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「目、開いていいよ?」


呪文を唱え終わった悪魔は言った。


俺は、恐る恐る目を開いた。


もちろん、視界に何も映らない…と言うよりは、ずっと目をつぶっているような感じで開いた気がしない。



「見える?」


悪魔は少し嗤いながら言った。

見えるわけが無いのに。


「……。」


悪魔の意地の悪い質問に、俺は答えなかった。


悪魔は、ふふっと笑った。

その笑いは、嘲笑ではないようだったが、俺は頭に血が登っていくのを感じた。

…目には涙が溜まっていった。


俺は、涙が悪魔にバレたくなくて顔を逸らした。



悪魔は、その行動が気に食わなかったらしく、荒々しく俺の顎を掴むと、無理矢理自分の方を向かせた。


目が見えないから、悪魔がどんな顔をしているのかは、わからないけど、悪魔は少しの間、何も言わなかった。…視線はしっかりと感じた。



「…目が見えないのが、そんなに嫌?」


悪魔は、そう言った。


嫌に決まってるけど、素直にそう言ったら悪魔はもっと機嫌を損ねる気がしたから黙っていた。




「…ふーん。そう。」


黙っていたのに、どうやら悪魔の機嫌を損ねてしまったらしい。

素っ気ない言い方から、不機嫌さが染み出ていた。




「…じゃあ、もう賭けも終わったことだしさ。」


悪魔が何を言わんとしているのは、“賭け”の言葉を聞いただけでわかった。


俺は自分の体から血の気が引いていくのを感じた。

今の俺は疲労しきっている上に目が見えなくなってしまった。

さっきは、悪魔は体力を回復してくれたけど、今回は悪魔の機嫌を考えると…してくれそうもない。



もし…この状態のまま、あの男の前に出されたら、俺は…きっと……。




「…この部屋も消そうか。」


「っ!?」


悪魔の口から出た予想通りの言葉に、俺は息を飲んだ。


今、この部屋を消されたら…。




「ぃ、嫌だ。…やだ!!」


考えるより先に声が出ていた。


悪魔は、とても驚いた顔をしている。



呆れるだろうか?気持ち悪いって思うだろうか?



それでも、俺は手探りで悪魔にしがみつくと泣きながら必死に懇願した。


「お願いぃ…お願いだからぁっ!嫌だぁ。…死にたくっない…よっ。こわぁっ……怖ぃ。」


泣きじゃくる俺は、さぞかし汚い事だろう。




悪魔は、何も言わない。目が見えないから、どんな表情をしているのか、見る事も出来ない。

それが、ただひたすらに怖かった。





…しばらくして、悪魔は静かに、


「ごめんね。」


と、言った。



そして、泣いたせいで赤く腫れたであろう俺の瞼の上に、優しいキスを1つ落とした。


その刹那、俺の体力はまたも異常なほど回復した。

それと同時に、視覚以外の五感が、まるで視覚の不自由を補うかのように発達したのも、確かに感じた。



俺は、突然の出来事に驚き、泣くことも忘れ、ぼーっとした。

そんな俺に、悪魔は優しく囁いた。



「目が見えなくても、普通に生活出来るようにしておいたから。…あの男から逃げれるように。」



その次の瞬間……部屋が消えるのを、なんとなくだけど感じた。




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