姑息な女?の話。
姑息な女?の話。
私は学生時代はよく夕飯の手伝いをしていましたが、あまり自分から料理をすることは無かったのです。常に母がいましたし、簡単なカレー等の料理とかならともかく、メインとなると違います。
本当にあくまでもお手伝いでした。
仕事に就くと、私の立ち位置に弟がいました。おそらく忙しい母を見かねたのでしょう。
私が帰る頃には夕飯は出来ていましたから、私は後片付けを主にしていました。
なのでたまの休みに簡単なお昼ご飯を作るくらいでした。
そんなだったので後に旦那様になる彼が、
「料理はしますか?」
と言った時には心臓が止まりそうなほど動揺したのです。
格好良く、
「勿論得意ですよ」
などとは言えませんし、全然作れないかといわれればそうではありません。
まさか後片付けは物凄く得意ですなんて言えません。
そして、嘘もつけません。付き合ってそんなに時が経ってはいないとはいえ、何となくこの人に嘘をついてもばれてしまうという、直感が働きました。
「えっと、少しは、……出来ますよ。ふ、普通かな……?お菓子とかも時々作ったりしますよ……?」
怪しいくらいしどろもどろになりました。目を合わせられません。
「そうですか」
と彼は言います。一体、どう思ったのだろうと気にはなりましたが、墓穴は掘りたくはありません。
その後、話題が変わったのでほっとしたのは内緒ですが、きっと彼は気付いていたのではないでしょうか。
後に、旦那様にご飯を作った時に言われました。
「よかった。ちゃんと作れてるじゃないか」
どうやら不味いものが出てくるのではないかと、かなり覚悟していたらしいのです。
「まあ、普通でしょ」
私は謙遜でも何でもなく、事実を述べました。うん、可もなく不可もない普通の夕食です。内心ドキドキして『不味いものを食わせるなんて酷い女だ』とか言われたらどうしようかと考えていたのは秘密です。
「仕事してたし、料理出来なくても仕方がないと思っていたんだ。嫁にきてから頑張ればいいってね。だから安心した」
考えてみればお付き合いをしている時でさえ、何処かに行くにしても近場でした。手料理はおろかお弁当も作った記憶はまるっとありません。
なんたるチャレンジ精神でしょうか。もし私が全く料理が出来ない女だったらかなり恐ろしいことになったはずです。
……勇者様がここにいました。
良かった。自らハードルを高くしておかなくて。と、過去の私を誉めてあげたくなりました。