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正直、男同士での行為がこんなにもキツいものだとは、思っていなかった。
精神的にではなく、体力的に…だ。
悪魔があまりにも美しい顔をしていたせいか、悪魔とのキスなどの行為にさほど抵抗は無かった。
現に、悪魔のキスは気持ちよく、比喩とかでは無く悪魔の唾液は甘かった。
鎮痛剤とかほざいてた変な呪文のせいで、いつもの何倍を敏感になり、後半は理性なんて何処かに飛んで行ってしまっていた。
虚ろな意識の中で、色々と恥ずかしい事を口走った気がしなくもないが、断片的な記憶の為、それが現実か判断しにくい。
…現実じゃなかった事にしておこう。
ふと、悪魔を見る。
美しい姿をした青年は、ついさっきまでは狸寝入りをしていた俺の頭を優しく撫でていたのだが、俺が起きた素振りを見せた途端、部屋の隅でタバコを吸い出してしまった。
素っ気ない態度を取る悪魔だが、行為後に体を綺麗にし、服を着せてくれていたようだ。
優しさの理由はわからないけど、正直助かった。
悪魔は、何気無い仕草の一つ一つが異常なほど妖艶で、嫌でも人間で無い者と行為をしたことを自覚させられる。
はたして、悪魔とあんな事をして大丈夫だったのだろうか?もう、遅いのだが。
俺の視線に気づいたらしく、悪魔はこっちを見た。
「じゃあ、賭けはもう終わったし、この部屋も後15秒ほどで消えるかな。…まぁ、あれだ。検討を祈るよ。」
悪魔がサラッと放った言葉は、俺をドン底に突き落とした。
…え?今、なんて?
この部屋が消える?
「あ、大丈夫、大丈夫!消えるって言っても、元の廊下に戻るだけだから。」
それでも、困る。
だって、きっとまだ廊下には…
「うん。居るだろうね、あの男。」
悪魔はいつからか、憎たらしいニタニタ笑いをやめていた。
代わりに爽やかな笑顔を浮かべる。
その爽やかな笑顔が逆に不気味なこの状況でも、悪魔は俺に爽やかな笑顔を向ける。
「頑張ってね?」
悪魔は、そう言って俺にキスをした。
その瞬間、体の疲れが全て消え去り、いつに無いほどに体の調子が良くなった。
驚いて悪魔を見つめると、悪魔は、ふふっと柔らかく笑った…気がしたが、一瞬で消えていた。
周りの景色が綺麗な部屋から、汚い廊下に変わり、ハッとすると、先ほどまで壁があった場所らへんに、あの男が立っていた。
待っていた、と言うようにニヤリと嗤う男を見て、俺は全身の毛が総毛立つのを感じた。
俺が逃げ出すのと、男が再び追いかけて来たのは、ほぼ同時だったように思う。