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経験した事の無い疲労のせいで、倒れ込みそうになった俺を悪魔は優しく抱きとめてくれた。



「…た、たすっ……た…すけ…て。」


上手く酸素を取り込めず、呼吸もままならない中、俺は必死に悪魔に乞う。



悪魔は、早口に話し出した。


「ここに、紙とペンがある。」


その間にも男の足音は近付いてくる。


「ここに君のサインが欲しい。」


悪魔が持っているのは、きっと契約書だろう。


「ここに書いてある内容は…」


悪魔が説明している途中で、俺は悪魔から契約書とペンを奪い取った。


…何でも良かった。例え得体がしれなくても、幻だとしても、差し出された手には所構わず全ての手にすがりたかった。


俺は、すぐにサインした。…目でサインする場所を認識することが出来ないので、ここだろうって所に当てずっぽうで。



…悪魔は、俺の迅速な行動に驚き、何も言えないようだった。



俺は、悪魔の目の前に紙をつきつけると、


「こ…これで、いっ…いんだよ…ね?」


と、乱れた呼吸の中、聞いた。


…聞き取れただろうか?




悪魔が、


「ぇ、ぁ。…そうだけど。」


と、言ったのとほぼ同時に男が姿を現した。


全身が恐怖に支配され、体は硬直し、顔は蒼白になった。

喉の奥が、ヒュッと鳴った。…過呼吸なんてなっている場合じゃないのに。



「落ち着いてっ!」


悪魔はそう言うと、何か呪文を唱えた。

何度か聴いたことのあるその呪文は、やはり回復の呪文で、俺の体は一瞬にして全快した。


体力が回復し、気持ちに余裕が出来た事により、俺は冷静になった。



俺が今、生きる為にすべき事…。

…この男を殺すっ。



数時間前までは、殺生などとは無縁な平穏な生活をしており、蚊を殺す事にすら罪悪感を覚えていたのに…。


“生きる”という本能の怖さを感じつつも、やはり俺は冷静で。

悪魔と賭け事をした段階で、腹はくくったのだから、躊躇うのは今更じゃないか、と考えた。



俺は、悪魔にこの場とは不似合いな笑顔で、


「ありがとう。」


と、言った。


悪魔は、何を感じたのか、そんな俺を見て息を飲んだようだけど、そんな事気にしていられない。


俺は、男の方に向き直ると、


「…殺してやる。」


と、小さく呟いた。


本当に小さな声だったが、異次元故にか、不気味なほど静かなこの部屋では男の耳にもしっかりと聞こえたらしい。



男が鼻で嗤うのが、聞こえた。



俺の頭の中は、この男を殺すことで一杯になっている。

今までの命がけの追いかけっこによって、男に植え付けられた恐怖が残ってはいるものの、明らかに殺気が勝っており、恐怖はもはや程良い緊張に成り下がっていた。



俺は、この部屋に何故か置いてある事務用の長机に目をやった。…見えないのだが、見えた時の名残りで、そう言う仕草をしてしまう。


シンプルで軽そうな長机。

こいつを使ってあの男を殺そうと、男が俺に近付こうと足を踏み出す瞬時に考えた。




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