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俺の言葉を聞いて、悪魔は弾かれたように勢い良く顔を上げた。



…こいつ。

なんて顔してんだよ。


ツキツキと、地味に痛む胸を思わず、手で圧迫するように強く抑えた。



「…出来ない。」


悪魔は、今にも涙が溢れそうな瞳で俺を見つめながら、震える唇でそう言った。


そして、


「…でも、君の記憶を…、消す事は出来る。罪は拭えないけど、あの男と俺に関する記憶を消して、今まで通りに生活を送れる。」


と、続けた。



悪魔の顔は、焦っているように見えた。

“急ぐ”と言う感じではないようで、“追われる”と言う感じでもないような…。なんと言っていいかわからないが、とにかくそう見えた。



「…君が俺を殺した後に、君は記憶を失って自宅で寝ているようにする。……これでどう?悪夢のような記憶から逃れられるし、理不尽な契約も破棄される。」


悪魔は、俺に微笑んだ。

冷や汗のような物を流し、涙目で微笑む姿は、とても異様。…それでも、悪魔は妖艶に美しかった。



俺がもう一度、“殺して欲しい”と、言おうと口を開いた時、悪魔は小さく


「それに、これ以上君を見たくない。」


と、言った。


吐き捨てるように悪魔の口から出たその言葉は俺に、とても言葉では言い表せないような衝撃を与えた。



浅はかで愚かで自意識過剰な俺は、心の奥底…いや以外と浅い所で、勝手に思い込んでいたようだ。


“自分は悪魔に少なからず好かれている”と。



「…っ!!」


全身を引き裂かれるかのような痛みに、俺の心の存在が確かである事を感じた。



俺の目からは、“涙”なんて綺麗な物ではなく、ちゃんと涙液になっているのかもわからない液体が、ボタボタと後から後から押すように流れ出た。



「えっ?!」


悪魔の驚いた声も遠くのモノのように聞こえ、どうでもよかった。


目の前には…本当にすぐ近くに悪魔が居る。

俺には、気にする余裕がなんてない。



この目から溢れ出す液体は、俺の意思で容易に止められるような物ではないみたいだった。

拭う気も失せた俺は、ただ垂れ流した。



何か喋ったらもっと出て来る気がしたし、何よりまともに喋れるとは思えなかった。


でも、俺の口からは切実な“願い”が零れ落ちる。


「……っ、ころ…してぇ。…ころっ……し……。」



真っ直ぐ悪魔を見て言っているのだが、目から流れる液体のせいで、悪魔の表情はぼやける。



スッと何かが伸びて来たと思ったら、それは悪魔の手で。

悪魔の手は、俺の頬を伝う液体を必死に…でも優しく拭った。


やめて欲しいのに。

全部終わりにしたいのに。



俺の目からは、更に液体が溢れ出す。

こんなにも液体を出して大丈夫なのか、と心配になるほどだが、いっそ脱水症状で死ねたらいいか、と思った。



俺は、悪魔の手を払った。

手が少しジンジンする気がするから、相当強く叩いたようだった。


「…ころっ…して、よぉ…。」


俺がすがるように言うと、悪魔は、


「…っ!嫌だっ!!死なないでっ!」


と、叫んだ。


その声から嫌というほど感じ取れる切実さに、俺はとても驚いた。

そして、その衝撃で涙は止まった。


目に溜まったままの涙を乱暴に拭い、悪魔の顔を見れば、悪魔は険しい表情をしていた。

その顔が、俺には今にも泣き出しそうな顔に見えた。




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