19
「え?ス、キ?……俺、悪魔、なんだけど…。」
“あり得ない”。
悪魔の顔には、そう書かれていた。
わかっていたけど、やはりズキリと痛む。
もちろん、そんな痛みは無視する。
「…だから?」
悪魔を好きになっちゃいけないわけ?
「……ぇ、えーっと。」
しどろもどろしながら、何処かおかしな様子の悪魔。
どうやら、俺の告白がまともに頭に入って来てないようだ。
向き合う気が無いなら、さっさとフってくんないかな。
…真面目に考えて、なんてわがまま言わないからさ。
しばらく、と言っても3分ほど、待ってみたが、一向に変化が見られない。
悪魔は、壁から壁へと視線を移しては、ごにょごにょと考えている。…俺の方は見ない。
「…わかったから、もういいや。」
俺は、悪魔にそう言った。
「…え?」
驚いたような顔して、俺の方をやっと見た悪魔。
「…何、が?」
なんて聞いてくる。
わかったのは、お前が俺を好きは疎か、そういう対象で見てくれる気もないって事と。
思っていた以上に俺は脆いみたいだから、ハッキリと“嫌い”なんて言われたら、きっともっとオカシクなるって事。
「ぁ、あのさ。……俺は自分の気持ちを中々知る事が出来なかったんだけどさ。いや、気づけなかったって言うのかな。……今、やっとわかったんだ。しっかりと“君”を見て。」
そう言う悪魔の顔は、凄く真面目で、真剣。
その美しい瞳は、再び冷静さを取り戻していた。
反比例するように、今度は俺の瞳が揺れる。
「…俺は、君の事が…」
一語一語噛みしめるように、刻み込むように、逃げられないように、ゆっくり、しっかりと言う悪魔。
悪魔が何を言おうとしているか、なんてわざわざ口に出してもらわなくてもわかる。
聞きたくない!
“自分”を守るその言葉は、声にならず、悪魔の声を遮る事は出来なかった。
耳を塞ぐ事も、その場から逃げる事も出来ず、俺の体は静かに悪魔の言葉を聞くしかなかった。
「…好きっ……だ、よ。」
悪魔が告げた、その言葉は、耳に飛び込んで来たものの、すんなりと頭にに入る事はなかった。
「…ぁ、え?」
す…………き…?
スキって、好き?魚とかじゃなくて?
嘘だ!
あり得ないっ。
だって、悪魔は…。
でも、悪魔は…。
だから、悪魔は…。
俺は、軽いパニックになっていた。まぁ、アタリマエの事。
「気づくの遅くてごめんね。」
と、悪魔は言ったけど、やっぱり俺は悪魔が口にした“好き”を信じられない。
すっかり、捻くれてしまった俺は、疑い深くなっていて。
信じられない。信じたくない。
捻くれた頭で少し考えて、導き出した結論は……。
「…“好き”の意味知らないでしょ。」
俺は、それだけ言うと、また泣き出してしまった。
今度は、ポロポロと小さく。
苦しくて、苦しくて。
本気の“嫌い”と、嘘の“好き”って、どっちが辛いんだろう、なんて思った。