の光景を思い出し、吐息を漏らす。


 あの場に、神のほぼ全員が集合していた。飛べない者はともかく、あそこにはウォルテやフレヤもいたのだ。追跡以前に、私を回収することだって出来たはずだ。


 だが私はここにいる。たった一人で。


 ならきっと子供達はあの直後、私を回収できないような状況に陥ったのだ。助けを求めているのはあの子達かも知れない!


 私がぐっと足に力を入れると、ぺきっという小気味いい音と共に落下した。それもかなりの高さだ。ハコニワの生き物なら即死していたかもしれない。


 私はどうも枝の耐久力を過信していたようだ。ついでに頭の耐久力も。

 後頭部が痛い。腐葉土と競り合った自らの頭を触ると、ぬるりと生暖かい何かが触れた。見れば、それは赤い血だった。


「れ、れ、私が、怪我を負った?」


 思わず声に出してしまった。


 私は創造主。神と同じ、不老不死だ。私は自らを壊すことができるが、その過程で生物的に血を流したり中身をぶちまけるということはない。そもそも創造主としての私には血はないし、中身がないのだから。


 とすれば今の私は、肉の器に入っているということだ。

 自然に受け取っていたが、考えてみれば痛みというのも肉の身体が出す警告だ。


 どうしたことだろう。いよいよ状況がわからない。


 私は創造主……のはずなのだが……私は唐突に不安になった。


 私は確かに万能ではないが、それなりの力は持っている。ゆっくりではあるが地形を無視して宙に浮くこともできるし、頑張れば新しいものを創造することもできる。物を破壊するのはもっと簡単だ。


 私は息を飲んで、管理区に向かって飛び……地面に着地した。私は一切ふざけてなどいない。


 なんてことだ、宙に浮いていられない!


 創造する……のは時間がかかる。なら、物を破壊する力は。


 私は、自らと一緒に地面へ落ちた枝を何とか持ち上げた。私の背丈以上ある枝だ。枝一本持ち上げるのがこんなに困難だとは思わなんだ。


 持っていられないので、それを巨木に立てかける。


 モノを破壊するのは簡単だ。そのモノの存在を支えている『芯』を取り去ればいい。私が枝に目をこらすと、枝の中心に一本、太くて短い線が見えた。

 気合を入れて差し込まれた私の指は、枝の中に違和感を持って貫通する。これであとは芯を引っこぬ……けない。


 芯には触れられたが、芯はピクリとも動かなかった。


「ぅえ?」


 我ながら間抜けな声だが、責めるものはどこにもいない。この分だと、ものを創造する力もないに違いない。


 枝から指を抜けば、違和感は消え去った。何といえばいいか……そう、枝に拒まれているような感じだ。


「困った……いよいよ困った」


 子供達がいるかもしれないハコニワの中で、泣き言など言うべきではないことは分かっている。

 だが、正直こんな状況は創造主のネットワークの中ですら聞いたこともない。


 私は管理区に目を向け、盛大に溜息をついた。無くなってしまったものは仕方がない。

 少ない資産で上手くやりくりするのも創造主たる私の腕の見せ所か。


 首を振った私は、裸体のまま森を歩き始めた。


 そして、歩き始めて間もなく舗装された道に出たが、果たして運がよかったのか悪かったのか。



「う……はっ」

「やだ、やだやだやだぁ!!」

「……痛、痛い辞めてやだぁ!」


 道に出てすぐ、生き物の気配を感じて振り向けば、道のど真ん中で何故か数多くの人間が生殖行動をしていた。


 問題があるとすれば、わざわざ自らが作った道に大きなガラクタを置いていることと、女児の方が嫌がっているように見える点か。


 私に背を向けているていなので男児の方は気がついていないようだが、女児は私の姿を見て息を止めた者もいた。どうやら私の姿は普通に見えているようだ。


 これらの行動は理解できないが、しかし私の姿が見えているならやれることはあるだろう。


 この場において裸の人間はいない。何故か皆、服を着ながら生命繁栄の仕事に勤しんでいるようだ。仕事がしにくいだろうに。

 私は服を一切まとっていないが、むしろこの状況下では馴染むかもしれない。そう考えた私は、一番近くにいる男の肩を叩いた。


「そこな男児、少し良いかい?」

「まてまて、この女が終わったら……あ?」

「男児、神を知らないかい?」


 顔だけ振り向いた男児は、口をパックリ開けて止まった。答えが聞ける前に……なんと間の悪いことか、女児の方が肘で男児を殴打したようだ。質問をした男児の方は地面にポックリと倒れた。


 男児が倒れてしまったのなら、女児の方に聞けばいいか。そう思って声をかける前に、女児が素早く立ち上がってそばに落ちていた刃物を手に取った。


 流石に刺されると不味いので一歩下がったが、女児は他の男児を解体しに行ったようだ。

 間も無く、辺り一面が真っ青になる。


 彼ら人間の血は青い。私の血は赤で、区別するために神の血は赤紫だ。彼らの中にうっかり神が混じっていたということはなさそうで安心だ。


 しかしながら何故、女児は男児を解体するのだろうか。これが彼らの定めたことなら尊重するし文句はないが、しかし分からない。

 まったく理解できないが、私は腕を組んでこれを待つことにした。


 と言っても、体感的にあまり待った気はしなかった。謎の繁殖行動と解体作業は速やかに終わったようだ。


 やがて、解体に勤しんでいた女児が私のところまでやってきた。青い血にまみれた手の中には、先程男児を解体した器具が握られている。


 私はもう半歩下がってから、焦りの滲まぬ声で平坦に告げた。


「その手の内のもので刺してくれるなよ?」

「刺しはしないわ。そのかわり」

「うん?」

「殴るわね」


 その瞬間、あまりの怪音に、驚いた鳥が飛びたったのが見えた。


読了ありがとうございます。

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