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俺は、再びあの男に追いかけられていた。
2つ目の部屋が消えた後も、やはり男はそこに居て、俺の事を諦める気などは無いらしかった。
初めこそ、なぜ自分が追いかけられているのかわからず、理不尽に思っていたが、今はもはや理由などはどうでも良く、ただ自分を殺そうとしてくる男が憎くて仕方が無かった。
…殺らなければ、殺られる。
俺に残された結末なんて、俺が死ぬか、あの男が死ぬか、のどちらかしか無いって事に、俺はもう気が付いていた。
でも俺には、やたらガタイのいいこの男を倒せる力なんて持ち合わせていない。…エンディングは、初めから決まっていたのかもしれない。
「悪魔と賭けなんか気軽にしやがってぇええ!!バカめがっ!!」
男は、後ろから叫んでくる。
精神的に追い詰め、体力を無駄に削らせる気なのだろう。
わかってはいるが、そんな大きな声で言われたら嫌でも耳に入ってきてしまう…。
「悪魔との取り引きは地獄行きと相場が決まっているのになぁっ!!」
…聞きたくない内容も。
……別に、知らなかったわけじゃない。
ただ、生きる為と言い聞かせ、目を背けていただけだ。
俺は、どうしようもない不安を抱えつつ、見えない目で必死に走った。抗えない運命に逆らおうと。
…先ほどから、俺は逃げる為に段々と上へ登って行っている。
逃げるなら、下に行かなければならない事くらいわかってる。
でも、進む先々には上へ登る階段しかないのだ…。
もしかしたら、あの男は俺を確実に殺す為に、わざとここへ誘いこんだのかもしれない。
それでも、生きる為にはがむしゃらに逃げるしか道は無く、その先には破滅しかないとわかっていても、俺は走る。
目の前に現れた階段を俺は迷わず駆け上がる。…後ろで男が小さく嗤った気がした。
登り切ると、切羽詰まった声がした。
「はやくっ!!」
俺に向けられたその声は、紛れもなくあの悪魔の声だった。
俺は、藁にもすがる思いで、悪魔の声のする方へ全力で走った。