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「……ぇ?」


俺は、目の前の光景と、さっき聞いた言葉が信じられない。



なんで、この人、泣きそうなの?

何に怒ってるの?


…俺なんて見たくないんじゃなかったの?



俺は、悪魔が好きで。悪魔は、俺を好きじゃない。


散々思わせぶりな事して、何度も俺に期待させて、結局は突き落とした…のに?



“シナナイデ”って、ナニ?



「…何言ってんの?」


ナニ、イッテンノ?と、俺は悪魔に言う。

さっきまで泣きじゃくっていたのが嘘みたいに、言葉はハッキリとしていた。


悪魔は、辛そうに顔を歪める。


「ごめん。」


謝罪なんてイラナイんですけど。なんて、思っても口には出さない。

だって、きっとわからない。届かない。


そう。余計な事は言わないって決めてた…のに。



「…俺の嫌いなのに、なんでそんな事言ったの?」


唇の隙間から滑り落ちるように零れた言葉に、数秒遅れてハッとした俺は、慌てて口を噤んだ。


けれど、時既に遅し。一度、野に放った言葉は取り戻せない。

俺よりも更に数秒遅れて、悪魔の脳にも俺の言葉が届いたらしい。



「…き、嫌いって…?なんで…。」


悪魔は、何処かぼんやりと俺を見つめる。

俺は目をそらした。


…聞こえなくて良かったのに。



悪魔は、目を忙しなく宙に泳がせてから、もう一度俺を見た。


期待させるような真剣な眼差しを、思わず目で受け止めてしまった。



「…だって、」


魔力のある妖艶な悪魔の瞳のせいか、墓まで持って行こうと思っていたモノが口からポロポロと零れ落ちた。


「……俺の事、見たく、ないって…。」


その言葉を口にするだけで、その事実を再確認するようで、辛くて辛くて、また目から涙が出そうになった。

身体中の水分を絞り出してでも、溢れて来そうな液体をグッと抑える。


「そ、それはっ!」


慌てて遮る悪魔の声も聞かずに、俺の口からは零れ続ける。俺の意思とは無関係に。

…いや、心の何処かでは望んでいた事かもしれないから、無関係と言うわけでは無いのかもしれない。




「……俺は…、お前…の事がぁ、……好きっ…なのに。」



そう言ってしまった途端、正気に戻った俺は、思わずあからさまに“しまった”と言う顔をした。


でも、そう後悔する事でも無いと、思い直した。



だって、俺はもう死ぬのだから。



フラれようが、引かれようが、俺が死んだ先に待ち構えているのは、きっと地獄だ。

そんな(たか)が1つの恋愛の傷みなんて、地獄の辛さですぐ忘れるだろう。


もう終わるんだ。


そう思うと楽だった。


本当に。嘘じゃない。

嬉しい。辛くない。



…俺は、何も言葉を発さない悪魔を見つめる。


一応、俺は“告白”をしたのだから、返事をくれたって良いと思う。

簡単な事。さっきみたいに、“ごめん”と一言、言えばいい。



何かを喪失したような、見失ったような顔をして、呆然と立ち尽くしている悪魔を、俺は見つめた。

気長に待ってやる気は無いが、だからと言って急かす気にもなれず、俺は見つめた。




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